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いつも一番トップだった。
特に努力なんて要らなかった。
勉強も運動も。俺は、誰よりもできた。

一番トップになることが当たり前だと思っていた。
ケンカでさえも……。

俺、流蓍 維薪なしき いしんは、小5で既に160センチを超えた。
タメの男たちはもちろん、中学の奴らでさえガキに見えた。
進学する予定の区立S中の不良連中に呼び出しをくらった時も。
瞬殺で伸してやった。

年齢、体格、カンケーねぇ。俺は、恐いモンなんてなかった。
でも、世界は広い。
強い奴は五万といることは理解してる。
その内の数人が身近にいることも。

 「クソ龍月たつき!今日こそ負けねぇ!」

俺は、フェイントを一発。顔面に放って左みぞおちを狙った。
そんなフェイントに目すら瞑らず、龍月―――如樹 龍月きさらぎ たつき
は、俺の左を軽々さばいた。
さらに、次に来るだろう俺の右蹴りに対しての素早い対応。全くそつがない。
くっそ。当たんねぇ。スキが、ねぇ。

 「毎度毎度あきないなぁ。俺の顔見るなり、いつもこれかよ。」

攻防の最中だというのに、息すら乱れない龍月。
まじ、ばけもんかよ。
中学の奴らを瞬殺したパンチも、キックも。
こいつの前では全く歯が立たない。
掠りもしねぇ。奇襲でも邪道でも。

 「お。今日もやっとんなぁ。」

穏やかな大阪弁。手にしているのは、カップアイスとスプーン。
飛龍 海空ひりゅう みあは、両エクボをへこました。

 「あ、たっちゃん。いっちゃん。」

その後ろからアホそら―――飛龍 空月ひりゅう あつき。犬のようにぴょんぴょん飛び跳ねた。
龍月は、よ。と、余裕のあいさつ。まじ、むかつく。
ぜってぇ勝ってやる。いつか。ぜってぇトップになってやる。

 「はい。ほな、休憩。」

海空が俺と龍月の間に入って、アイスのスプーンを俺の口に差す。
うわっ、危ね。反射的に口に含む。自動的に身体が止まった。

 「ってめ。はふないらろ危ないだろ!」

スプーンを加えたまま怒鳴ったら、発声がおかしくなった。
海空が腹を抱えて笑う。
でも、知っている。
俺が喉につかえることのないタイミングとスピードでスプーンを差した。
そんなことができるほど、こいつも戦闘力が高い。
甘ったるい、キャラメルの味が口内に広がった。

 「あ。間接キス。」

龍月のヤローが横やりを入れる。既にちゃっかりスマホに夢中。
姉ちゃん危ないよ。と、アホ空が真顔で口にする。
俺は海空にスプーンを返して、持ってきたペットボトルの水を飲んだ。
海空は全く気にせずに、そのスプーンでまたアイスを食す。

……。
キャミソールにショートパンツ。薄着でラフな格好の海空は高1。
身長は、やっと俺が抜いた。長い手足。女だと、意識させる身体。
当の本人は全く無関心。小6の俺なんてガキでしかない。おそらく。

アホ空は150にも満たないチビ。でも、アホみてぇに柔軟性があって俊敏。
そして、ここは飛龍家の敷地内にある道場。神奈川県、鎌倉市。
俺は、都内の自宅から主に週末ここに通っていた。

飛龍家は、こいつらの父親が三代目を務める、極道一家だ。
両親同士が友人で、俺は幼いころからここに通って身体を鍛えるのが日課だ。
上には上がいる。だから、ここでもトップを目指している。
ここ以外で闘いに負けたことは、まだ一度もない。

 「いっちゃんは本当すごいよねー。たっちゃんに毎回闘いを挑むなんて。」

アホ空がタオルをよこす。
受け取って、お前みたいにヘタレじゃねぇ。と、吐き捨てた。
アホ空は意に介さず笑んだ。いつか勝てるよね。と。
あたりめぇだ。と、龍月を睨む。

龍月の両親とも親が友人同士。
龍月は鎌倉市内に住んでいて、市内にある私立K学園高等部の1年だ。
いつも飄々としてて、チャラい風で、でも俺ら幼馴染で最強な男だ。
悔しいからもちろん本人には言ってやんねぇけど。

 「僕も食べたい。」

道場の開きっぱなしの扉。抑揚のない声。
ボケてん―――飛龍 天羽ひりゅう てんう。は、海空のカップアイスを指さした。

 「ええよ、ええよ。ちょっと待っとって。」

海空は満面の笑みで、渡り廊下でつながっている母屋に走った。
ボケ天は海空たちのイトコで、やっぱり市内に住んでる。
母親が、飛龍組が設立、支援する児童養護施設―――あおぞら園。
ここから数メールのところ。で働いている。
だから、ほとんどここに生活の拠点を置いていた。

父親が、ロシアと中国のハーフだからか、ボケ天の髪は銀色。
右目が青、左目が茶のオッド・アイだった。
身長も俺よりも高い。
ひょろりとしているくせに、ロシア、中国の武術も扱える。
本気で怒ったこいつは、ヤバイ。
でも。
普段は空ばっか見上げているような、何考えてんだか不明のボケヤローだ。

 「維薪。また龍月くんに負けたんだ。」

そして、察しの良い辛口天然ヤロー。

 「次は勝つ!」

 「兄貴。たまには本気で相手してやれよな。」

もう一人、辛口で口が悪い紫月しづき―――如樹 紫月きさらぎ しづき。が現れた。
龍月の妹で俺のいっこ上。
こいつも女のくせにまあまあ強い。鼻っ柱と態度は文句なく最強。
アホ空とボケ天はタメ。この6人がいつメンの幼馴染だ。

 「そーだなぁ。じゃ、俺が勝ったら、維薪。俺のお願い聞いてくれる?」

龍月が人差し指を挙げた。策士的予感。
断らないとわかってての言い方。龍月の常套手段。

 「負けねぇ。」

でも、引かない。
龍月がいつも本気じゃないのは、紫月にいわれなくてもわかってる。
だからこそ、チャンス。
龍月の願いが何かなんてわかんねぇけど、ようは勝てばいい。
負けを考えてなんかいられない。

――――――……。

 「……アイス。役に立ったなぁ。」

天井を見上げる俺の額に海空がガリガリ君ソーダをのっけた。
海空の胸元が見えそうで、横を向く。
ガリガリ君が滑り落ちるのを押さえて、起き上がった。

K.O。しかも龍月は半分以下の本気。おそらく。
スピード、動体視力。あと、経験。か。
くっそ。悔しいけど、負けだ。

 「大丈夫か。維薪に足りないのは、経験、かな。」

知ってる相手だからって予断はダメだ。と、指摘。
龍月は普段、攻撃を受けたり捌いたりするほうが圧倒的に多い。
つまり、防御。

でも、相手に勝とうとしたときの攻撃は、毎回パターンがない。
俺は、無意識に龍月は次はこう動く。と、予想してことごとく失敗した。
龍月はそれすらも見切っていた。
経験―――もっと色々な奴、多くの奴と闘う必要がある。

 「ナイスファイトだよ、いっちゃん!」

 「うるせえ、アホ空!」

龍月が俺とアホ空のやり取りに噴き出して、じゃ、約束。と、手招きをした。
―――お願い聞いてくれる?
しゃあねぇ。負けは負けだ。従うしか、ねぇ。
俺の従順な態度に、龍月は皆と離れた、話の聞かれないところまで俺を連れる。
いい子だねぇ。と、茶化した。
そして言った。

 「維薪。来年、K学に来い。」

 「……。」

龍月のマジ顔。数秒その意図を考えた。皆から離れた理由。
アホ空とボケ天。か。

 「さすが、頭いいと助かるなぁ。」

俺が察したのを察する。龍月は続けた。
空月と天羽には否応なく闘わなければならない日が来る。と。
二人の家柄故。日本一でかい組織ヤクザ、飛龍組。その跡取り。

 「だから維薪。お前にあの2人のそばにいてやってほしい。」

珍しく真面目に、しかも頭を下げた龍月に、俺は少なからず動揺した。
本気の願い。強く伝わった。
それとも。と、顔を上げた龍月。
いつもの他人を茶化す、口角を上げる嘲笑。

 「今からだと受験勉強間に合わねぇ?」

 「受かるわ、一番トップで!」

ざけんな。と、吐き捨てた俺に、龍月は笑った。ありがとう。と。
俺は一笑に付した。

その翌年、春。
俺は私立K学園中等部に入学した。当然トップ合格で。



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あとがき

読んでいただきありがとうございます。
只今6話執筆中。

昨晩は、Cさまとたくさんお話しできて楽しかったです!
もう、ずっとテンションがやばくて……

このままつっぱしろー!
とストレス発散!!
でも腱鞘炎と闘っています(泣)

このあと、UNTITLEDを挟み、新しい話へと続いていきます!
乞うご期待。


2021.7.21 湘




















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