Climax
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       / / 8 / 9 / 10 / 11 / あとがき

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 4月16日、日曜日。

  「おはよう。」

 白のハイネックの長袖にサーモンピンクのショール。
 赤のタータンチェックの膝上スカート。
 し な ほ          あつむ
 紫南帆は、厚夢に笑いかけた。
 稲村ヶ崎駅。

  「おっ、おはようございます!」
                                 ・  ・  ・  ・
 駅の前で足を投げ出していた厚夢は、姿勢を正し、気をつけをした。
 茶色のスタジャン。
 中は白の柄物長袖。
 茶色のだぼだぼの綿パン。

  「……時間、遅くなっちゃった?」

 ぼっ、としている厚夢に、心配そうに腕時計を除く。
 10時5分前。

  「い、いえ。そんなんじゃなくて……」

 厚夢は少し、顔を赤らめた。

  「きれいだな。と、思いまして。」

  「え?」

 突然の言葉に、紫南帆は大きすぎない瞳を丸くする。

  「いやぁ、やっぱ私服っていいですね。あ、もちろん制服でも紫南帆センパイは綺麗ですよ。」

 恥ずかしげもなく、言う厚夢。

  「一段と口が巧くなってぇ。」

 紫南帆がイタズラな笑みを浮かべ、厚夢を肘でつついた。

  「本当ですってば!」

  「ありがと。――本当。厚くん、背伸びたね。」

 厚夢の隣にならんで、見上げた。

  「あんときは、160なかったですからね。今は……175ぐらいですかね。」

 私は、中学から変ってないな。と紫南帆。

  「紫南帆センパイは、160くらいですか?15センチ差って丁度いいんですよね。」

 厚夢は意味ありげに笑う。

  「あ、紫南帆さんって、呼んでいいですか?」

  「え。……うん?」

 少し首を傾げる紫南帆。

  「藤沢で映画見て、それからお昼食べましょうか。紫南帆さん。」

 紫南帆の手を取った。
 そんな厚夢に、紫南帆は微笑んで――、

  「何か。すごく男の子っぽくなったね。前はかわいいってカンジだったのに。」

  「……。」

  「ごめん。傷ついた?」

 厚夢の顔を覗きこむ。

  「何か。厚くんじゃないみたいなんだもん。背も大きくなっちゃったし。」

 厚夢に取られた手を振り解くでもなく、紫南帆。
 プラットホームで電車を待っている。

  「すげー、嬉しいです。紫南帆さんにそんな風に言ってもらえるなんて。」

 厚夢は満面の笑みを見せた――……。


 一方――、

  「おはようございます。」
 かすり
 飛白の家の前。
 黒のYシャツに黒のズボン。    みたか
 いつものようにシンプルにまとめた紊駕の姿。
 長く赤い髪をかきあげた。

  「おっす。」

 淡いピンクのフレアースカート。
 ボレロに白のレース。
 肩までの髪を大きなピンクのリボンで結っている。
 童話の中のお姫様が飛び出してきたかのような光景。

  「どこ行きたい。」

  「藤沢……お買い物とかしたいです。」

 飛白はうつむいて、答えた。

  「……。」

 紊駕は無言で了承して、大船駅まで歩いた――……。


 そして、S高校グラウンドでは――、

  「ささ、早く片付けしましょう!」
 つばな
 茅花が元気良く後片付けを急かした。
 午前11時。
 サッカー部の練習終了。
                      あすか
  「せーんぱい。嬉しそうですね。飛鳥先輩とでかけるからですか。」

  「まあね。何で知ってるの?」
      とゆう
 茅花は都邑の言葉に、手を止めた。
 わかりますって、あれだけさわいでりゃ。と、都邑は心の中で呟いて、

  「いいこと教えてあげましょっか。」

 にっこり、笑って茅花の耳元にささやいた――……。


  「まーだ、悩んでんの?」
              いおる
 少し離れたところで、尉折。

  「いや……。」
         きさし
 言葉を濁した葵矩に、気楽にいけって。と肩を叩いた。
 小さく頷いて、礼をいい、とりあえず、身支度を済ませる。

  「じゃ、先輩。藤沢駅で。」

 茅花は大きく手を振って、葵矩に微笑み、足取り軽く駅に向かった。

  「ごめんね。何かけしかけたみたいで……」
 じゅみ
 樹緑が静かに謝ったのを、

  「え。いや、ごめん。俺、そんな嫌そうな顔してたかな。えっと……誰のせいでもないんだ……ごめん。」

  「何、それ。」

 尉折が尋ねる。

  「う、ん……」

 樹緑は、無言で尉折を見た。
 
  「なんだ、それ。どーりであいつ今日部活来なかったわけだ。あのヤロウ。」

 葵矩が紫南帆と厚夢のことを話すと、尉折は空を睨んだ。

  「でも、いんだ。紫南帆が決めたことだし。」

  「……。」

 尉折と樹緑は、葵矩の複雑な心境を思ってそれ以上何もいえなかった――……。


 藤沢駅では――、

  「そだ、今日部活だったんでしょ。」

 紫南帆たちは、映画の上映までまだ時間があったので、色々な店を回っていた。

  「知ってたんですかぁ、俺がサッカー部だって。」

  「うん。さぼったな。」

 イタズラな笑み。

  「あ、でもですねぇ。今日のこと約束したののほうが先だったんですよ。」

  「別に怒ってるわけじゃないの。でも、飛鳥ちゃんも頑張ってるから、あんまりサボらないで、頑張ってね。」

 厚夢の唇が窄まった。

  「……飛鳥センパイと、けっこうお話したりするんですか?」

  「……うん。」

 ふーん。と、不服そうに頷いて、映画館までの道のりを歩いた――……。


 藤沢駅南口から伸びる歩道橋の上では――、
 
  「ありがとうございます。」

 改めて、飛白が紊駕に頭を下げた。

  「私、付き合ってもらえるなんて思ってもみなくて……都邑がですね。中学のころの先輩の話ししてくれたんです。」

 真っ直ぐ前を見て歩く紊駕の背中を見ながら、飛白。
 30センチ程も身長差がある。

  「言いたいこと何でも言えちゃって、すごくうらやましくて……」

  「良いウワサなんてねーよ。」

 遮るように紊駕。

  「そ、そんなことないです。如樹先輩は優しいです。本当に。だって、コンタクト拾ってくれたときだって、助けてくれたときだってっ!」

 ムキになって言う飛白に軽く微笑して――、

  「食う?」

 紊駕の足が止まった。
 歩道橋の上のクレープ屋。
 甘い匂いが立ち込めている。

  「え。……あ、はい。」

 昼食をとったあとのデザート。
 紊駕は注文を終え、クレープを手渡した。

  「あ、ありがとうございます。あの、お金……」

 いらない。と、顔で示す。
 すみません、と言って――、

  「あの、えっと、広場、行きたいです。」

 紊駕のYシャツを引っ張った――……。


 藤沢駅北口では――、

  「飛鳥せんぱーい。見て見て、似合います?」

 デパートの服売り場。
 茅花は甲高い声を上げて、試着室のカーテンを開けた。
 真っ白な膝上のフレアスカートを突き出すような格好。

  「……え、う、うん。」

  「かっわいーよ、茅花ちゃん。Very Pretty!」

 尉折がその短いスカートを覗くような姿勢。
 その瞬間。
 尉折の顔が歪む。

  「ってぇ。」

 樹緑は、タイトスカートに少しかかとのある靴で、尉折の足を踏んだのだ。
 切れ長の瞳でにらみを利かす。

  「もうっ、樹緑ちゃんってば。やきもち焼いちゃって。」

  「なっ、何いってんのよ!」

 細い腕を組んで、顔を反らす樹緑に――、

  「かっわいー。」

  「っちょ、ちょっと!」

 尉折が樹緑を抱きしめた瞬間――、

  「いってー!!」

 飛び上がる尉折。
 また足を踏まれたらしい。

  「飛鳥くーん。」

  「……尉折。」

 泣きまねをして、葵矩に抱きついた。
 葵矩は呆れた顔を隠さずに、溜息。

  「そうだ、先輩!あたし、休みたい!!」

 思いっきり腕を引っ張られて、駅に続く出口へ向かった――……。


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