X -DEL SOLE-

                    9


 <さあ!ホイッスル鳴って、今、神奈川ボール!!>

きさし
葵矩は前を見据えた。

高校生活、最後の戦い。
思い残すことはないよう頑張ろう。
もう、このチームで試合をするのは、本当に最後なんだ。

ボールをキープしたまま――、

 <さて、メンバー紹介です。え、あ――!!>

アナウンスが突然途切れた。

 「……。」

一瞬、国立競技場が静まり返った。
ボールがゴールポストに当たって震える音だけが、静寂を破っていた。

 <っ……な。キックオフゴール?――……なんと、神奈川キャプテン
あすか
飛鳥のド肝を抜くキックオフゴール――!!>

葵矩は、軽くフットワークをして静岡を見た。
ホイッスルが鳴ってすぐにハーフラインからのシュート。
静岡の選手たちは、まさかシュートがくるなどと夢にも思わなかった様子。
トップからディフェンス、全員が見送った。
サイドに流れるボールを呆然と見る。
間抜けなほどの沈黙。

 「やってくれんじゃん。」

 「先輩……すげぇ。」
いおる   あつむ
尉折と厚夢。

 <場内静まり返ってからの大歓声!!総立ちで拍手です。惜しくも外れたものの、度胸のあるスーパーシュート!!>

 <いやぁ〜決勝でキックオフゴールが見れるなんて驚きましたねぇ。宣戦布告!どこからでも行くぞというアピール!!神奈川、勝ちに来ました、おもしろくなってきましたね!!>

葵矩は軽く笑ってフリーキックに備えた。
たりき
托力が葵矩と顔を合わせ、やるな。とサインを出した。
こちらも負けないぞ、と無言でいう。
                                 ほしな
 <さあー!静岡フリーキック。投げたぁぁ!神奈川、星等よく見てい
                           てだか
ます。相手のフリーキックをインターセプト。豊違に渡る!神奈川チャンス!飛鳥のキックオフゴールから一気に士気が高まっている神奈川S高校!!>

尉折が落ち着いてボールをキープし、ノールックパスで葵矩へ。

 <ゴール!!決まりましたぁ!神奈川先制――!!>

 <キックオフゴールといい、今の豊違からのノールックパスのアシスト、そして飛鳥の先制。神奈川、勢いがありますね〜!>

 「ナイスアシスト!」

 「ナイスシュート!」

葵矩は尉折とハイテンをかわす。

まず、一点。
葵矩は守りに入った。
                   くるわ
 「マンツー崩すな!十一番、郭のマーク、絶対はずすなよ!どこからでも、どこへでもあげてくるからな!」

バックに下がりながらディフェンスに指示を出した。
托力のアシストはあげさせたくない。

 <神奈川、守りも堅い。静岡、リズムを取り戻せるか?>

 <さて、ここで改めてスタメンの紹介です。>

アナウンサーが興奮隠さずに早口で紹介し始めた。
                     しばはた
 <神奈川ゴールキーパー一番、柴端 カフス。ブラジル生まれの関西育ち。秋からS高校に編入し、ガッツと天性の勘は今大会で立証済み。対大阪戦でのP・Kは三本も止めています。
                             みやむろ わかつ
  ディフェンスレフト、背番号三番は一年生、都室 和葛。大阪戦での空中戦は見事。正確なキック力と判断力の確かな頭脳を持っています。
                          さわら
  ディフェンスセンターは四番、三年生の沙稿 ユタ。相手攻撃を冷静に予測する頼もしい砦です。
                     かがり    いらつ
  ディフェンスライト、二番三年の芳刈 苛。大型ディフェンダー。ちょっとやそっとじゃ抜かせません。>

 <おーっと、フィールドでは、静岡の猛攻撃!神奈川、マンツーマンでおさえます!>

 <キャプテンの判断は正しいですね。パスの基礎がしっかりしている静岡には、ゾーンディフェンスは通じませんからね。>
                                 えやみ   うか
 <では、紹介の続きに戻ります。中盤レフトは、五番江闇 窺。長身と足の速さはサイドにもってこい。
                      ふかざ    るも
  レフトリンクマンは二年、七番の吹風 流雲。昨年は、一年でレギュラー入り。体も精神力も数段パワーアップ。身軽で素早い身のこなしは健在です。
                      ほしな    やしき
  ライトリンクマンは、同じく二年の星等 夜司輝。注目選手です。そのテクニックは高校生とは思えません!群馬戦でのナックル&ラボーナは記憶に新しい。
               すみの   たづ
  ライトを守るは、八番主蓑 鶴。長身で慎重なボール運び、サイドチェンジも得意です。>

こい、郭。
葵矩は自分コートでパス回しをする静岡を注視した。
様子を見ているのか、ハーフからなかなか突っ込んでこない。

 <フィールドは膠着状態!紹介、進めます。オフェンスフォワードレフトは三年九番の豊違 尉折。飛鳥とのコンビには、右にでるものはいないでしょう。アシスト力も抜群です。
                  ちぎり あつむ
  フォワードライトは十一番契 厚夢。荒削りではあるが、これから期待できる一年生です。

  そして、センターフォワード十番三年生、飛鳥 葵矩。一年よりレギュラーセンターフォワードとしてS高校をリードしてきました。昨年の大会でもすばらしいシュートを放ち、今年もやってくれます。
       デル・ソール
  世界の太陽になる日も近いのではないでしょうか――?>

 「苛!見逃すな!」

 「オーライ!」

ディフェンスライン、ユタが指揮をとり、守りを固める。
托力がボールを持った。

 「どっからでも来るぞ!」

皆が構えた、その瞬間。
ボールが托力の足から放たれ――、

 <――っ、何とダイレクト!!静岡十一番、郭 托力、アシストをあげると思いきやダイレクトシュート打ってきました!!一対一。同点――!!>

 <こちらも負けてません。それにしても郭いつでもどこでも、ゴールさえ狙えるぞとの宣戦布告返し!!目がはなせません!>

やられた。
さすがだな……。

托力のアシストにばかり危惧していたディフェンスの隙を狙って、アシストをあげると思わせ、シュートを狙ってきた。

葵矩は改めて感服していた。

 「どんまい!まだ同点!」

 「おうよ!」

 「焦るんやないでー!じっくりいこうや!!」

カフスからのゴールキックがハーフまで伸びた。

驚くほど、落ち着いていた。
葵矩は走りながら感じていた。
体全体でサッカーの楽しみをかみ締めている。
一つ一つのプレーを確実にこなす。

ゴール前。
二人の選手を抜いてゴールキーパーが飛び出すのを、ワンフェイク、足の間を抜けた。
歓声が沸き起こる。

 <ごっゴール!!飛鳥、冷静にキーパーの足の間にボールを通してシュート!二対一!前半まだ十五分。大量得点試合になりそうな予感です!>

静岡ボール。
的確なパスワークで攻撃をしてくる。

 <静岡も冷静にパス回し!しかし郭よく動いています。いつでもボールを受け取れるようにでしょうが、スタミナがすごい!>
                                  ・  ・  ・
 <本当ですね。郭は一年生より静岡清水のベンチに入れた選手ですからね。基礎力はもちろんテクニック、全てにおいてレベルが高いです。>

 「来るで!」

カフスが構えた。
今度は見逃さないとの姿勢。

 <郭、またしてもシュート狙いか!柴端反応しています。>

 「カフス先輩!」

めずらしく夜司輝の大声の制止して駆け出した。
その一瞬の動向に、葵矩も悟り、

 「ユタ!そのボール、ドライブかかってる!!」

ユタに指示を出すが――、

 <あーっ!センタリングだぁ!!郭、直接狙いかと思いきや今度はセンタリング!回転かかってます。十番に合わせて間のディフェンスを越えてネットに突き刺さったあ――!>

二対二。
点をとってはとられ、とってはとられの互角試合。
一瞬たりとも気を抜けない。

 <すごい!シュートのようなセンタリング。相手の守備の間隙を見事についての二対二。再び同点です!>

どちらも一歩も引かない、真剣勝負。
ミスや油断が命取りになる。
そんな状態が続き――、

 <ホイッスル。ハーフタイムに入ります!>

二対二の点数が動かないまま、休憩に入った。

 「さっすが、静岡くえねーな。」

 「でもよくやってますよ。互角です。」

 「互角やあかんのや!互角や!」

控え室、とりわけカフスが苛立ちを見せて、ベンチを叩いた。

 「カフス。落ち着けよ。大丈夫。まだ前半なんだから。」

葵矩はカフスの大きな肩を叩いた。
顔を下にむいたまま――、

 「……あいつ、ようワイの動きみとんねん。正直、悔しいわ。」

大きな手で顔を覆ったカフス。
托力のことをそういった。

アシストと思いきやシュート。
シュートと思いきやアシスト。
GKや周りをしっかり見て、的確な判断で正確なキックをしてくる。

 「ホント情けないっすねぇ。飛鳥せんぱいに手ぇ出したやつですよ!ナメられないでくださいよねぇ!」

 「こんのっ!もっかいゆうてみぃ!!」

カフスが流雲の首を絞める。
もちろん顔は笑っている。

 「ちょっとテレビに写ったからって図にのるんやないで〜!」

 「……おい。ってか手とかだされてないから。」

葵矩が呆れて止める。

 「いや、でもあのキックオフゴールはまいりましたぁ。ちょー痺れちゃいました!」

流雲が首に手を巻きつけるのを、葵矩は、礼をいってから――、

 「後半も郭のマーク絶対はずさないように。郭がボールを持ったらシュートもアシストもありだからな。」

真剣な顔で皆が頷く。

予想以上の托力の実力。
シュートのようなセンタリング。
インフロントキック――ボールの外側の下を親指の付け根辺りで蹴り、回転をあたえるキック。で左に曲げていた。
ナックルと同じくポイントをずらすと回転が微妙に変化し、足を振り上げず途中で止めると逆回転がかかってふわっと浮くボールになる。
とてもバリエーションが多く、コントロールして蹴るには、相当な技術とセンスが問われるキックなのだ。

 「あのインフロントができるってことは、ナックルなんて朝飯前でしょうね。」

渋い顔で、独り言のように呟いたのは夜司輝。

 「カンタンには勝たせてくれないわな、。そりゃ。」

カフスがいい、

 「アシストキングかぁ〜!うわ〜何かムカツクなぁ!!」

尉折が発狂するように叫んだ。
同じポジションな上、自分がもっと巧ければもっと良い状態で葵矩にシュートをしてもらえるだろうとの苛立ち。

 「焦るなよ。大丈夫。」

葵矩はカフスをなだめたように、尉折にも落ち着いた声でいった。
尉折の肩をたたく。
笑顔の自信に満ちたその表情に、皆も自然と落ち着きと安心感を覚える。

 「俺達ができる最大の走り、パス、シュートをしよう。そして、イレブンを信じるんだ。」

ここまできたのは、マグレじゃない。
ここまできて、ジタバタしている訳にはいかない。
必ず手に入れる。
全国制覇――……。


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11/あとがき