X -DEL SOLE-

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 「お、始まった!」

午後七時ジャスト。
宿舎では、全員が今か今かとTVの前に顔を揃えていた。
食い入るように見つめる。

 <こんばんは、全国高校サッカー大会、いよいよ明日ファイナル!豪華ゲストを迎えての生放送でお送りします!!>

カメラが命と翊を捉えると、
     ながいみこと
 「え〜永井 命!」
  ムーン ライト             せら    よく
 「MOON LIGHTの瀬良 翊もいる〜!!」

マネジャーが一斉に黄色い声を上げた。

 <今回のイメージソングを歌ってくれています永井 命くんとMOON LIGHTをゲストに向かえ、さらにベスト四のチームの代表選手たちも顔を揃えています!>

 「お、映った映った!」
  あすか
 「飛鳥先輩かたい〜!」
       ふかざ
 「ほんと、吹風先輩なんかよっゆ〜!すげ〜!」
きさし
葵矩たちもブラウン管に映し出された。

 「いいなぁ〜知ってたらサイン頼んだのに〜!」

 「ね〜!」

マネージャーたちは、自分のチームがTVにでるよりもアイドルのほうが気になるようだ。
一人を除いては――、

 <みなさんこんばんわ、永井 命です。>

 <MOON LIGHTです。>

生放送などお手の物で命たちはマイクを向けられて流暢に話している。

 <今日は、全国高校サッカー大会、出場選手の皆さんとお話ができるということで、楽しみにしてきました。>

 <オレらと同じ年で、また違うフィールドで戦っているすっごい人達!テレビをご覧の皆さんもぜひ!>

 <注目してください!そして今日は選手の皆さんにインタビューをさせていただきたいとおもいます!>

命と翊が話しをすすめ、MOON LIGHTの他のメンバーも、

 <よろしくお願いします。>

一斉に頭を下げた。
                     つばな
喧しいテレビ前から一歩引いて、茅花は溜息をついた。

――俺も大好きだよ。

今だにどう解釈していいのか悩んでいた。
                    るも
時々映し出されるテレビの中の流雲。
生放送にも関わらず物怖じしない態度。
もう一度溜息をつく。
理由は判然としない。

テレビでは、紹介が終わり――、

 <先ほど伺ったところ、永井くんとMOON LIGHTの瀬良くんは、神奈川代表のS高校主将の飛鳥くんと吹風くんとお知り合いとか。>

 「え〜マジでぇ??」

 「すっげ〜!」

 「やったぁ!サインもらえるかなぁ!」

テレビ前では勝手に大盛り上がり。

 <ええ、そうなんですよ。飛鳥くんたちとは、共通の友人がいまして、知り合ったんです。>

落ち着いたトーンで命が話し、

 <本当に偶然だったんだよね。あのときからサッカーしてることは聞いてたけど、まさかこんなすごい人とは思ってなかった……。>

翊が愛敬のある笑顔で引き継いだ。
葵矩は、カメラが向くと無言で首と手を振っていた。

 「相変わらず謙遜しますよね〜飛鳥先輩。命と翊が知り合いなんて、絶対言いふらすっしょ。」

 「だよなぁ。流雲なんか当然ってカオしてるけど、ホントすげー度胸。」

 <ねぇ、本当に。すごい普通にはなしてましたもん。>

命が頷いて、

 <いやーでもさ。俺達と同じ高校生だよ。飛鳥くんも吹風くんも普通の高校生じゃなかったってことだよね。>

翊のそれに倣い大きく首を縦に振る。
いや、お前が言うと普通の意味合いが違う気がする。と命がボソッというのに、どういう意味だよ。と翊がつっこんだ。
そのやりとりに女性司会者は優しく微笑んで――、

 <今やトップアイドルといわれるこのお二人にここまで言わせてしまう、飛鳥くんと吹風くん。明日の試合も本当に楽しみですね。>

 「うわぁ〜めっちゃ目立ってんな〜!」

 「命と翊ちょーかっこいい〜!」

相変わらず宿舎はお祭りムード。

 <本当ですね。お話をしているときは、ホントに俺たちと同じ高校生。でもいったん試合が始まるとものすごい高校生になるわけですよ。それでもね、きちんと前を見据えて向かっていく姿はとてもかっこいいなと思います。>

命がそう言い、

 <だよね。尊敬する!ほんとうに皆頑張ってほしいです!>

翊がシメて、昨日の試合結果VTRが流れた。

 「いや〜何か実感ないけど、明日決勝なんだぁ。」
いらつ
苛が大声でいって天井を仰ぐ。

 「だよな。全国制覇まであと一つ。」

ユタも皆、顔をひきしめる。
皆の夢。
それは、もうすぐそこまで来ているのだ。

 「もう、先輩たち出番終わりなのかなぁ。」

 「いや、まだインタビューとかあるっしょ。」
のりと  そのう
祝が弁の言葉に答えて、テロップに見入った。

 「お、イケメンランキング、この後発表。だって!!」

 「マジで?」

再び皆がテレビにかじりついた。
テレビの上下にテロップが流れ続ける。

 「うわくっそ〜何で俺様が呼ばれないんだぁ〜!」

尉折が頭を抱えたのに対し、皆が一斉に顔の前で手を振り、首も振った。
ない、ない。

 「まさか。流雲せんぱいが指名されたのって、それじゃん?」

 「だよね、きっと。吹風先輩、かっこいーすから。」

後輩達が騒ぐのに、茅花は、やっぱ、かっこいいよね、あいつ。と、改めて納得し、今更ながら自分の行いに赤面した。

――あたし、吹風のこと……好き。

あたしなんか、相手にするわけ……ないじゃん。

溜息をつく。
流雲は一体どういうつもりであんなこといったのか。
茅花には理解不能だった。

きっと、あたしの反応みて楽しんでるんだ、あいつ。

唇をとがらす茅花。
最終的に冗談ということで、自分を納得させる。

 「どうしたの、茅花。」

 「え。いえ……。」
じゅみ
樹緑は首をかしげ、テレビを垣間見ながらテキパキと雑用をこなしている。

 「あ、私やります。すみません、樹緑先輩。」

茅花が我に返って手を出そうとしたのを、

 「いいのよ。やらせて。」

やんわり断り、微笑んだ樹緑。
淋しげな表情を覗かせた。

 「あ……。」

明日で、樹緑たち三年は引退なのだ。
改めて、実感した。
ひしひしと時の流れを感じた。
きっと、皆も。

 「あ、すごい、流雲くん三位じゃない。」

 「え。」

思いに耽っていると、樹緑の声と当時にテレビの前でも奇声。
どうやらイケメンランキングが始まっていたらしい。

全国高校サッカー選手権大会、選手イケメンランキングと大きく銘打って、ボードに名前が掲げられていた。
         まつる                       う き や
五位が大阪の祭、四位が北海道の羽喜夜。

 「すっげーめちゃめちゃ目立ってる〜!」

 「かっこい〜吹風せんぱい。スカウトきちゃうんじゃん?」

本人に聞こえるはずもないが、テレビの前では流雲賞賛の声、声、声。
テレビの中でも流雲コール。
本人は、緊張する気配全くなく満面の笑み。

ライトがあたり、サッカーとサーフィンで日焼けした茶色の長めの髪が輝く。
伸びた身長。
二重の愛らしい瞳の中にも男らしさを感じさせるオーラ。

茅花は思わず見とれる。
やっぱ、かっこいいかも……。
テレビ越しで見る、流雲にそう心で呟いて、かぶりを振る。
コップに水を注いで一口飲んだ。
ほてった体を冷ますように。

 <吹風。ぶっちゃけきーていい?彼女は?>

翊がいたずらな笑みで友人に尋ねるように話を振った。
命が目でしかったが――、

 <彼女、彼女?大大大募集――っ!!>

流雲の言動に、テレビの前では、生放送だぞ。と皆の目が無言でいい、茅花はやっぱり。と、肩を落として溜息をつき、グラスを口に運ぶ。
瞬間。

 <ってのは、昨日までの僕で。今日、彼女できちゃいました〜!!>

ええっっ――……!!!!!!

思わず、茅花は含んだ少量の水が口からでるのをかろうじて抑えた。
が。

 「え、え?」

 「何、何それ?」

皆がテレビの流雲と、不審な行動をとった茅花を交互に見て、

 「ええぇぇ――っっ!!!???」

一斉に叫んだ。
茅花は立ちすくんだまま、口元をおさえ真っ赤になった。

 <なので、僕のファンの皆さん、ごめんねぇ〜!>

テレビの中の流雲は、宿舎の状況など知る由もなく、笑顔で愛想を振りまいている。

 「え、え。茅花せんぱい、そうなんですか?すご〜い。」
とゆう
都邑は隣までかけよってきて、黄色い声をあげ、

 「あんた、いつのまに?」
     しらき   いなみ
三年の白木 伊波は眉をひそめた。
            かささぎ おうな
二年で友人でもある鵲 殃奈は肘で突いてくる。
       そのう
 「うわっ。弁の言葉がめずらしく当たった。」
のりと
祝が驚いて、つい最近お参りにいったときのことを思い出す。
弁もあんぐり口を開けたままだ。
皆も思い思いの言葉と態度。

 「っち、違います!!本当!!」

思いっきり否定するが、誰も聞かずに勝手に盛り上がっている。

じょ、冗談じゃないよ。何なの、これ!!!
耳まで真っ赤になって、ひたすら否定し続けた。

 <いいですね。青春真っ盛り。では吹風くん。彼女さんに一言。彼女さん、見てますか?>

女性の司会者は爽やかな笑みでさらに話を振った。
皆は、興味津々な顔で茅花とテレビの流雲を見る。

 「流雲のことだから、名前ゆうんじゃね?」

 「あ、ありえる。」

 「いや、ナマだぞ?」

皆がテレビの流雲と茅花を何度も意味ありげに交互に見る。

うそ、でしょ。どーゆーこと?
茅花は何がなんだかわからない。という顔をした――……。


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