X -DEL SOLE-

                    3


短い笛が鳴った。

 <ゴール割っています!ライン上、わずかに内側!一点とみなされましたぁ!大阪二得点!>

 「ドンマイ!」

 「そうだ、よくやったよ。」

皆がカフスを労った。
五本中、三本。
並のG・Kじゃできない。

次は、俺たちの番だ。
きさし
葵矩が顔を引き締めた。
                                   すみの   たづ
 <続いて神奈川S高の五人が準備に入ります。一番手、主蓑 鶴。>

二点……いや、三点決めて、勝つ。
葵矩は、ペナルティーエリアに向かう鶴を見て軽く頷いた。
皆で声をかける。
観客も静まり返っている。
緊張の一瞬。
                うりばやし    まつる
 <迎え撃つは、もちろん瓜囃子 祭。ユニフォームを着替えてのポジションチェンジ!>

自分で蹴り、止める。
まさに一人二役。
軽くフットワークをする祭を見て、葵矩は唇をかみ締めた。
そして――、

 <止めたぁ!一本目!!すごい。何という身のこなしでしょうか!>

 「ドンマイ!」

 「ナイスファイト!」

あと、四人。 や し き
鶴を労って、夜司輝が颯爽とアップを終える。
るも
流雲の声援に頷いて、瞳を厳しくした。
緊張の色は見えない。
堂々たる態度。
                ほしな
 <二番手はテクニシャン星等。さぁ、期待にこたえてくれるか!おーっと!!フェイント!しかし、瓜囃子反応しています!!あー!!>

アナウンスの声が裏返った。
観客も一瞬息を飲む。
夜司輝は、蹴る前のフェイント、そしてコーナーぎりぎりを狙いシュートを放った。
ボールは祭の左手ぎりぎりを掠め、ループを描いて上コーナーに突き刺さって落ちた。
間をおいてからの大歓声。

 <すばらしい!初めのフェイントで揺さぶり、コーナー外れるかと思いきや、回転をかけてきましたぁ!!瓜囃子の柔軟さの上をいく天才的テクニシャン星等!神奈川一点!!>

 「すげー!!」

思わず、葵矩は両拳を握り締める。
夜司輝の爽やかな笑顔に、大きく頷いてやる。

 「ホンマ、侮れん奴やなぁ。コーナーのコーナーかて届くゆうた祭の上をいくやなんて。どないコントロール力や。」

カフスが溜息交じりの声で賞賛する。
葵矩も賛同した。
本当に夜司輝の成長振りには目を見張るものがある。

 「ありがとうございます。」

よし、いいぞ、勝てる。
確かな手ごたえを感じる。
もう一度、拳を握った。
        てだか    いおる
 <三番手、豊違 尉折、蹴ったぁ!!あー!良いコースをついているが、瓜囃子、止めたぁー!!>

尉折があからさまに悔しさを表し、戻ってきた。

 「ドンマイ!」

あと、二人。
ここで、入れたい。
次は――、
  あつむ
 「厚夢。プレッシャーに負けるな!俺がいる。大丈夫。」

葵矩は厚夢の背中を叩いて送り出す。
ここで入れば、葵矩が決勝点。
はずしても、サドンデス。

 「……はい。」

厚夢が深呼吸をした。
        ちぎり あつむ
 <一年生、契 厚夢。落ち着いてシュート体制に入ります。>

誰もが見つめる中の一対一。
初舞台。
しかも、自分が入れれば、ほぼ勝利。
そんな状態で緊張しないほうが無理かもしれない。
度胸試し。

 <契の足からボールがはなれた――!ちょっと下を蹴りすぎかぁ?高く上がるが――っ!>

一瞬、蹴るタイミングがずれた。
しかし。

 <おー!!入った!入りましたぁ!少し意表をついたシュートに、瓜囃子、反応が遅れたぁ!!>

タイミングのずれが功を奏した。
厚夢の蹴り上げたボールは、変化をともなって、ネットに突き刺さった。

 「はぁ……はいったぁ。」

本人も安堵の溜息をはく。

 「よくやった!」

 「……飛鳥先輩。すみません……ラッキーでした。」

厚夢の殊勝な態度に、運も実力の内だと皆が褒める。
葵矩も頷いた。
危なっかしいシュートではあったが、予想が不可能だったのは事実。

いける。
葵矩は心の中で拳を握った。
運もこっちに向いている。

 「何や……くそっ。」

祭が初めて顔を歪ませた。
それもそのはず、次は葵矩の番だ。
ここで入れられたら負け。

 「祭。ここまでや。葵矩のシュートはワレには止められん。」

 「何やてぇ?」

自信満々のカフス。

 「試してみぃ。柔軟さと俊敏さ、お前のコースの読みをもってしても。」

――葵矩のシュートは止められん。

もう一度、はっきり口にした。
祭が唇を噛む。

 <さぁー!二対二。ここで飛鳥が入れれば、神奈川決勝進出!!>

必ず、いれる!
葵矩は瞳厳しくゴールを睨んだ。

 「飛鳥先輩!」

 「せんぱい!」

 「飛鳥!!」

 「あすか――!!」

皆と観客席からの声援。
皆も手に汗を握る。

ここで入れなくてもサドンデス。
そんな考えは毛頭ない。
しかも、そうなれば流雲まで回ってしまう。

そんなこと、させない。
一層、瞳が厳しくなる葵矩。
体制を整える。

 「飛鳥 葵矩。どっから来る?右か左?それともコーナー?どこでも止めたる。必ず、ワイが止めたるで――!!」

瞳を瞑って一呼吸。
ゴールを見据えた。

 「大丈夫。葵矩なら必ずいれる。」

 「ああ。」

 「そうですよね。」

カフスに尉折、皆も頷いた。

 <神奈川キャプテン、飛鳥 葵矩。シュートを放った――!!……>

大きく息をすった為に、一瞬実況が途切れた。

 <なっ、なんと!ど真ん中――!!真っ直ぐそのボールはゴールへ向かいます!瓜囃子、構えます!!>

 「ど真ん中やてぇ?ナメとんのっ……!!」

 <瓜囃子、しっかりキャッチ!神奈川三点目ならずかぁ――?あ、か、体がぁ……>

またもや実況が途切れた。
誰もが祭を注視する。
ボールを抱いたカフスの大きな体が――、

 <瓜囃子の巨体が、宙に浮いた――!!ゴッ、ゴ――ル!!瓜囃子もろとも、ボールがゴールに吸い込まれましたぁ――!!スーパーシュート炸裂!!>

歓声、歓声、歓声。
うねりが国立に襲い掛かり、飲み込まれた。

 <何という度胸。飛鳥 葵矩!!ど真ん中を狙ってきました!そして、三対二、P・Kの末、神奈川S高校決勝進出――!!!>

地鳴りのような歓声が再び沸き起こり、国立を揺らさんとばかりに轟いた。

やった!!
勝った、決勝戦!!
葵矩は両膝をついてガッツポース。

 「飛鳥ー!!」

 「飛鳥せんぱぁーい!」

 「あすかぁ!!」

皆が抱きついてくる。
笑顔、嬉し涙、感極まる叫び。
国立に入り混じる。

 「……祭。」

カフスは静かに祭の手を引いた。

 「……。」

祭はカフスに手を引かれ、立ち上がり、顔を上げた。
皆と抱き合う葵矩を見て――、

 「完敗や。……ど真ん中やて?右か左かゆうとる時点でワイは負けとった。」

カフスは優しい笑みを漏らす。

 「それが葵矩や。素直で、誰よりもサッカーを愛してはる。ほで、恐ろしいほど純粋なストレート勝負。太陽のような奴や。」
     デル・ソール
 「……DELSOLEか。ホンマやな。また戦いたいわ。あいつと。」

――飛鳥 葵矩と戦いたい。

誰もが思う。
葵矩に触れた誰もが、サッカーを好きになる。
輝く葵矩に魅せられる。

 <国立、大歓声に包まれています!鳴り止まない拍手、歓声。観客総立ちです――!!>

 「……負けや。潔く認めたる。」
わかつ
和葛の前に手が差し出された。
大阪の十番、長髪の男だ。

 「……いや……でも、一回しか……」

 「何ゆうとるん。一回は一回や。手ぇなんぞ抜いとらんど。認めぇ。ワレはフルバックの素質がある。がんばりぃ。」

――あのコのことも。

和葛の言葉を遮って、力強く手を握った。
男の顔。
すがすがしさが見て取れた。

握手を交わす二人を見て、葵矩は思わず微笑んだ。

 <決勝の二つの椅子。制したのは神奈川!!>

熱狂冷めやらぬ中、アナウンサーも興奮隠しきれずに声を張り上げた。
                しみず                   うりゅう
 <この後、静岡県代表清水高校対北海道雨龍高校の試合が行なわれます。もう一つの椅子、争奪戦!!>

葵矩たちは、大阪の選手たちと挨拶を交わし鳴り止まない歓声に大きく手を振り、一礼した。

昨年と同じ場所までこれた。
決勝戦。
今度こそ。

葵矩は観客を見回し、感謝を込めて手を振りながら、決意していた。

今年こそは、頂点。
全国制覇――!!


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