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うりばやし まつる
<瓜囃子 祭。今大会で初めてユーティリティープレイヤーの頭角を顕しましたねぇ。>
<そうですね。今までずっとG・K専属でしたからね。しかし、ゴールキーパーとフォワードのユーティリティーとは……なかなか貴重な存在です。>
あすか
「……飛鳥、ヤバイな。」
予想以上にすごい。
きさし
葵矩も焦りを隠せずにいた。
複数のポジションをこなせるといっても、これほどまでの実力とは。
カフスも、そのシュートに二点も許してしまった。
<前半、勢いのあった神奈川。苦戦している様子。あーっと、またしてもゴール前混戦!!>
ほぼ全員、下がって守りに徹する。
後半二十分。
神奈川陣地での攻防が繰り返されている。
「落ち着いて、サイド!フリーにさせるな!!」
葵矩も下がりながらの指示。
かがり いらつ
<飛鳥キャプテンの的確な指示に芳刈 苛、コーナーにはじく。しかし、大阪ボール。>
スローインから大阪の十番にボールが渡った。
「そろそろタイム・アップかいな。」
わかつ
和葛をとらえた。
「ラスト・ゲームといこか。」
ワンフェイクで和葛を抜こうとするが、しっかりついていく。
――熱くなるな。
和葛は葵矩の言葉をしっかりかみしめ、相手を冷静に見た。
いいぞ、和葛。
葵矩が頷く。
焦るな、焦らなくていい。
葵矩は念じるように心で呟いた。
二対三。
ディフェンダーが焦るには十分なスコアだが、葵矩は信じた。
大丈夫、俺たちが必ず点をとる。
だから……
「止めろ!!」
あつむ
厚夢が葵矩の心の言葉を引き継いだ。
まいかわ コク
「舞河見てるぞ!!告るんだろ!絶対止めろ!!勝て!!」
――勝て!!
みやむろ
<都室、またも一対一。今度は止められるか!冷静に判断しています。良く見てついていきます。おーっと、長身を活かしてヘディング!!>
良し!巧いぞ!
葵矩は瞬時に前を向いた。
和葛が頭一つでた。
キープ。
ちぎり あつむ
<一対一!一年生都室が競り勝ったぁ〜!契 厚夢に渡った!神奈川チャンス!>
「厚!頼む!」
「まかせとけ!」
和葛から厚夢へと繋がったボール。
右サイドから突破。
<サイドからドリブル、契、一年生。荒削りだが、いい足をもっています。前線、飛鳥走っています!!>
無駄にするもんか、このボール。
「飛鳥先輩!」
厚夢から葵矩、そして、
てだか
<飛鳥パスを受け、ディフェンダー交わした!豊違もついています!巧い!ダイレクトでつないだ!!>
いおる
尉折がキープして、相手の隙をついて厚夢へ――、
<豊違のセンタリングあがったぁ――!あわせるは、契。あー、しかしポストだぁ――!!>
「厚夢!あきらめるな!!」
葵矩の声に、厚夢が体勢を整え、跳ね返ってきたボールに突っ込んだ。
ゴール前、ごった返している。
「……ボールは?」
<ゴール前混戦――!ボールはぁ――?>
ざわめく、フィールド。
主審のホイッスル。
<入ったぁ〜!入っています!!契、渾身のシュート!ラインを割っています!>
一瞬静まり返った国立。
数秒置いてからの大歓声が包んだ。
「おし!ナイス契!」
「よくやった!」
「ありがとうございます!」
三対三。
後半四十分。
おそらく、あと数分。
<三対三.同点ゴール!!手元の時計は四十分。あとは、ロスタイムを残すのみです――!!>
時間がない。
相手からのパスボール。
必死に奪いに行く。
汗が飛び散る。
先ほどまで雨が降っていたとは思えないほどの、青空。
芝は完全に乾き、太陽に照らされている。
そして、無情にも、長いホイッスルが鳴った。
<ここで試合終了!!三対三、同点!!これから少しの時間をおいて、P・K戦に入ります。>
P・K……同点におさえたとはいえ……。
るも
滴れる汗をぬぐって、葵矩は流雲を垣間見た。
溜息をひとつ。
そんな視線に気がついた流雲は――、
「あすかせんぱい!そんな顔しないで下さい。僕、けれますよ。」
「……流雲。」
P・K戦。
お互い、五人のプレイヤーを選出し、ゴール数が多いほうの勝利。
もしそれでも同点ならサドンデス。
独りずつ蹴り、失敗したら負けだ。
たづ
「……いや。鶴。先手蹴ってくれ。」
葵矩は指示を出した。
「え……あ、おう。」
一番手に、鶴。
や し き
二番手に夜司輝、そして尉折、厚夢。
「あすか先輩!」
流雲が声を荒げるが――、
「たのむ、従ってくれ。これ以上ムリさせたくない。」
――決勝には、流雲が必要なんだ。
今までずっと耐えてもらった。
ずっとガマンを強いてきた。
「……はい。」
皆も同じ思いをぶつけ、夜司輝が流雲の肩を叩いて頷いた。
「大丈夫やて。ワイが止めたる。」
カフスが拳を握るのに――、
「そーですよねぇ。これ以上とられちゃあ、立場ないし〜!」
「何やて、このやろ。」
笑いが起こった。
葵矩も微笑。
「向こうは、祭さんがG・Kで間違いないですよね。」
夜司輝の言葉にカフスが頭を下げる。
「あいつは、ずうたいでかいわりに俊敏や。パワーもある。コーナーのコーナーかて届きそうなくらい、リーチも長い。」
G・Kとしては、うってつけだ。
しかし、負けられない。
あと一つで全国制覇。
「よし、行こう。」
気合を入れて、P・Kに向かった。
<延長、P・K戦。両チーム五人を選出します。G・Kと一対一.得点の多いほうが決勝進出!負けられません!>
両チームとも五人を残して、少しはなれた位置に群がる。
先攻は大阪。
<さあ、大阪、一人目、蹴ったぁ!!>
「よし!!」
見事、カフスはキャッチ。
観客席がわく。
カフスはVサインを送って見せた。
P・K戦。
ゴールまで、わずか十一メートルのキョリ。
一本とめるのも本来なら至難の業だ。
しかし、
しばはた
<柴端すごい!二本目止めたぁ――!!>
柔軟さと天性のカンを見せ付ける。
かtzぬぐ
「何やこんなん。袒のラボーナ&ナックルに比べたら屁でもないわ!」
葵矩は安堵の溜息をついた。
カフスがS高校に来てくれて、本当によかった。
<柴端、何という柔軟な体でしょう。どこに打っても拾ってきます!恐るべき、天性のカン!>
<ええ、すばらしいサッカーセンスです。>
P・Kでは、通常G・Kはコースを読んでから先に動く。
キックを見てからでは、間に合わないからだ。
ヤマかけのようなもの。
「やるやないけ。せやさけ、ワイのはどないや。」
十番がペナルティーエリアに入った。
先ほど和葛を振り切ってユタのチェックを交わし、シュートを放った男だ。
<さすがに一対一、大阪、きっちり入れてきました。>
一点。
「くっ……やるな。まだまだぁ。」
<柴端、一点をゆるしましたが、P・Kでここまでできる人は数少ない!おー、三本とめました!!まさに天才!!>
四本目、キャッチ。
カフス……。
皆が祈る。
ラスト。
「ラストは誰や……!!」
<大阪、ラストをけるのは、やはりこの人。瓜囃子 祭!!なんとP・Kまで蹴ってしまうのか、ユーティリティープレイヤー!>
「来やがったな。」
皆が見守る中、落ち着いた表情で祭は準備に入る。
「情けないのぅ。一点やて。ワイがホンマのシュートみせたる。カフス!!容赦せんど――!!」
<瓜囃子、シュート!!柴端それよりも先に反応しています!右手でブロック、届くかぁ――!!>
カフスが右手でボールをつかんだ。
「カフス!」
「カフス先輩!!」
周りからの叫び声、歓声。
「うっ……こっのぉぉ――!!」
<右手でしっかりキャッチしています。しかし、あー倒される!>
ボールの勢いは衰えておらず、カフスの腕をゴールへと引き込む。
「負けるかぁ!!」
<柴端、強引に下に押し付けたぁ――!!>
皆が主審を仰いだ。
判定は――!!?
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