W -CONFESSION-
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  いおる
 「尉折。」
きさし
葵矩は尉折を呼んで――、
                かたぬぐ
 「この試合、必ずカフスに袒のシュートをとってもらわなきゃならない。前線、ゲームメーク。頼まれてくれるよな。」

 「え、おい。」

尉折のたじろう声に、葵矩は真剣なまなざしで頷いた。

――俺、ストッパーに入る。

皆も目を丸くした。
                 あすか
 「スッ……ちょっと待てよ、飛鳥。」

ストッパー。
シュートボールを最終的に止めたり、ゴールキーパーのはじいたボールをとる、いわゆるブラインドをするポジションだ。

 「ムリですよ。前半だって点とれなかったのに。」

 「そうだよ。お前がいないなんて。」

 「大丈夫。攻撃にくるよ。守りは前半より薄いはず。」

皆の不安な顔を前に、一息吸った。

 「予選決勝思い出せよ!!俺なしだって、やってこれたろ!!」

喝を入れ――、

 「カフス。集中してボールを見ろ。失点は考えるな。俺がうしろにいるから、ゆっくり見極めていい。ユタ、相手フォワードマーク重点に。」

 「……葵矩。」

 「お、おう。」

葵矩はてきぱきと指示をだし、フォワードからストッパーへ下がる。

 「皆で全国制覇するんだろ!!しっかりしろ!!」

 <さあ、試合開始です。……おっと、神奈川、キャプテン飛鳥、トップからはずれるのか?>

尉折たちがグラウンドに広がる。

 「ったく、すげーやつだよ。あいつは。」

尉折が微笑した。

 <何と、飛鳥、スッとパーに入るようです。袒のシュートを危惧しているのか――>

キャプテン、エースストライカー、そしてゲームメーク。
全てやってのけるマルチ・プレイヤー。

 「ほーんと。それを自分じゃ気づいてないところが飛鳥せんぱいですよねぇ。」
るも
流雲も笑って――、

 「よーし。いきますかぁ。」

 <神奈川、実状4-4-2システムですが、トップに飛鳥を欠いたのは、どうゲームに表れるか。>

 「カフス。自分を信じろ。取れる。必ず、取れるよ。」

今のカフスには、失点はプレッシャーだ。
見極めるには、あまりにも動揺しすぎてる。
大丈夫。
これ以上、点は取られない。
取られた点は取り返す。
そして、勝つ。

葵矩はカフスのすぐ側に構えた。
                     ・  ・
 「カフス。良く考えて、見るんだ。コツをつかめ。天性のカンと強靭なバネがあるカフスなら、絶対取れる!」

 「葵矩……。」

 「来るぞ!」
                           しばはた
 <ハットトリック狙いにきました袒!さぁー柴端今度は止められるか!>

右からのラボーナ。
大丈夫しっかり、カフスには見えてる。
そしてここから――、

 「!!」

不自然にボールが揺れて、一瞬で方向を変えた。
カフスの手を掠める。

 <ブラインド!見事に飛鳥、ストッパー役を果たします。危うく三点目、すくわれた神奈川!!>

葵矩はカフスが掠めて、威力の失ったボールを足で殺して、止めた。

 「……。」

 「悪い。」

謝ったカフスに首を振って、謝らなくていい、慣れるんだ。と、続けた。
ボールを前線へ送る。

わかっている。
このボールを数本のシュートで見極める過酷さ。
ナックルシュート。
あらゆる変化を伴って、とても不規則なシュートなのだ。

 <後半二十分。群馬猛攻撃!おっとまた飛鳥だ、ボールをよく見ています!!>

カフス。
やっぱり、すごい。
だいぶ体が反応するようになってきた。
カバーも楽になってきた。
しかし、それだけじゃ、勝てない……。
葵矩は唇をかみ締めた。
尉折……。

前線の尉折を見つめた――……。


 「神奈川も終わりだな。」

 「何だと。」

前線で、尉折が相手チームに厳しい目を向けた。

 「点取られないだけじゃ。それだけじゃ勝てないだろ。」

 「……。」

スコア二対0。

 「飛鳥がトップにもどってこないんじゃダメだね。」

 「くっ、……てめ。」

 「尉折先輩!」
あつむ
厚夢が何事かと、フォローにはいる。

 「結局、神奈川はあいつがいないと……」

 「やめろよ、試合中だぞ。」
せつた
雪駄が下がってきて、

 「それから。神奈川を甘く見ないほうがいいよ。」

自分のチームを叱咤した。

 「……。」

尉折も雪駄を見る。
そして、拳を握り締めた。
点をとらないと……。
            や し き
尉折と流雲、そして夜司輝が目を合わせた。
その視線に――、
         ほしな
 <おーっと!星等、強引スライディング!!これは――!!>

 「フリーキック?……星等先輩……?」

厚夢が珍しげに驚いて口にした。
       ちぎり
 「いんだ、契。ナイス、夜司輝。」

尉折が厚夢を制して、夜司輝の腕を引いて、立たせ、労った。
強引なスライディングでのフリーキック。

 <これは、群馬チャンス!!蹴るのはもちろん、袒か!ハットトリックなるか!!>

 「柴端!」

フリーキックの為に皆が集まる中、尉折がカフスを見た。
真剣な瞳。

 「絶対取れ!!S高のゴールは柴端、お前が守るんだ。」

人差し指をカフスに差し向けた。

 「そして、カウンターアタックでワンゴール。必ずできる!!」

 「……。」

カフスと葵矩は尉折を見る。
いつくるかわからないラボーナナックルに怯えていても、このままでは点が取れない。
三点目を入れられれば、群馬は守りに徹するだろう。
そうなれば、なおさら取りづらい。
時間がない。

 「……うん。尉折の言う通りだ。カフス。絶対取れるよ。」

葵矩がカフスの背中を優しく叩く。
カフスが頷く。

 「葵矩がいてへんかったら、何点とられとるんやワイは。あかん。ワイがしっかりせな、あかんのや。とったる。必ず。」

 <フリーキック体制に入ります!!>

 「そうですよ。そんなんじゃ、僕のライバルとして認められないなぁ。」

流雲がカフスにイタズラな笑み。
  
 「壁はいらないですよねぇ、カフスせんぱい!」

そして、ウインクをした――……。


 「……流雲。」

そうか。
尉折の奇策での、夜司輝のスライディング。
そして、流雲のウインク。

葵矩はカフスを見て――、

 「大丈夫。ラボーナのコースはもう反応できてる。あとは自分を信じて。取れるから、必ず!勝とう!」

カフスももう一度頷く。

 「おーよ。壁なていらん!取ってみせる。必ずとったる!!」

 <神奈川、壁をつくらない模様。袒と柴端の一対一。P.K対決だ――!!>

雪駄が体勢を整えた。
足が振り上げられる。
雪駄が足を振り下ろす瞬間に、葵矩たちは前線に走る。

信じている。
カフスを。
皆を。

 <いった――!!袒のマジックシュート!!おーっと。柴端反応しています。>

カフスの体がボールを捉えた。
揺れて落ちるボールを――、

 <すごい!!柴端、とりました!!袒のナックルシュート、止めて――!!>

 「行くで――!!!」

豪快にカフスが蹴り上げた。

 <大きく蹴ったぁ!これはカウンターだ!カウンターアタック!前線には飛鳥が走っています!!!>

 「しっ、しまった。」

 <慌てて、群馬下がります。しかし、ボールはどんどん伸びています!!>

カフス、このボール絶対無駄にしない。

 「飛鳥先輩!!」

 <センタリング上がった――!!>

 「葵矩――!!」

絶対、絶対いれてやる。

葵矩は大きなセンタリングにワントラップなしで、シュート体勢に入った。
オフサイドなし。
ジャマは誰もいない。

 <入ったぁ――!!入りました!!飛鳥のボレーシュート!!無失点記録、破れました群馬。そして、三対0神話もこのシュートで崩れました。後半三十分。二対一!!!>

 「よっしゃ!!」

大きくガッツポーズをする葵矩に、尉折たちが抱きついてきた。
カフス。
すごいよ、良く取ってくれた。

 「ナイス!!飛鳥せんぱい!!」

あと二点。
時間がない。

 <天性のカンの鋭さ、サッカーセンス。柴端のファインセーブからカウンター、あっというまの一点です。>

再びグラウンドに散った。
時間がない。

 <星等インターセプト!神奈川またチャンス!>

夜司輝が右から風をきってスマートなドリブル。
まるで風と一体化するかのよう。

 <一人、また一人と群馬のディフェンダーを鮮やかに抜いていきます!速い!!>

ワンフェイク、クライフターン。
華麗な技をあっさり披露しながら、ゴール前へ走り抜ける。

 「夜司輝……まさか。」

葵矩がつぶやいた。

 <速い速い。誰も追いつけない!!中央突破――!!>

 「夜司輝!今だ!!」

流雲が声を上げ――、

 <……ゴール!!はいりました。星等、一人でハーフラインからボールを運び、決めてしまいました!!しかし、今のは……。>

アナウンサーが些かたじろって、

 <え、ええ。ラボーナ&ナックルでした、ね。>

専門家に話しを振った。
観客も一瞬間をあけての歓声。

すごい……。
本当に完成させちゃったのか、夜司輝。
この短期間で。
なんて、飲み込みの早さなんだ。
流雲と夜司輝が手を合わせるのを見て、葵矩は呆然。

 <一瞬目を疑いましたが、二年生星等、やっぱり見せてくれます!天才的テクニシャン!!なんと、袒のオハコを奪っての同点ゴール!!>

 「すっげー夜司輝!」

 「いつの間に……。」

 「完璧じゃんかぁ!!」

二対二。
これで振り出しに戻った。
勝てる。

 <残り時間五分とロスタイム。さー、わからなくなってきましたこの試合。勝利の女神は一体どっちに微笑むのか!!手に汗握る展開です!!>

五分。
時間がない。
同点はいらない。
P.Kはいらない。
勝つ。
ここで、勝つ!!

 <飛鳥、ボールをキープ。しかし、時間がない。ハーフラインを越しますが――おおーっと!!!飛鳥、なんと、シュート体勢です。ゴールまでゆうに五十メートルはありますが――>

 「行っけ――――!!!」

届け!!
国立へ!!!
国立への切符―――ー!!!


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