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夕食の時間。
し な ほ
紫南帆と女性陣の作った料理を運びながら――、
「でもさぁー、あの監督。マジでレギュラー揃わなかったらどーするつもりなんだろ。」
「やるんだろ。」
そのう のりと
弁に祝。
「でぇー、ちゃんと部活やってるってことじゃんよー!」
るも
流雲が頭を抱えた。
あすか
「ちゃんと部活やってても、飛鳥先輩みたいに勉強も出来る人いるんだから、ね!」
つばな
リビングに食事を運んだ後、お盆で流雲の背中を軽くたたく茅花。
痛い、と流雲は大げさに背中を反らす。
「でも、大丈夫さ!この僕が試合にでないで、全国なんかいけるわけがない!」
右拳を握り挙げる。
どこからくるのか、この自信。
皆は、無言で呆れた視線を送るが、事実、流雲に実力があるのは認めている。
そして、夕食も済ませ――、
「もちろん、泊まってく――!」
きさし
葵矩が泊まっていくかどうするのか、と尋ねると、勢い良く流雲が手をあげた。
や し き
見かねて、夜司輝が、迷惑だろう。と、申し訳なさそうに言う。
「だあって一晩中せんぱいに勉強教えてもらうんだもん。もちろん、愛のレッスンね。」
かわいく葵矩にウインク。
「あ、えーな、それ。」
・ ・ ・
カフスまで悪ノリをしてくるもんだから――、
「あのなぁ!お前っらぁ!!」
そんな光景を見ながら、
じゅみ
「樹緑ちゃんと茅花ちゃんも泊まっていけるでしょ。」
紫南帆は嬉しそうに、優しい笑みで促した。
二人は遠慮がちに迷惑じゃないの。といって、紫南帆の部屋へ案内された。
綺麗に整頓された東南の部屋。
「こんな機会なかなかないでしょ。逆に迷惑じゃなきゃ。私はとても嬉しいよ。」
こんな状況なので、友人を家に泊めることなど、滅多に無い。
本当に嬉しそうに紫南帆は、布団の準備をした。
その様子を見て――、
「……やっぱり、あたしなんか、かなわないや。」
茅花は独り言をいうように切り出した。
「最初からわかってたんですけどね。……先輩。あたしの目見て、はっきり言ってくれたから。……何かそれがすごく嬉しかったっていうか……。」
何気に布団をいじりながら続ける。
「先輩たちみたいに、前向きにいけたらいいなって。」
「……。」
紫南帆は黙って聞き、樹緑は微笑した。
茅花は、布団をひいてくれて、色々と世話を焼いてくれた紫南帆に礼をいって、布団にもぐりこんだ。
「さ、寝ましょう!」
照れ隠しのように、掛け布団を顔まで引き上げる。
今から半年程前。
茅花は葵矩に告白した。
しかし葵矩は、紫南帆が好きだ。と、正直に打ち明けたのだ。
詳細は、
春嵐を参照してください。
真摯な態度と、その後も普通に接してくれる葵矩を、ますます好きになった茅花だったが――、
「でも、もしかしたら、憧れてただけなのかもしれません。」
電気を消した後に、小さく呟いた。
「……他に気になる人ができたんだ。茅花。」
樹緑の鋭い指摘に、
「えっ、別に。そんなんじゃないです。ぜんぜんっ!」
声のトーンが不安定なる。
顔は見えないが、赤くなっているだろう事が想像つく。
樹緑は、失笑して続けた。
「隠すことないと思うな。良いことじゃない。」
語尾柔らかく、優しい口調。
「……なんか。今まで全然気にならなかったのに……急に男っぽくなったっていうか……でも、別に好きってわけじゃ……ただなんとなく……ですよ!」
声の強弱が心の動揺と同調する。
樹緑と紫南帆は優しくほほえんだ――……。
「なんか、去年思い出しますね〜。」
祝は布団を引きながら、全国大会のことを思いだした。
リビングの隣の客間。
九人など、ゆうに寝られる和室。
二間続きになっている。
「今年もいけるといーね。」
弁の言葉に、流雲が目の前で人指し指を振って、口を鳴らす。
「いくの、絶対全国制覇。ね、あすかせんぱい!」
「ああ。」
自信に満ちた顔で答えた葵矩に、
「全国かぁ。早くいきてーな。」
あつむ
厚夢は遠くを見るように言った。
皆もしばし、全国への希望に浸った。
・ ・ ・ ・
「そーいえば。あれから一年じゃね。や・し・きくん。」
祝がイタズラな笑みをし、
ま あ ほ
「あ!そうか。茉亜歩さんと付き合い始めて一年だ!」
弁が引き継いだ。
一瞬にして夜司輝の顔が真っ赤になった。
「へー、そーなんすか。ね、ね、先輩。もうやりました?」
厚夢がストレートに尋ねるのに、夜司輝は耳まで真っ赤にした。
葵矩と良い勝負だ。
いおる
「だって、一年でしょー。あ、そういえば、尉折先輩たちはぁ?」
わかつ
和葛も興味津々に乗り出した。
夜司輝は尉折に矛先が向いたので、胸を撫で下ろす。
尉折は――、
「そっりゃー、ねぇ。」
語頭にアクセントをつけて意味深発言。
「さっすが、天性の色欲男!」
「だれがだ、だれが!コノヤロ。」
そういった流雲のコメカミを拳骨で押さえ、ぐりぐりと回した。
「誰彼かまわず、欲情するわけじゃねーよ!」
「お、ゆうた。樹緑ちゃんだからか?」
些かおどけてカフス。
「あたりまえだろ!」
「えー、信じられないなぁ。誰彼かまわずそいこといってそー。」
「いえた。だって、先輩。去年の大会のときもナンパしたんでしょ?」
「あー、そうそう。」
流雲、厚夢、祝の信用しないぞ、との言葉に――、
「去年の俺とは違うの。」
「あ、じゃあもうナンパできないっすね。さみしーな。僕先輩と一緒に今年もやりたかったのになぁ。かわいーこたっくさん待ってると思いますけど、しょーがないですよねぇ。」
これ見よがしに横目で促す流雲に、
「それとこれとはベツ。」
にっこり尉折。
葵矩はこけるリアクションをして、何がどうベツなんだ。と、尉折を睨んだ。
せっかく見直したのに。と、心内で呟いて。
「ほら、早く自分の布団ひけ。」
枕を投げつけた。
「あ。僕、あすかせんぱいの隣とっぴ!」
葵矩めがけて、流雲が布団の上を転がった。
「ちょいまちい。あかん。ワイが許さんで。」
「なんでですかぁー!」
「なんでもや。」
流雲とカフスがにらみ合った。
勝手にやってくれ。と、枕を一つずつおいていく。
「俺、樹緑ちゃんのとこ、いっきたいなぁ。」
「ダメ!!」
尉折の言葉に過剰反応。
厚夢がすかさず、
「あ、飛鳥先輩。まさか、夜な夜な紫南帆さんの部屋いったりしてないでしょーね!」
疑いの目。
厚夢の言葉が深い意味を含んでいることを悟り、
「いっいってないよ!!//////。」
相変わらずの瞬間湯沸かし器を披露する。
「本当ですかぁ。あやしーな。」
「あやしーあやしー。」
「お前らぁっ、寝ろ!!!」
葵矩は、思いっきり残りの枕を投げつけた。
かくして、夜は更けていくのであった――……。
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