U -THE BOND-
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                               きさし
十月も霜降が近づき、冷たい風がサッカー焼けした葵矩の髪を揺らした。
秋の朝日を浴びて、家をでた。
冬の選手権、公式戦の開幕。

 「おはよ。」

 「おはようございまーす。」

今日も元気な顔が揃っている。

 「一時はどーなるかと思ったけど、レギュラー揃ってよかった良かった。」
                         いおる
間新たしいユニフォームに身をつつんで、尉折はウォーミング・アップ。

 「本当ですよねぇ。」

 「誰のせーや、誰の。」
       るも
間延びした流雲の声にすかさずカフスが突っ込んで――、

 「なにゆってんですか。お互い様でしょ。」

 「なにゆうとんのや、ワイは一教科だけや。」

 「一教科も四教科も変らないじゃないですかぁ。」

相変わらずの言い合いに、静かにしろ。と、葵矩。

 「皆見てるんだぞ。」

溜息を一つ。
どうにか追試を突破した五人。
晴れてイレブンが揃った。

きっと、監督はサッカーも勉強もおろそかにするなといいたかったんだ。と、勝手に解釈して秋の高い空を見上げた。

 「見ろよ。報道陣もすげー来てるぜ。」

ユタが囁いた。

 「やっぱ、去年全国が効いてるよな。きんちょーしてきた。」
うか
窺は落ち着かない様子だ。
葵矩たち、三年にとって最後の公式戦。

 「さ、行くぞ。」

葵矩はウィンドブレーカーを脱ぎ捨てた。
腕のキャプテンマークを腕まくりする素振りで上へ上げる。

全国への一歩。
思いっきりいくぞ。

葵矩が気合を入れたところへ――、

 「そのまま行くつもりか。」

監督の低い声に我に返って、自分たちがパワーアンクルをつけたままだということに気がついた。

 「あ。」

毎日の練習でつけていたために、誰一人気づかないでいたのだ。
知らない間に重さに慣れていた。

 「うわー何か変。」

 「すげー軽い。」

皆、口々にいって、パワーアンクルをはずした状態で体を動かした。
本当だ。
葵矩も腿を胸に引き寄せてみる。

 「せんぱいせんぱい。ほら、こーんな身軽ですよ。」

流雲が子供のように笑顔で飛び跳ねている。
元から身軽だが、さらに磨きがかかったようだ。

 「さ、頑張ってきて!」

 「ファイトですよ!皆!」
じゅみ     つばな
樹緑と茅花に背を押され、イレブンはグラウンドの中央に駆け寄った。

 <さー、秋空高くホイッスルが鳴り響きました。全国高校サッカー選手権大会、神奈川県予選第一試合、S高校対、Y高校。>

実況を中継するアナウンサーの声が響いた。
                               ほしな     や し き
 <おっと、開始早々S高の速攻。六番、二年生の星等 夜司輝、みごとなスルーで前線へボールを送ります。>

すごく気持ちが良い。
葵矩はグラウンドの風を感じる。
         あすか   きさし
 <キャプテン飛鳥 葵矩、きっちりキープ。十番エースストライカーです。>

 「尉折!」

 「あいよ。」

風切って相手のディフェンスをかわして――、

 「飛鳥、一発かましてやれ!!」
                                 てだか   いおる
 <決まった!!試合開始わずか三分。飛鳥と九番、豊違 尉折のワンツーリターン、綺麗に決まって一対0。S高先制――!!>

 「ナイス!」

葵矩と尉折が手を合わせる。

 「何か、皆いいかんじ。活き活きしてますねー。」

ベンチで茅花。

 「本当ね。気のせいかしら。皆、笑いながらプレーしてるみたい。」

と、樹緑。
                    ちぎり あつむ              ふかざ   るも
 <快調、S高。トップに一年生の契 厚夢。中央に吹風 流雲と星等の二年生コンビ。若いオフェンスが揃っているが、キャプテン、飛鳥が巧くまとめているといった感じか。緊張の色は見えず、のびのびプレーしています。>

 「厚夢。」

軽いショートキックで、葵矩は厚夢にパス。

 「自分のもっていけるところまで行け!前を見るんだ。」

 「はい。」
                                  しばはた
 <超攻撃型、3−4−3システムをとっているS高。GKの柴端 カフスの期待が高いということでしょうか。>

ゲストのサッカー専門家に話を振るアナウンサー。

 <実際、柴端くんはブラジル生まれだと聞いています。十分に基礎はできているでしょう。今大会からスタメン起用で、データも少ないですから楽しみですね。>

 「皆、もっと広がっとき――!!行くで――!!」

カフスからのゴールキック。
前線まで届きそうな豪快さ。

 「すっげぇ。ばか力。」
たづ
鶴がボール勢いを殺してドリブル。
                ・  ・
 「しょーがないですよー。ひまなんですからぁー。」

フォローに流雲。
満面の笑み。

 <再び速攻!新生S高、余裕のある戦いです。>

 「だな。」

鶴も笑って、流雲にパス。
前からのスライディングも難なく交わして、前線ノンストップ。

 「流雲、ジャンプ力ますます上がったんじゃない?」

 「軽い軽い。飛んでいっちゃいそー。」

夜司輝の言葉におどける。
  えやみ
 「江闇先輩!」

窺へのサイドチェンジ。
              えやみ    うか
 <中盤レフト、五番、江闇 窺にボールが渡ってまたしてもS高、チャンス!>

 「契!前線くるぞ。」

 「はい!」

尉折の指示に厚夢がゴール前、ファーポストに走る。
葵矩が窺からパスボールを受けて、ディフェンスを抜いた。
綺麗に尉折に渡る。

 「おっしゃ、行くぞ。」

 <上がった――!ファーポスト見定め、豊違のセンタリング。一年、契が待ち構えます。さー、決まるかぁ――!>

尉折の完璧なアシスト。
厚夢が飛んだ。

 <入りました――!!二対0!>

 「ナイス、アシスト、ナイスシュート!」

葵矩が尉折と厚夢を激励。
胸が熱くなる。
葵矩は強い思いをかみ締めた。

俺、本当にサッカーが好きだ。


ハーフタイム。
皆、一様に高揚感で顔もほころんでいた。

 「すごいすごい、二対0。」

マネージャーがタオルや飲み物を渡してくれる。

 「すっげー身軽。」

 「本当本当、一秒くらい足速くなったかも。」

 「パワーアンクルのお陰ですね。」

夜司輝の言葉に、皆が寡黙を通している監督に向き直った。

 「ありがとうございます!!」

大声で礼をいった。
今までに無い厳しい練習。
ボールに触れない日々もあった。

暴風雨のマラソン。
浜辺の走りこみ。
皆、投げ出さずにやってきた。

辛かったが、試合に出てみて身にしみた。
とても役に立っている。


 「後半もこの調子でいくぞ!!」

 「お――!!」

 <S高二点リードで後半戦を迎えます。対するY高、どう攻め、どう守るか。>

 「こいこい。こっちはひまで力もてあましてんだから。」
いらつ
苛は軽くフットワークを始める。

 「おいおい、あんまはしゃいで抜かれるなよ。」

 「大丈夫やて。ワイがいるさかい。」

ユタのうしろでカフス。
わかつ
和葛も笑った。
                   みやむろ  わかつ
 <Y高ゴール前混戦。三番、都室 和葛、落ち着いて対処します。なんと一年生です。>

 「もーらい。」

ユタがスライディングでボールを奪い、体勢を整えた。
                 さわら
 <四番ディフェンスの要、沙稿 ユタ、巧みなスライディングでインターセプトだ。>

苛にパス。

 「前線いくぞ――!!!」
                        かがり  いらつ
 <柴端にも負けない豪快パス。二番、芳刈 苛。S高ダメ押し三点目なるか――?>

 「あいつもはりきっちゃって。」

窺はその様子に失笑して、フォロー。
       ミッドフィルダー    すみの    たづ
 <八番、MF、長身の主蓑 鶴。ワントラップで受けて風を切ります。>

 「さて。ダメ押しいきますか。」

にやり、余裕にクールに笑い、相手を鮮やかに抜いた。

 「飛鳥、任せたぞ。」

 「オーライ。」

 <エースストライカー飛鳥に渡ります!速い、速い伸びます!!ゴールへ一直線!!>

見えた。
ディフェンスの空間から、ゴールルート。
見逃さない。
葵矩の足からボールが放れた。

 <入った――!ダメ押しの三点目。後半四十分。飛鳥の決定的シュート!三対0――!!>

歓声が耳をつんざいた。
皆が、激励に飛びついたり、ガッツポーズをおくる。

そして――、

 <試合終了――、三対0。S高、二回戦進出決定!!>

再び大歓声がグラウンドを包んだ。
圧倒的勝利。
葵矩たちは思う存分試合を楽しんで、勝利を手にした。

その後。
S高は順調に駒を進め、一歩、また一歩と全国大会へと前進していった――……。


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※2005年以降、センタリングではなく、クロスと呼ぶ。