5
「静岡、すごかったなぁ。」
「あの北海道がおされたからな。」
きさし
静岡と北海道の試合が終わり、葵矩たちはそのままグラウンドに向かった。
調整を兼ねて練習を軽くした後、宿舎に戻る。
ここまできたらじたばたしていられない。
葵矩は焦る気持ちと抑えた。
全力を尽くすのみ。
あすか
「あ、飛鳥くん、お疲れ様です。」
じゅみ
樹緑が労いの言葉をかけ、表情を少し曇らせて――、
「疲れてるところ申し訳ないんだけど……」
葵矩は首をかしげて、樹緑の言葉を待つ。
「さっき、テレビ局の人から依頼があって、この後七時から出演お願いしたいって……。」
樹緑は葵矩が苦手なのを承知の上で、少し上目遣いで伝えた。
葵矩の動向が一瞬止まる。
またか……。
「しかも生放送。」
そして樹緑の追い討ちをかける言葉。
深い溜息をつく。
昨年も依頼があった。
苦手なんだよな、とつぶやくとすかさず、
「よっしゃ!じゃ、俺がでてやるよ!」
尉折が手を挙げてみせる。
樹緑はそんな尉折に睨みを利かせ、眉をしかめて見せてから――、
るも
「わかってる……。でも飛鳥くんは絶対はずせないって。あと、流雲くん。」
「へ?僕?」
流雲が振り返り、自分を指差した。
どうやらテレビ局は、葵矩と流雲を指名してきたらしい。
そんなご指名に、
「なーんで、お前なんだよ。この俺をさしおいて!」
「せやせや!」
尉折とカフスが肩を組んでぼやいた。
「いっやーやっぱ僕だし〜!」
流雲は満面の笑みで答える。
葵矩はもう一度溜息をついて、どっちにしても俺はでなきゃダメなのか。とぼやいだ。
代わって欲しい。と顔がいっている。
散々今までテレビで放送されているにも関わらず、相変わらず羞恥心を隠せない。
「やー、飛鳥せんぱいとツーショットなんてうっれしーなぁ!」
しぶしぶテレビ局へ向かう道を歩きながら、今にもスキップをしそうな隣の流雲を見る。
ケガをしてるとは到底思えない。
「うわぁ〜何かすごいですねぇ〜おもしろいのたくさんある!」
テレビ局に入るなり流雲は、目を輝かせてきょろきょろして見せた。
終始笑顔。
子供のようなやんちゃな瞳。
「これでまた僕有名人になっちゃうなぁ〜困るなぁ〜。」
困るとか思ってないだろ。
思わず突っ込みそうになる。
良い度胸してるよ、と葵矩は心の中で呟いた。
いうまでもなく、流雲は自分を自らアピールすることが大好きだ。
新入生歓迎会や文化祭、自ら放送委員も務め、学校でも目立つ存在。
嫌味なくできるのは、誰にでも愛される性格と、この笑顔だろうか。
「なぁに。見つめてんですか。嬉しいですねぇ。」
「はい、はい。」
流雲の頭を軽く叩く。
憎めない後輩である。
そして――、
「こちらの控え室をお使い下さい。あと五分程で顔あわせお願いします。」
丁寧な対応で一部屋に促された。
くるわ
「あ……郭。」
たりき
予想はしていたが、そこには托力の姿があった。
やっぱり飛鳥もか。と爽やかな笑みをこぼた。
葵矩は流雲を紹介する。
「よろしく。君の軽快で俊敏な動きは原動力だね。」
「ありがとうございます。うれしーです。さっきの試合、拝見させていただきました。すっごいすね〜あの正確なセンタリング。うちの十一番にも見習わせたいです。」
尉折が聞いてたら殴られてるゾ……。
相変わらずお調子者の流雲の発言に、葵矩は横目で流雲を軽く睨んだ。
物怖じせずに托力の手をとる流雲。
「でも、負けませんよ。」
そんな満面な笑顔を、一瞬にして真剣な瞳にする流雲。
托力も口元を引き締めた。
が――、
「あすかせんぱいは、僕のです。」
葵矩がこけるリアクションをしたのはいうまでもない。
トーナメント抽選に行ったときの尉折の発言といい、この流雲の言葉。
一体托力の目にはとういう風に映っているのか。
少し驚いて乾いた笑いした托力に謝る葵矩。
「飛鳥はんも大変やなぁ〜。」
腹から笑う声が聞こえ、その主である巨体が現れた。
まつる
大阪代表S高校のキャプテン、祭だ。
挨拶を交わして――、
「カフスもようゆうとるで。せでうちにもあんたのファンがぎょうさんおるねんで。サインでももろとこかな。」
もう一度祭が豪快に笑った。
葵矩は礼をいう。
神奈川、静岡、大阪ときたら――、
くりま
「栗馬。」
うきや
北海道のキャプテンと羽喜夜の姿もあった。
羽喜夜は、顎で挨拶を交わして簡易イスに腰掛けた。
ベスト四それぞれの代表が集まり、ほどなくしてテレビ局関係者らしき人たちが忙しく動き回り、テキパキと指示をした。
葵矩たちには、特にこれといって特別な指示はなく、司会者の女性からの質問に答えてくれといった感じだった。
生放送なだけに発言には気をつけなければならないだろうが、何かをやれというわけではないらしい。
とりあえず葵矩はほっとしていた。
「あ、それから。高校サッカー代表の皆さん。」
葵矩たちに向き直るスタッフ。
台本らしき数枚の紙をめくり――、
「紹介、インタビューの後、君たちの中から事前に決定したイケメンランキング発表するから、素でコメントください。」
どうやらこの中からイケメン――いわゆるイケてるメンズ。の一位から五位を発表するらしい。
「……。」
黙る葵矩に、
「こういうの視聴率とれんのかな。」
托力が首をかしげて同意を求めた。
「おもしろいことすんなぁ。呼ばれたゆうことはランキング内と思うてええねんか。」
「50%以下の確率だけどね。」
祭に托力が苦笑。
「僕は絶対入ってますね。で、あすかせんぱいが一位に決定!」
当然のように言い、一人で勝手に頷くのは流雲。
自分の名前をだされて葵矩は慌てる。
思わず周りを見わたしてしまう。
「こんにちは!お久しぶり〜!」
突然勢いよくドアが開いて、元気な声と、
よく
「翊!いきなり開けるなって……」
落ち着いた少し呆れた声。
そこにいた全員の目を集める。
二人とも背が高く、独特なオーラを放っていた。
アイドル系の容姿。
「……あ。」
みこと よく
「命さん!翊さぁん!」
葵矩が気付いて声をあげるとほぼ同時、流雲が笑顔で叫んだ。
甲高い声が響く。
葵矩も一息ついて顎をさげた。
白と黒のコントラストをスタイリッシュに決めた、甘めのフェイスの青年は、ドアを開けた青年を、まったく……。と、軽く睨んでから――、
「やあ、久しぶりだね。元気だった?まさか、こんなところで会えるとは思わなかったけど。」
「聞いたよー、これから決勝だって?すっごいよね、絶対応援するから!!」
人懐こい笑みで葵矩の腕をとるのは、もう一人の青年。
ながい みこと
その態度に再び呆れ気味なのは、永井 命。
十五歳よりアイドル界のトップに君臨して以来、出す曲出す曲トップテン入りを果たしている。
せら よく
そして、満面の笑みで葵矩の手を握り続けるのは、瀬良 翊。
こちらも今や知らぬものはいないであろう、アイドルグループのMOON LIGHTのヴォーカルだ。
二人とも共通の友人と通じて昨年知り合いになったのだ。
二人が出演するバラエティー番組にも出させてもらったことがある。
「あ、ありがとう。命くんたちも相変わらず大活躍だね。」
どうやら二人はゲスト出演らしい。
「オレ、正直あんまりサッカーに詳しくないんだけど……でも、今までの試合VTR見せてもらったんだ。本当、皆すごいよ!」
トップアイドルにもかかわらず高飛車なところが全くなく、命は殊勝にそういって微笑んでみせた。
人をひきつけるオーラがある。
「絶対!優勝狙ってよね!めちゃ応援するからさ!」
翊の爽やかな笑みも魅せられる。
葵矩はもう一度礼をいった。
流雲はあったりまえですよ。と相変わらずの態度で胸を張ってみせた。
「すっごいなぁ。飛鳥はんくらいになると、芸能人にもぎょうさん友人がいてはるんかぁ。」
そんな様子にあんぐり口をあけたのは、祭。
嫌味のない素直な反応だ。
葵矩はあからさまに両手を顔の前で振って否定し、流雲が代わりに大きく頷いた。
雑多な話しを数分して――、
「じゃ、本番で。」
二人はアイドルの風格を漂わせ背を向けた。
葵矩は、わざわざ来てくれたことにお礼を言って、本番までの時間を待った――……。
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