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関東壱角會かんとういちかくかいの名前の由来は、壱角――― 一角。極めて優れていること。
そして、一角獣。ユニコーンやキリン。紋章が示すのは、麒麟。だった。

 「麟大郎りんたろう!!」

しゅうが制止を促す声音で叫んだ。堅汰けんた廉史朗れんじろうも首を横に振る。
俺がアホそらを介して柊に確認したのは、麟大郎の苗字だった。

巳嵜みざき 麟大郎。柊はすぐにLINEをよこした。
関壱會かんいちかいのトップが巳嵜 あきら。妹が琳音りんね。ときいてピンときた。
麒大郎、琳音のりんの音。麒麟。だ。

疑惑の解消。平塚連合に関壱會の仲間がいて俺を売った。
その正体は、金パツ、チビの麟大郎だった。

 「なぁんだ。バレちゃってたの。」

愛嬌のある幼い顔が歪んで見えた。
ドタバタに乗じてタイミングを計り、俺らを潰す気だったのだ。

 「クソだな、麟大郎。」

仲間―――堅汰をハメた。平塚連合とB×Bビービーをぶつけようとした。
俺は握っている鉄パイプに力を込めた。

 「それよりクソなのは、てめえだ、おっさん。」

実の妹と弟に犯罪を強要させた。
日本のトップに立つだぁ?ふざけんな。
トップを目指すのは、重要だ。
でもやり方が、目指すトップが、汚ぇし間違ってんだよ、クソが。

俺は、麟大郎を捕らえて柊たちの前に差し出した。
堅汰が目顔でうなづいた。麟大郎の頬を張る。

 「これでチャラだ、麟大郎。お前も辛かったんだろ。」

 「……俺らのとこに、戻ってこいよ。」

堅汰が勇ましく、柊と廉史朗が許容する優しい笑顔で、3人、手を差し伸べた。
麟大郎は、一転、あふれた涙を拭きもせず、両手を伸ばそうとした。

 「ふざけんな、麟大郎!!てめえ、誰のおかげで生きてんだ、コラ!!」

麟大郎の体が硬直した。絶対的支配者の兄の恫喝。
巳嵜家には、親がいなかった。兄の麒が稼いだ金で生計を立てていた。
だから、従うしかなかった。
こっちに来い。兄に言われて弟は唇をかんだ。

 「ふっ、ふざけてるのはどっちだ!!」

まさかのとさかが叫んだ。
兄貴なら、弟なら、互いが間違ってたなら正し合うんだよ。
それが兄弟なんだよ。と、声を震わせながら、叫んだ。
涙だか鼻水だかでグシャグシャになっている、汚ぇぼこぼこの顔。

 「そうだよな、陽色ひいろ。お前は、兄ちゃんオレが間違ってたら正してくれるもんな。」

朔弥さくや先輩が優しい声色でとさかの頭を撫でた。

 「とことん本気で話し合って、ケンカもして、そんで仲直りするもんな。」

とさかが声をあげて泣いた。麟大郎も兄をみて涙をこぼした。
少し、羨ましく思った。俺には兄弟がいないから。
兄弟がいたらどんな感じなのか。一生わかんねぇが、想像はできる。
自分の一部のように、大事な存在。

 「おい、おっさん。てめぇはハナから詰んでんだよ。」

俺は巳嵜を睨んだ。
周りを見渡す。黒服たちは一人残らず地面をなめていた。

 「俺らに手ぇ出した時点でな。」

巳嵜は意気消沈。観念したように頭を垂れた。
End Of War。Leeリーが建物の外にいる妹の希映のえにインカムで告げた。
希映は了承したようだ。警察と救急車の手配。

 「金輪際、東京に手ぇ出すな。次は地獄の底まで追いかけて殺す。」

 「おっと、神奈川にもだ。」

Teddyテディ氷風ひかぜ。関壱會にタンカを切った。
そして、仲間を解散させた。一斉に散り散りになる、東華とB×B。

 「ほら、こっからは大人の後始末しごと。だ」

未来空みらくが俺らに向かって手の甲を振った。
俺は、事前打ち合わせ時、最後まで承諾しなかった。
氷風と未来空に後始末は任せる手筈。
当然、今も。

 「俺は、残る。」

維薪いしん。と、氷風が叱咤した。
Teddyが大人ぶった表情で、いっくんは巻き込まれただけだ。と、言った。
自分が残る。と、付け加えた。俺に早く立ち去るよう促す。
警察と救急車の音が近づいてきた。

 「自分てめぇの始末は自分てめぇでつける。」

それが、親父から教わったケツの拭き方だ。
未来空はため息をついた。

親父が何とかしてくれるなんて考えは毛頭ないし、してくれるハズもねぇ。
学校は、謹慎か停学か。退学は避けてぇが、それも覚悟の上だ。

 「ひゃぁ、オトコだねぇ、かっけぇ、やっぱほれたわぁ。」

まだしゃべれんのか、キモ男。
俺は、キモ男の胸倉を掴んで凄んだ。うるせぇ。と。
キモ男が顔を近づけてきやがった。突き放す。きしょい、マジで。

 「ねぇ、ひとつ、教えてよ。」

両手両足を縛られた芋虫のようなキモ男は、やはりイカれた表情で尋ねた。
維薪くんのお父さんて本当に警察?と。
俺は目を細めた。
やっぱ、ブラフか。脅しのネタ。龍月たつきの事といい、杜撰なんだよ。
俺は鼻で笑ってやる。

 「さぁな。戻ってきたら・・・・・・教えてやってもいいぜ。」

キモ男は、楽しみだぁ。と、やはり犬歯を見せる笑い方で笑った。
親父は、公安でも特殊な立場の人間だった。お袋も同様。
一般人が簡単に情報を手に入れることなどできない。

 「アホ空、ボケてん。とさかも。お前らは早く行けよ。」

突っ立ったままのアホ空たちを追い払う。
こいつらまで巻き添えにするわけにはいかねぇ。
万が一は、こっちは親父に頼るつもりだった。土下座してでも。

 「……大丈夫だよ、維薪。」

龍月の笑顔。
全て計画通り、お見通し。と、書いてあった。
パトカーの音と救急車の音が止んだ。
その音の多さに反して、駐車場に入ってきたのは、数人の警察官だった。
2人の男がこっちに向かってくる。スーツ姿だ。

 「うわっ、派手に暴れたなぁ。」

若者言葉を発するが、年齢は親父と同じか少し下くらい。チャラい印象の男。
その隣には童顔だが精悍な顔つきの細身の男。
龍月がアホ空のリュックの中身が拳銃であることを説明して託した。

後からパラパラと入ってくる制服警官たち。
チャラ男は黒服たちを連行するよう指示を出す。
全てを承知しているように。

巳嵜も琳音もキモ男も連れていかれた。
そして、麟大郎も。

 「待ってる、麟大郎!戻ってこいよ!」

柊の言葉に涙でうなづく麟大郎。
おそらく麟大郎はネンショーに入ることはないだろう。
琳音も同様。すぐに解放される。

 「お、たきぎさんと真実まことさんのかすがいかぁ。いーね、赤髪。」

チャラ男が俺の頭に触れた。思わず払う。
童顔男がチャラ男を叱って、俺に頭を下げた。
こいつら、親父の部下―――公安か。
こんな事件に公安が出張るわけがねぇ。
俺は龍月を睨みつけた。

龍月は相変わらず飄々とした態度で事の流れを見ていた。
絶対ぇ後でシメてやる。
俺は誓った。



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あとがき

維薪、男前やー!かっけぇな。ww
龍月は相変わらず策士。何でもお見通しなのよ。

朔弥と陽色も良い兄弟でしょ♪
パパ(だーれだw)子育て頑張ってるの。

チャラ男に童顔男。だれとだれかな。ネタバレ……。

このあともネタバレー!ww
ノート2冊目ー!!
まだまだ続いちゃいます!!
お楽しみに♪


2021.10.8 湘




















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