X -DEL SOLE-

                    4

                    きさし
惜しまれつつフィールドを去った葵矩たちを迎えたのは、たくさんの報道人だった。
  あすか
 「飛鳥キャプテン、インタビューお願いします!」

あっと言う間に囲まれ、用意していたと思われる簡易ステージに有無を言わせず引っ張られた。

 「監督にインタビューをお願いしたら、全てキャプテンに任せると。」

いいですよね。
大きく頷くアナウンサーは葵矩の意思表示を確認せず、

 「あと一分で中継はいります。」

事務的な言葉を告げた。
葵矩は、監督を恨めしく思い、眉を顰めた。

まぁ、あの監督がインタビューに応じるとは思えないが。
と、納得してしまう。

 「はい、こちら国立競技場。たった今、準決勝の第一試合が終わりました!神奈川県S高校のキャプテン、飛鳥くんにお話伺います。」

興奮した様子で、アナウンサーの女性は葵矩にマイクを向けた。
カメラが一斉に向く。

 「決勝進出おめでとうございます!」

 「……ありがとうございます。」

フラッシュがたかれる中、一礼した。

 「手に汗握る展開でしたが、ずぱり、勝因は何だったと思いますか!」

 「勝因……といえるかどうか。でも、僕たちは個人技を大切にし、お互いを信じあってチームプレーを行なうことを心がけています。」

個人技を十分に磨き、活かす。
皆を信じ、最高のパスと走りとシュートの実現。
自由で楽しいサッカー。

 「飛鳥キャプテンの人柄や、皆のサッカーが好きだという気持ちが観客にも伝わってきます。とてもすばらしい試合でしたね!」

 「そういっていただけると嬉しいです。」

 「監督兼キャプテン。ゲームメイクから得点まで、全てをこなすマルチプレイヤー。神奈川をここまで引っ張ってきたのは、言うまでもなく飛鳥キャプテンです。あなたの活躍はすごいですね。」

満面の笑みのアナウンサー。
葵矩は首を横に振った。

 「いえ。本当にチームの皆や、応援してくださっている皆さんのお陰です。ありがとうございます。」

俺一人ではここまでやってこれなかった。
ここまでこれたのは、チームの皆がいたから。
応援してくれる皆がいてくれたから。

葵矩は声に出さずに感謝した。

 「こうしてお話を伺っていると、本当に飛鳥キャプテンの人柄が伝わってきます。チームの方々、対戦チームの方々でさえ、たくさんの人が貴方を支持しています。」
   デル・ソール
――太陽のような人だと。

この上ない褒め言葉だ。
葵矩は笑顔で礼をいい、嬉しい気持ちを隠さずに伝えた。

 「ずばり、目標は全国制覇ですよね。」

 「もちろんです。」

全国制覇。
もうすぐ目の前にある。
手の届くところに――……。


 「いやー俺たちすげーな、マジで。」

 「本当、本当。このまま全国制覇!」

興奮冷めず、皆は帰り支度を済ませ、観客席に移動した。
第二試合、静岡と北海道の試合を見学するために。
  くりま
 「栗馬。」
           いおる
葵矩は皆と離れ、尉折と一緒に北海道の控え室へ向かった。

自分たちのときも激励に来てくれた。
今度は、俺たちの番だ。
             うきや
葵矩たちの激励に、羽喜夜は相変わらずクールな表情で葵矩たちの勝利を労った後、来てくれたことに礼を言った。

 「勝って同じ土俵に立つ。そしたら――、」

 「ああ。待ってる。」

握手を交わした。

 「静岡も行くのか。」

尉折の言葉に葵矩は頷いた。
無機質な通路を真っ直ぐ進む。
尉折も頷いて後に続いた。
前からやってきた数人と目が合う。
またもう一人。
先ほどから、すれ違う人、人、皆葵矩たちを見る。

そして必ず、ささやいた。
神奈川のエースだ。
      てだか
飛鳥だ、豊違だ。と

 「なーんか、俺ら注目されてんなぁ。優越感。」

語尾にハートマークをつける言い方で尉折は口元を緩ませ、まあ、男ばっかってのがタマにキズだけど。と、今度は窄めてみせた。
葵矩は微笑。

 「飛鳥。」

静岡の控え室へ向かう二人に声をかけたのは--、
     はくあ
 「……穿和さん。」

葵矩は呟いた。
陽に透ける髪、優しい瞳。         はくあ   きづつ
昨年卒業した静岡S高校のキャプテン、穿和 創だ。
                         するが   すみなり
そしてその隣で、やはり元静岡S高校の駿河 速晴は、満面の笑みで右手を挙げた。

葵矩は姿勢を正して一礼した。

 「久しぶりだね。決勝進出おめでとう。」

 「すげーな!大阪との試合、わくわくしたよ。ますます成長しやがってこのっ!」

創は、相変わらず紳士的な笑みで労い、速晴はイタズラな笑みをみせて葵矩の頭をかきまぜた。

 「ありがとうございます。」

たった数日間を共にしただけの戦友。
こんなにも温かく接してくれる。
葵矩の存在がそうさせる。
尉折も懐かしそうに昔を思い出して笑顔になった。
昨年の様子は、Tomorrowにて覗くことができます。

 「おめでとう。そして、ありがとう。」

静岡の控え室。
くるわ   たりき
郭 托力は爽やかな笑みを見せ、試合前だというのに緊張の色ま全く見えなかった。
自信に満ち溢れている。

 「あともう少しまってて。」

その辺りにいってくるから待ってて。とでもいうような言い方。
葵矩は頷いて、

 「ああ。ゆっくり見学させてもらうよ。」

握手を交わした。
そして静かに控え室を後にした。

 「やっぱ、すげーな。静岡。」

尉折もひしひしと感じていた。
王者静岡の貫禄ともいうべく空気。
葵矩も無言で頷いた。

負けてはいられない。
葵矩は、今一度気持ちを引き締めた――……。

 <国立競技場。第二試合、決勝戦、一枚の切符をかけた戦いが始まろうとしています。前回優勝チーム、静岡S高校に立ち向かうのは、前回ベスト四の北海道U高校。>

 「あ、おかえりなさーい。」

葵矩たちは、席を確保してくれたことに礼をいい、腰を下ろした。

 <既に決勝進出を決めた神奈川S高校と戦うのはどちらか――?>

大空にコインがきらめいた。
葵矩たちの最後の対戦相手が決まる戦い。

 「さて。お手並み拝見。」

尉折は膝の上で両拳をあわせ、その上に尖った顎を乗せた。

静岡と北海道のチームがフィールドに散らばった。
青と白のユニフォームが静岡県代表S高校。
黒と白のユニフォームが北海道代表U高校。

 「あ〜、アレですね。十一番。あすか先輩に手ぇ出したひと。」
   るも
隣で流雲がいきなり立ち上がって指差す。
葵矩は慌てて周りを見渡し、流雲を座らせようとするが、

 「どれ、どいつや?」

カフスも立ち上がったので、あきらめて肩を落とすと同時に腰を据えた。

だから、手ぇ出されてないから。
頭に手を添える。

托力はフォワードレフト。
葵矩たちから見て、左に攻めるいるのが静岡なので、中央トップの手前側だ。

 <前半五分。慎重にボールを運ぶ静岡。パスをゆっくりまわし、ハーフラインを越えます。>

どんな展開を見せてくれるんだ。
葵矩は真剣に見据えた。

北海道陣地に攻め入る静岡。
栗馬もディフェンスラインを守り、静岡の一挙一動を見逃さんと構えている。

 「何か、気圧されとる気ぃすんな、北海道。」

カフスが呟いた。
点数こそは動いていないが、北海道陣地にボールが長居している。

 「確かに、北海道らしいクールで素早いボール運びをシャットアウトされていてやり辛そうだね。」

葵矩の言葉にカフスも尉折も無言で頷いた。
栗馬もオーバーラップするチャンスがつかめないでいる。

 「ボールコントロール、パスワークが静岡は完璧なんや。地味なスキルやけど、基礎ができてるチームは強い。」

カフスの言葉に、確かに隙がないな。と尉折。
サイドチェンジも、カット後のパスも全て計算どおりといった具合に味方がキープしている。
北海道にボールが長くキープされることが少ない。

 <前半二十分、依然0対0。フリーキック静岡。チャンスか!>

 「お、動いた。」

尉折の声に――、

 <静岡十一番。郭 托力、左で柔らかく美しいセンタリング!合わせて――っ、ゴール!!静岡先制――!!>

すごい。
葵矩は目を見張った。
入試のときにも肌で感じていたが、やはり托力の実力はすごい。
ラストパスを出す繊細さ、慎重さ、基礎的パス能力が十分すぎるほど備わっている。

 「すごいですね、フリーからでも難しいコーナーからのラストパスをドリブルーランでマークをかわしてあれだけのパスが出せるなんて。」
やしき
夜輝司が感服したように口にした。

 「せやな。あのラストパスがくれば誰でもシュート打てはる。」

葵矩はうなづいて、入試の時をもう一度思い出す。
あのときのアシストも抜群だった。
そしてあの時は右足。
托力は両足でのコントロールが可能ということか。

 <入った――!二点目!静岡、静かに、そして確実に得点を重ねていきます。>

 <さすが王者の貫禄ですね。しかし、今までの得点の殆どをアシストしている郭。彼の実力は評価に値しますね。>

まさに縁の下の力持ち。
ラストパスがあってこそのシュートだ。

葵矩は身に沁みていた。
尉折のアシストがあるからこそ、自分がシュートを決められる。
アシストが最高であれば得点につながる可能性もたかまる。

 <何と三点目!すごいぞ静岡。またもや十一番!郭のアシスト。どこからでも、どこにでも上げてきます。恐るべし、まさにアシストキングといってもよいでしょう!!>

――アシストキング。

 「なぁんか、シャクだなぁ。」

尉折が隣でぼやいた。
無理もない、同じポジション故、ライバル心が燃えるのだろう。

 「ですねぇ。」

 「せやなぁ。」

流雲とカフスが尉折に続いて輪唱した。
理由は尉折とは異なるが。

 「それにしても。冷静に判断して、どこからでも確実に正確な位置に落としてきますよね。さっきのなんか、ドライブ回転かかってましたよ。」

托力にも劣らず冷静な見解を述べるのは、夜輝司。
細い顎に手を添えた。

 「へーよくわかんねーけど。夜司輝がそうゆうならすげーんだな。」
いらつ                    うか   たづ
苛うしろから口を挟み、窺や鶴もうなづいた。

ドライブ回転のかかるセンタリング。
いわゆる落ちる球質のボールは落下点をよみにくい故にディフェンスの脅威になる。

托力のマーク、何とかしないとな。
葵矩は長い溜息をついた。

前半戦三対〇で静岡優勢。

 「苦しい展開だな、北海道。」

 「そうですね。栗馬さんのオーバー・ラップが良い形で見れてない。相当なフラストレーションでしょうね。」

全員がうなづいた。
上から見ても夜司輝のいうとおり、羽喜夜が苛立っている様子が窺えた。
いつものクールな北海道らしくない展開。
静岡がそうさせている。

結局。
後半、静岡がもう一点と――、

 <栗馬、いいタイミングでオーバー・ラップ!!渾身のシュート!――決まりましたぁ!しかし、ここで試合終了――!>

タイム・アップ。
最後の最後で北海道にリズムができたように思えたが、時間が許さなかった。
四対一。
静岡の勝利が確定した。

 <四対一。静岡S高校が決勝の椅子を手にしました!苦しい戦いだった北海道。しかし、よく攻めました。そしていよいよ明日がファイナルです!!!!>

托力がグラウンドから見上げた。
葵矩と目が合う。

全国高校サッカー選手権大会、決勝戦。
神奈川県S高校VS静岡県S高校。
明日キック・オフ――……。


>>次へ                   <物語のTOPへ>
1/2/3/4/5/6/7/
          8/9/10/
11/あとがき