5
いしん
「維薪元気してたか。」
ふらっと実家に帰ってきたイトコの
滄 氷風。
赤と白のネイキッドバイク―――
HONDA CB400FOURにまたがっていた。
夜中の11時少し前。
LINEにこっそり出てこい。と、メッセージ。
「帰ってきたワケじゃないんスか。」
返答の代わりにヘルメットが飛んできた。
隣にもう一台のアメリカンバイク―――ハーレーダビッドソン。
きりしま みらく
桐嶋 未来空が、口角を上げて笑った。
氷風は、金色―――否、黄色い。襟足の長い髪。黒いシャツに細身のジーンズ。
テディ
Teddyとは毛色こそ違えどホストの風体。
未来空も負けてはいない。高い身長に一本に結った長い髪は、緑色だ。
Tシャツのまくった袖からは、筋肉隆々の腕が見える。
「……30にもなるオッさん2人が、何夜中に中坊呼び出してんスか。」
「まだ26だし。つーか、そんな頭してる奴にゆわれたかねー!」
氷風が俺の赤髪をかき回した。
自分でいうのもなんだが、3人集まると、カラフルすぎだろ。
「定職もつかないでフラフラしてるってあさざさん嘆いてましたよ。」
あさざ伯母さんの言葉をそのまま伝えるが、氷風は、どこ吹く風だ。
聞けば、小学生のころから無免でバイクに乗っていたらしい。
さらに、北海道やら九州やらツーリングに行ってしまう、糸の切れたタコ。
なんだそうだ。
まさか、未来空もかよ。との俺の言葉に、未来空は、俺は定職だ。と答えた。
「その頭でですか。」
俺が訝し気に見上げると、未来空は勝ち誇った顔。
「何その科学的根拠のない言葉。学年トップがいう言葉じゃないなぁ。」
未来空にも頭をかき回された。未来空は、科学に明るい秀才だ。
トップなんだろ。当然。と、肩を叩かれる。
頷くと、氷風がバイクのシートに背が付くほどのけぞった。
「俺なんか下から数えた方が早かったわぁ。」
「本当に血ぃつながってんのか、お前ら。」
未来空は爆笑した。
はたから見たらヤバイ奴ら。だが、面白い男たちだ。
俺が氷風の後ろにまたがると、まもなく安定した走りで出発した。
目的地はわかっている。
神奈川の有名な観光地、湘南江ノ島。
真夜中の江ノ島。昼間とは全く違う顔。
まばらな一般人に、多数のバイク。
氷風と未来空のバイクが止まると、そこにいた男たちが腰を折った。
デジャブだ。と、思った。Teddyのそれと。
違うのは、バイクがあって、年齢層が少し高いこと。か。
氷風はここいらを仕切る、湘南暴走族
BAD×BLUES―――
B×B。
の3代目総長で、未来空が副総長だ。
「平塚で暴れてる族がいるらしいっす。」
仲間の一人が口にした。ふぅーん。と、氷風は何かを考えるように空を仰ぐ。
「あの辺は、細々とした族が多いからな。」
俺らに触れるか、無法すぎなら黙ってらんねぇな。と、未来空。
詳細を調べるよう仲間に指示をした。
とうきょうはなみやびかい
東京華雅會とB×B。シンパシー。
ただ、氷風はバイクが好きでバイク好きの仲間とつるみたい。
そんな雰囲気が強いが。
突然誰かが、そんな
族、
殺っちまいましょうよ。と、口にした。
「誰だ、今ゆった奴。」
氷風の瞳が尖った。俺も一瞬ビビったほどの変わり様。
少なくとも、俺の知ってる氷風の表情からは逸脱していた。
「ムシできないと判断したら、俺が
頭と
ナシつける。」
勝手に動いたら許さねぇからな。
氷風の恫喝。皆びびって一斉に頭を下げて承諾した。
100を超す大部隊のトップ。まさに鶴の一声だった。
「
族としてぶつかるのは合理的じゃないからな。氷風に
押し付けとけ。」
「はぁ?」
未来空がひりついた空気を和ませる。氷風が睨みつけた。
「間違えた。総長に
任せとけ。だったわ。」
周りが一斉に吹きだして、氷風が鼻で笑う。
皆の中に飛び込んで、和気あいあい。じゃれ合いを始めた。
この世界。ここなりの自警団があった。
「ねぇ、維薪くんてさ、BLUES三代目総長の息子なんでしょ。」
男が話しかけてきた。いつの間にか、囲まれる。
同い年くらいの男たち。瞳を輝かせて、興味津々さを隠さない。
この族は、もともと2つの族だった。らしい。
江ノ島をはさんで、東浜、鎌倉側がBAD。西浜、茅ヶ崎側がBLUES。
BADの初代総長は、氷風の父親、つまり俺の伯父の
氷雨さん。
BLUESの三代目は、オヤジだった。と聞いた。
本人から聞いたことは、ない。
俺はそうみたいですね。と、答えた。
「あの頃は、族全盛期っしょ。
薪さん。マジ、憧れっス!」
しかも、今は警察上層部。すげぇ!と、俺が褒められてるようで、反応に困る。
周りはそんな俺をよそに勝手に盛り上がっている。
「氷雨さんに
海昊さん。そして、
紊駕さん!」
「それなぁー!」
一気に空気が熱を帯びた。口々に騒ぎ出す。
アホ空の父親、海昊さんにクソ
龍月の父親、紊駕さん。
カリスマ的存在だった。と、聞いた。
皆こぞって武勇伝を語りだす。
温度差こそあったが、悪い気はしなかった。
トップ
総長から脈々と受け継がれていく、正義の思想。
「そういえば、
細雨さん。空自の
偉い人だって知ってた?」
マジで―?と、一段階喧騒が増した。
細雨さん―――
滄 細雨。は、BADとBLUESを統合した、B×Bの初代総長。
氷雨さんの弟。俺にとっても親族だ。
空自―――航空自衛隊。細雨さんは、戦闘機乗りを経て、今は幹部。
「お。そっか、維薪。お前、細雨兄ちゃんに似たんだよ。」
「血ぃつながってねぇし。」
氷風の言葉に即答。
え?と氷風が空を仰いで、血縁関係を考えているサマに、未来空は爆笑。
まぁいっか。と、自己解決。
頭は良くはないが、快活で男気のあるイトコだ。
それから、小一時間。雑多な話があちこちで盛り上がっていた。
24時を境に、一旦解散され、ぱらぱらと自由に何人かが帰りだした頃。
突然、野獣のような咆哮が響いた。
何かと何かがぶつかる鈍い音。
氷風と未来空が一番にその渦中に走った。俺も倣う。
江ノ島へとつながる弁天橋の袂。
誰かが倒れている。傍らに鉄パイプを持った男が立っている。
さくや
「朔弥!!」
氷風が倒れた男を抱きかかえて、未来空が立っている男の鉄パイプを奪った。
ケンカ―――というより、一方的な奇襲。か。
てめえ、何さらしてんだぁ!!ざけんな!!などの怒号が飛ぶ。
未来空が仲間のそれらを制して男を拘束した。
男はもがき、何かをわめいているが、未来空の屈強な力に動けずにいる。
「……大丈夫。ッス。」
氷風の腕の中にいた男が言葉を発した。
どうやらかろうじて防御できたのか、避けられたのか致命傷ではないらしい。
痛ってぇ。と頭と腕を抑えたところをみると、受け身が取れたのだろう。
とはいえ、鉄パイプ。手加減なし、相手がノーガードなら、絶対死んでる。
氷風は、未来空が抑えている男の前に立った。
「
殺りてぇなら堂々とタイマンで
殺れ!!」
睨みつけた、その瞳。男を冷静にさせるのに時間はかからなかった。
まもなく未来空が男の拘束を解いた。男たちが向き合った。
野次などは一切氷風が許さなかった。
どうやら、先に言っていた平塚の奴らしく、この集会に乗り込んできたようだ。
逆にすげぇ度胸。
袋にされる気満々じゃねぇか。
それとも、バカなのか。男の気持ち、量り兼ねる。
……。
2人が中央。その周り、B×Bの連中が取り囲む。
いつでも戦える、臨戦態勢だ。
誰もが中央を注視する中。
その光景を少し離れた橋脚に身を隠すように、数人の男が盗み見ていた。
ここから見えるのは、3人。
金髪、天パーリーゼント、そして青メッシュの長髪。
先頭の金髪。明らかに奇襲を狙っている。
氷風と未来空は気が付いていない。
あそこからだと遠い。俺が止めるのが手っ取り早そうだ。
タイマンをジャマする、無法な奴ら。
俺は静かにそいつらに近づいた。
金髪が隠し持っていた鉄パイプを振りかぶる。
「おい。何ゲスいことしてんだよ。」
金髪の男へ脇腹ワンパン。鉄パイプを奪う。
残りの2人が目を丸くして、何かを叫んだ。
B×Bの連中が一斉にこっちを見る。
「維薪!!」
氷風の声。残念ながら、2人にケリをお見舞いした後だった。
砂浜をナメている、3人。
鉄パイプを3本取り上げた。重っ。こんなモン、人に振り落とすかフツ―。
「うわっ。瞬殺。」
未来空が楽しそうに口にして、鉄パイプを受け取った。
タイマンは中断された。
今度は4人。囲いの中で膝をついている。
「てめえらの、
頭。呼べ。」
氷風の容赦ない口調。4人は揃って首を横に振った。
殺される。目が言っていた。
やっぱ明らかにバカだろ。
「おい。殺されてぇのかよ。俺らと殺り合うつもりか?」
未来空の恫喝もサマになっていた。見た目的にも迫力満点だ。
B×Bの連中も睨みを効かす。
未来空は男たちのポケットを探り、スマホを取り出して顎をしゃくった。
頭に連絡しろ。と、いうことだ。
帰った奴らもいるとはいえ、大半は残ってた。
さすがに多勢に無勢。
まぁ、俺なら勝算、なくはないが。
観念した青メッシュがスマホを操作した。
まもなくして、男が2人現れた。おそらくその族のトップとNo.2。
「すまねぇ、カンベンしてやってくれ!!」
砂浜に頭をつけて、氷風の前にひれ伏した。
奇襲とタイマン妨害。B×Bの連中はフザケんな。許せるか。等騒いだ。
未来空が、黙れ。と止める。
「この話は、これで終わりだ。いいな。」
氷風はそこにいた皆に布石を打った。
後は、当事者と俺ら頭が話す。と。
周りに尾を引かせない。復讐をさせない。タンカを切った。
無血の和解。だった。
これが、B×Bの
総長のやり方。か。
確かに、相手は素直に詫びを入れた。
2人で現れたことからも族同士でやり合う意志はない。と観れた。
あとは、当人同士―――朔弥と呼ばれた殴られた男も受け入れた。
ならば、無用なケンカは避ける。
未来空のいう、合理的。でもあった。
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あとがき
氷風&未来空のらくがきはこちら2枚目→
Over The Top 0
未来空の頭、BLOGでも書いた通り、某アニメのマネっこ(笑)
→
BLOG
Teddyと同様再現ムズ。
赤髪(ストロベリーレッド)の維薪とのスリーショットはカラフル♪
朔弥は意外とイメージ通り♪
陽色は7話くらいに登場。お楽しみに!
2021.8.9 湘