X -DEL SOLE-

                    2

   うりばやし   まつる
 <瓜囃子 祭。今大会で初めてユーティリティープレイヤーの頭角を顕しましたねぇ。>

 <そうですね。今までずっとG・K専属でしたからね。しかし、ゴールキーパーとフォワードのユーティリティーとは……なかなか貴重な存在です。>
     あすか
 「……飛鳥、ヤバイな。」

予想以上にすごい。
きさし
葵矩も焦りを隠せずにいた。
複数のポジションをこなせるといっても、これほどまでの実力とは。
カフスも、そのシュートに二点も許してしまった。

 <前半、勢いのあった神奈川。苦戦している様子。あーっと、またしてもゴール前混戦!!>

ほぼ全員、下がって守りに徹する。
後半二十分。
神奈川陣地での攻防が繰り返されている。

 「落ち着いて、サイド!フリーにさせるな!!」

葵矩も下がりながらの指示。
                                          かがり  いらつ
 <飛鳥キャプテンの的確な指示に芳刈 苛、コーナーにはじく。しかし、大阪ボール。>

スローインから大阪の十番にボールが渡った。

 「そろそろタイム・アップかいな。」
わかつ
和葛をとらえた。

 「ラスト・ゲームといこか。」

ワンフェイクで和葛を抜こうとするが、しっかりついていく。

――熱くなるな。

和葛は葵矩の言葉をしっかりかみしめ、相手を冷静に見た。

いいぞ、和葛。

葵矩が頷く。

焦るな、焦らなくていい。

葵矩は念じるように心で呟いた。

二対三。
ディフェンダーが焦るには十分なスコアだが、葵矩は信じた。

大丈夫、俺たちが必ず点をとる。
だから……

 「止めろ!!」
あつむ
厚夢が葵矩の心の言葉を引き継いだ。
  まいかわ                   コク
 「舞河見てるぞ!!告るんだろ!絶対止めろ!!勝て!!」

――勝て!!
   みやむろ
 <都室、またも一対一。今度は止められるか!冷静に判断しています。良く見てついていきます。おーっと、長身を活かしてヘディング!!>

良し!巧いぞ!

葵矩は瞬時に前を向いた。
和葛が頭一つでた。
キープ。
                            ちぎり   あつむ
 <一対一!一年生都室が競り勝ったぁ〜!契 厚夢に渡った!神奈川チャンス!>

 「厚!頼む!」

 「まかせとけ!」

和葛から厚夢へと繋がったボール。
右サイドから突破。

 <サイドからドリブル、契、一年生。荒削りだが、いい足をもっています。前線、飛鳥走っています!!>

無駄にするもんか、このボール。

 「飛鳥先輩!」

厚夢から葵矩、そして、
                             てだか
 <飛鳥パスを受け、ディフェンダー交わした!豊違もついています!巧い!ダイレクトでつないだ!!>
いおる
尉折がキープして、相手の隙をついて厚夢へ――、

 <豊違のセンタリングあがったぁ――!あわせるは、契。あー、しかしポストだぁ――!!>

 「厚夢!あきらめるな!!」

葵矩の声に、厚夢が体勢を整え、跳ね返ってきたボールに突っ込んだ。
ゴール前、ごった返している。

 「……ボールは?」

 <ゴール前混戦――!ボールはぁ――?>

ざわめく、フィールド。
主審のホイッスル。

 <入ったぁ〜!入っています!!契、渾身のシュート!ラインを割っています!>

一瞬静まり返った国立。
数秒置いてからの大歓声が包んだ。

 「おし!ナイス契!」

 「よくやった!」

 「ありがとうございます!」

三対三。
後半四十分。
おそらく、あと数分。

 <三対三.同点ゴール!!手元の時計は四十分。あとは、ロスタイムを残すのみです――!!>

時間がない。
相手からのパスボール。
必死に奪いに行く。
汗が飛び散る。
先ほどまで雨が降っていたとは思えないほどの、青空。
芝は完全に乾き、太陽に照らされている。
そして、無情にも、長いホイッスルが鳴った。

 <ここで試合終了!!三対三、同点!!これから少しの時間をおいて、P・K戦に入ります。>

P・K……同点におさえたとはいえ……。
                  るも
滴れる汗をぬぐって、葵矩は流雲を垣間見た。
溜息をひとつ。
そんな視線に気がついた流雲は――、

 「あすかせんぱい!そんな顔しないで下さい。僕、けれますよ。」

 「……流雲。」

P・K戦。
お互い、五人のプレイヤーを選出し、ゴール数が多いほうの勝利。
もしそれでも同点ならサドンデス。
独りずつ蹴り、失敗したら負けだ。
         たづ
 「……いや。鶴。先手蹴ってくれ。」

葵矩は指示を出した。

 「え……あ、おう。」

一番手に、鶴。
      や し き
二番手に夜司輝、そして尉折、厚夢。

 「あすか先輩!」

流雲が声を荒げるが――、

 「たのむ、従ってくれ。これ以上ムリさせたくない。」

――決勝には、流雲が必要なんだ。

今までずっと耐えてもらった。
ずっとガマンを強いてきた。

 「……はい。」

皆も同じ思いをぶつけ、夜司輝が流雲の肩を叩いて頷いた。

 「大丈夫やて。ワイが止めたる。」

カフスが拳を握るのに――、

 「そーですよねぇ。これ以上とられちゃあ、立場ないし〜!」

 「何やて、このやろ。」

笑いが起こった。
葵矩も微笑。

 「向こうは、祭さんがG・Kで間違いないですよね。」

夜司輝の言葉にカフスが頭を下げる。

 「あいつは、ずうたいでかいわりに俊敏や。パワーもある。コーナーのコーナーかて届きそうなくらい、リーチも長い。」

G・Kとしては、うってつけだ。
しかし、負けられない。
あと一つで全国制覇。

 「よし、行こう。」

気合を入れて、P・Kに向かった。

 <延長、P・K戦。両チーム五人を選出します。G・Kと一対一.得点の多いほうが決勝進出!負けられません!>

両チームとも五人を残して、少しはなれた位置に群がる。
先攻は大阪。

 <さあ、大阪、一人目、蹴ったぁ!!>

 「よし!!」

見事、カフスはキャッチ。
観客席がわく。
カフスはVサインを送って見せた。

P・K戦。
ゴールまで、わずか十一メートルのキョリ。
一本とめるのも本来なら至難の業だ。
しかし、
   しばはた
 <柴端すごい!二本目止めたぁ――!!>

柔軟さと天性のカンを見せ付ける。
           かtzぬぐ
 「何やこんなん。袒のラボーナ&ナックルに比べたら屁でもないわ!」

葵矩は安堵の溜息をついた。
カフスがS高校に来てくれて、本当によかった。

 <柴端、何という柔軟な体でしょう。どこに打っても拾ってきます!恐るべき、天性のカン!>

 <ええ、すばらしいサッカーセンスです。>

P・Kでは、通常G・Kはコースを読んでから先に動く。
キックを見てからでは、間に合わないからだ。
ヤマかけのようなもの。

 「やるやないけ。せやさけ、ワイのはどないや。」

十番がペナルティーエリアに入った。
先ほど和葛を振り切ってユタのチェックを交わし、シュートを放った男だ。

 <さすがに一対一、大阪、きっちり入れてきました。>

一点。

 「くっ……やるな。まだまだぁ。」

 <柴端、一点をゆるしましたが、P・Kでここまでできる人は数少ない!おー、三本とめました!!まさに天才!!>

四本目、キャッチ。

カフス……。

皆が祈る。
ラスト。

 「ラストは誰や……!!」

 <大阪、ラストをけるのは、やはりこの人。瓜囃子 祭!!なんとP・Kまで蹴ってしまうのか、ユーティリティープレイヤー!>

 「来やがったな。」

皆が見守る中、落ち着いた表情で祭は準備に入る。

 「情けないのぅ。一点やて。ワイがホンマのシュートみせたる。カフス!!容赦せんど――!!」

 <瓜囃子、シュート!!柴端それよりも先に反応しています!右手でブロック、届くかぁ――!!>

カフスが右手でボールをつかんだ。

 「カフス!」

 「カフス先輩!!」

周りからの叫び声、歓声。

 「うっ……こっのぉぉ――!!」

 <右手でしっかりキャッチしています。しかし、あー倒される!>

ボールの勢いは衰えておらず、カフスの腕をゴールへと引き込む。

 「負けるかぁ!!」

 <柴端、強引に下に押し付けたぁ――!!>

皆が主審を仰いだ。
判定は――!!?


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11/あとがき