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るも つばな
テレビの流雲を見て、茅花は唖然。
確かに、自分が告白をしたのは今日だが……。
皆は、流雲が相手の名前を言うのではないかと、今か今かと期待している。
流雲が口を開いた。
<愛しのハニー!明日絶対勝って全国制覇してみせる。必ず見てて!!LOVE
YOU!!>
ばっちりカメラ目線。
カメラに向かって指を指し、真剣な瞳で言ってみせ、最後は笑顔。
周りもひときわ歓声が沸いていた。
かっこいーとの言葉も飛び交っている。
何故か大きな拍手。
その拍手にどーもどーもと答えている。
茅花はほっ、と胸を撫で下ろして、
「いや、本当に違いますから!!」
我に返って皆の疑いの目に再否定。
そんな言葉は無視、とばかりにイタズラな笑みを向けてくるもの、微笑むもの、様々な顔。
<では、続いてイケメンランキング第二位の発表です!>
皆がテレビに向き直る。
「これで選ばれなかったら飛鳥せんぱい、絶対一位ですよ!」
あつむ
厚夢の言葉に皆も大きく頷いた。
そして――、
くるわ たりき
<第二位、郭 托力くん。静岡S高校!!おめでとうございます!>
歓声とテレビの前での声がハモる。
テレビでは、托力が照れた様子を垣間見せたが、クールな表情で受け答えをする。
<残念ながら彼女はいませんが、俺達も全国制覇狙ってますので、応援よろしくお願いします。>
流雲の言葉を踏まえて見せた。
<はい。ありがとうございます。それでは、いよいよ第一位!!発表はCMの後!!>
CMに切り替わる。
「すっげぇ自信。」
「でも確かに腕いーしなぁ。」
あすか
「つーか一位確実じゃん!飛鳥せんぱい。」
「ですよねぇ〜!」
CMに入り、口々にする皆。
数秒のCMがあけ、いよいよ発表。
<さあ、お待たせいたしました!全国高校サッカー選手権大会、選手イケメンランキング一位の発表です!!>
カメラが選手全員をなめるように動いた。
「お、きたぞきたぞ〜!」
皆はほぼ確信してテレビに見入った。
<全国高校サッカー選手権大会、選手イケメンランキング、堂々第一位は――!!皆さんも予想済みでしょう!!>
あすか きさし
――飛鳥 葵矩くんに決定しました!
大歓声の中、葵矩がドアップに映し出された。
テレビ前でも大歓声。
「すげー!!」
「かっこい〜先輩、さっすが!!」
相変わらず葵矩は恐縮している様子が伺われた。
<おめでとうございます。>
いつの間にか用意されていたトロフィー。
全国優勝したときにもらえる優勝旗のミ二チュアのようだ。
よく みこと
それを翊から、表彰状を命から葵矩が受けとっている。
葵矩は、もちろんカメラなど気にする余裕はない。
「もう飛鳥せんぱい、かたいかたい〜!」
テレビ前の皆はブラウン管の葵矩に向かっていった誰かの声に賛同している。
<神奈川県代表S高校主将、飛鳥 葵矩くん。おめでとうございます。一言お願いします。>
女性司会者が葵矩にマイクを向けた。
テレビには葵矩がクローズアップされた。
<あ、ありがとうございます。光栄です。>
まだ頬は赤いが、少し落ち着いて、カメラに視線を向ける葵矩。
<飛鳥くんを選んでくれた人たちは、口々にいっていました。>
デル・ソール
――サッカー界の太陽。
「すげえ〜せんぱい!」
再び騒がしくなるテレビ前。
何だか自分達もとっても鼻が高い。
<あなたの笑顔は皆を元気にしてくれます。プロ選手も注目していることでしょう。やはり、将来は、プロに?>
満面の笑みで司会者がマイクを振る。
葵矩は礼を口にした後、少しの間をおいた。
<……まずは。目の前の全国制覇が目標です。高校生活最後の戦いなので、悔いの残らないよう精一杯頑張ります。>
一呼吸置いて――、
<ここまでこれたのは、本当に応援してくださっている皆さんのお陰で……僕が皆さんに元気を頂いているんです。本当にありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします。>
相変わらず謙虚な姿勢の葵矩。
心なしか温かな拍手が起こる。
「そっか……先輩達、もう引退なんですよね。」
いつく
わかっていたことだが、慈が改めて口にする。
二年生以下が頷き、しんみりした空気になった。
「だな。明日、か。」
鶴の声に、今後は三年が頷く。
しばらく沈黙が流れた。
皆、思い思いのことを考えていた。
そして、全員が同じことを考えた。
全国制覇。
そして、番組も終了し――、
「おかえりなさーい。」
皆で葵矩と流雲を出迎えた。
「せんぱい、かっこよかったですよ〜!」
「お前、また有名人かよ。」
「よ、イケメン!」
葵矩に対しての賞賛の声と、
「流雲!なんだアレ!」
「そうだ、そうだ、きいてねーぞ!」
流雲の爆弾発言に対してのそれが宿舎を埋め尽くした。
当の本人流雲は、皆に囲まれながら、まあまあなどと手を挙げて笑顔。
そして、一瞬茅花を捉える。
「ちょーっと誰なんだよ。教えろ!」
「そーだナマ放送でいっといて、内緒はないだろ。」
「だいたい今日ってなぁ〜。」
皆の追及の声と手や腕を交わし、一瞬口元を緩める流雲。
もう一度茅花を見て――、
え、えっ?
目の前に迫ってくる流雲に、一瞬何が起こったのかわからず、茅花は自分の体が傾いてから思わず顔を上げた。
「そーゆーことなんで、よろしく。」
目の前に、正確には真横に流雲の顔を見る。
肩には、流雲の左手。
右手は皆に向けてピースサインを出す。
茅花は、改めて流雲に引き寄せられたことに気付く。
「っ、まじで〜??」
「おまえら、やっぱそうなの?いつの間に??」
一斉に皆が騒ぎ出した。
「ちょ……」
茅花が慌てふためいて、
「ちょっと!!」
やっとのことで声をだし、流雲の腕を思いっきり引っ張った。
そのまま部屋の外へ――、
「ちょっと!!」
先ほどと同じ言葉を発っする。
部屋の中で何をいわれているかなどは、とりあえずあと。
自分の全身がほてっているのを感じ、目の前の流雲を睨み上げた。
ふかざ
「吹風!!」
「何?」
本人は、飄々をした顔で、茅花を見た。
「なっ、何、じゃない、何なのよ!」
廊下中に響いたであろう大声を上げてしまった。
体が熱い。
そんな茅花をよそに――、
「え?ダメ?」
愛敬のある笑顔で首をかしげる流雲に、ダメって、そういうことじゃなくて……、と真っ赤になったまま唇をかみ締めた。
数秒の沈黙。
「もっ、もう!知らない!!」
茅花は全身で声を発して、駆け出した――……。
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