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次の日の登校日。夏休み最後の登校。
終業のチャイムと共に教室の扉が開いた。
「なしき いしん。って、どいつ。だぁ?」
一目で判る、ヤバい奴。
白髪にパステルのカラフルカラーメッシュ。長髪ウルフカット。
耳ピアスに首ベルト。手にも、じゃらじゃらアクセ。
極めつけは服装。
左右非対称のロングスカート。長さの異なるジャケット。ブーツ。
「お。
赤髪。お前かぁ?」
だるそうに語尾を伸ばす、キモいしゃべり方。
俺は無言で睨みつけた。周りは関わりたくない。と、そそくさと立ち去る。
とさかとアホ
空、ボケ
天だけが教室に残った。
「俺が
流蓍 維薪だ。何の用だ。」
立ち上がった俺をアホ空が目で制す。構うな。と。
俺の返答にキモい発声をしたそいつは、異様に尖った犬歯を見せて笑った。
意外とタッパあるねぇ。と、ウルフカットの髪をかきあげる。
全体的にキモい。ゲスい。振り切ったイカれヤロー間違いナシ。
「俺はぁ、
狛路。狛犬のコマに、道路の路。なぁ。」
いちいちイラつく、人を食ったようなしゃべり方。右手を差し出してきた。
当然払う。乾いた音とキモ男のブレスがじゃらりとなった。
「へへっ。赤い髪。ケンカ強い。ケーサツの息子。かぁ。」
キモ男は、払われた右手を舐めた。何かぶつぶつ呟いている。
まじキモいわ。
さらに舌なめずりをかまして、俺の目の前に封筒を出した。
四つ角の端を親指と人差し指とでつまむ、キモい持ち方。
「インビテーション♪」
「誰から聞いた。」
タイミング、確率から考えると、あの一連に係ることだ。
もし、
今日も登校日。と、知って来たのなら、疑惑が一つ。
目の前のキモ男と封筒をにらみつける。
「内緒だよぉ。頭いいんだぁ、気に入りそうだぁ。なぁ。」
おどけた言い方で
招待状をよこし、意味不な言葉。
俺はさぁ、ただの遣いだからぁ。
と、後ろ手を振って、じゃあねぇ。と、消えた。
ちっ。
俺は
招待状をみて舌打ちする。
「
名前ぐれーちゃんと調べろや。」
―――なしき 維
新 様
8月19日(土) 20時 六本木ヒルズ 48階
日時と場所。差出人はなし。名前以外PCで印刷された字。
「はぁ。乱闘とかにならなくてよかったよぉ。維薪くん、やっぱすげぇな!」
とさかが今まで息を止めていたかのように、大げさに吐いた。
絆創膏だらけの顔。
アホ
空が
招待状をのぞき込む。さすがに奴とはお友達にはなれないらしい。
ボケ天が
龍月に送る。と、断りもなく写真をとった。
やはり俺と同じく関連性有と観たようだ。
「今日、サイゼ集合だって。」
ボケ天がLINEを見て言った。当然のようにとさかがうなづいた。
まぁ一応当事者。か。それを見たボケ天が龍月にメンツを送信。多分。
俺らは身支度を済ませ、鎌倉駅のサイゼリアを目指した。
小町通りは夏休みだからか、いつにも増して人が多い。
「つうか、何。あの、得体の知れない奴。」
とさかが悪態づく。小町通りの真っ赤な鳥居をくぐる。
東急ストアの地下。サイゼリア。席についてドリンクバーを注文。
ほどなくしてやってきたのは、龍月と
朔弥先輩だった。
朔弥先輩は、左手包帯、左側頭部に手当の跡があった。
俺をみとめて例によって礼を言った。
「
陽色のことも。世話かけたね。」
それに、親にもバレちゃったでしょう。と、謝った。
俺が一笑に付すと、ありがとう。と、笑う。
弟のとさかにも、俺の為にわざわざありがとな。と、頭を撫でる様。
全て承知。おそらく龍月、または
氷風か
未来空から連絡があったのだろう。
「兄ちゃん……。」
とさかが涙目で朔弥先輩に抱きついた。俺のせいなのに。と。
そもそもヤラセだろ。と、俺は吐く。
キモ男から受け取った封筒の中身をテーブルの上に置いた。
朔弥先輩がアホ空とボケ天に自己紹介をして、龍月が本題に入る。
「つまり、維薪は平塚連合にそいつの仲間がいる。と?」
ボケ天も、そう思う。と、うなづいた。龍月は、そうか。と、天井を仰いだ。
俺のことをキモ男、または、キモ男の上にいる黒幕。に言った奴。
登校日が今日までだということ。ケーサツの息子だということ。俺の容姿。
招待状に書かれた名は、女のような丸文字だった。
―――なしき 維新 様
俺の名を口頭で伝えたなら、苗字は難しくて書けない。
PCで調べても分からないから、ひらがな。
名前は勝手な思い込み。またはPCで調べ維新。
明治維新の維新。
書いた奴の思考。そんなところだろう。
だとするなら、俺の名を難しいと言っていた
柊は、おそらく除外。
龍月もうなづいた。
平塚連合のトップは、柊の兄―――嵩原先輩。
の上の兄、
嵩原 仗だ。と、言った。
B×Bとの抗争を望むはずがない。とも加えた。
だとすると、3人。ただ、当事者の
堅汰は、
担がれた感がある。直感。
不確定だが、
麟大郎か
廉史朗。または二人か。
「……維薪と天が言うなら可能性高いな。
朔、どう思う?」
「はい。最近湘南界隈で飛び交っているようです。引き抜きのウワサ。」
発生源は不明ですが。と、朔弥先輩は礼儀正しく龍月に言った。
引き抜き―――ヤクザなどの組織、または新勢力への。
「うん。つながる、かな。」
龍月は顎に手を添えて脚を組み替えた。
龍月の頭の中。高速で膨大な量の情報が飛び交い、正解ルートへ向かっている。
おそらく。
あと、女の件は。と、俺が言うと、ちょっと待って。と、立ち上がった。
その時。
「たっーくん!!」
甲高い声と共に、まるで犬のように龍月に飛びついたのは、
Teddyだった。
ピンクの長髪。ピンクのカーディガン。の下は制服だ。
ワイシャツに赤いネクタイ。茶色のチェックのズボン。
俺が進学する予定だった渋谷区立S中の。
改めて、中坊なのか。と、Teddyを見る。
いや。龍月に頭を撫でられて喜ぶ幼い姿は、むしろ、
中坊にしかみえない。
「Teddy軽いなぁ。」
しがみつくTeddyを抱きかかえるようにして、龍月は笑った。
その身長差20センチほど。成程、ガキに見えるわけだ。
クソ龍月がムカつくほど、でけぇ。
その横規定の制服を少し着崩した姿の
Leeが頭を下げた。
「Leeも。ありがとね。」
龍月はそのままの体勢で、Leeに座るよう促す。
Teddyを赤子のように降ろした。
Teddyは満面の笑みで両手を振って俺らに挨拶。
アホ空が同じ動作で答えた。
とさかが眉根をひそめた。おそらくTeddyの風体に。
龍月が手短に紹介して、本題に入ることを示した。
氷風と未来空は、LINEで連絡をとるようだ。
事の始まりは、夏休み前からだったという。
渋谷、新宿、池袋、浅草。
いずれもTeddy率いる
東京華雅會のメンバーが嫌がらせを受けた。
ほぼ同時期に氷風率いる
B×Bに対しても。
傘下ではないが、B×Bとは仲の良い族、平塚連合、横浜の族も。
今回のとさかのような策略的ワナ、嫌がらせを受けていたらしい。
その意図は、おそらく
東華とB×Bの解体。もしくは引き抜き。または、両方。
「で、嫌がらせの次は、パーティにご招待か?」
俺は招待状をもてあそんだ。
「なんで、維薪くんがご招待されんの?」
とさかが首を傾けた。俺は無言。
龍月がとさかを曖昧にいなして、TeddyとLeeに話を振った。
女の件―――渋谷で俺に声をかけた背の低い方の女は、
浅我 希映。
Leeの妹だった。J小のタメ。
希映は祭り当日、女友達と待ち合わせをしていたところ、女に声をかけられた。
トイレの場所を聞かれたらしい。
そして、その女は東華の男たちに希映をナンパさせた。
Leeの妹と知った上で。おそらく。
たまたま俺たちが通りかかったのは、計算外だろう。
俺が小5の時に伸した男がいたことも。
ただ、結果東華の内輪もめが起こった。
つまり、その女が一連の仲間。
とさかと堅汰に自分をナンパさせた女だ。
「希映もさ、利用されたってコトなんだよね。」
改めてTeddyが口にする。
そのゆっくりとした口調は、室温を一度ずつ冷やした。
朔弥先輩やアホ空、ボケ天は察した。Teddyの心中。
とさかだけが、そっかあ、ひどい話っスね。と、ポテトフライをつまむ。
顔には出さないが、Teddyは相当ご立腹だ。
今Teddyの
道理に反する奴がいたら、間違いなく殺される。
「Teddyにも氷風くんにも同様の招待状が届いた。」
つまり、
決戦日だ。と、龍月は大真面目に言った。
俺は納得した。
だから、祭りや集会の時のTeddyと氷風の動向。そしてLINEグループ。
おそらく俺が招待されたのは、その過程での付加価値。
だとすると。と、龍月と目顔し合う。
「……あの、狛路っていう人。
関東壱角會のNO.3だ。」
はぁ?思わずアホ空を見る。何で、こいつがそんなこと知ってんだ。
龍月が、周りには判らない程度だが焦燥感を表した。
俺の情報網。と、おどけた。
そして、引き継ぐ。
ボケ天が、うちの情報。と、ぼそり。
俺以外には聞こえていない。気づいた奴はいない。おそらく。
うち―――
飛龍組。
「関東壱角會は、六本木辺りで最近勢いのあるチーム。いや、犯罪集団だ。」
龍月が説明しだした。
俺はアホ空を睨む。
おそらくこいつは、飛龍組の内部事情を知り得る立場になった。
プリン先輩の事件後か。
察しの良いボケ天は、その前からかもしれない。
さらに龍月や
海空も。
あの時現れた、
王虎昊なる胡散臭い中国人の存在。対応。物語っている。
俺は心の中で舌打ちした。
龍月の視線。ここでは話すな。後で教える。と、言っていた。
「関東壱角會のトップは、
巳嵜 麒。年は27。氷風くんたちの世代だ。」
仲間を増やすことが目的だろう。と。
「そんで、NO.2は、オンナ―――
巳嵜 琳音。」
突然の、男前口調の女の声。全員がその声のした方向を向いた。
「……
紫月ぃ。」
龍月があからさまに困った声をだして妹の名を呼んだ。
紫月は、湘南S学園中等部のセーラー服姿で仁王立ちしていた。
その脇からひょっこりと希映が顔を出す。
Leeがクールな表情を崩して龍月と同じく妹の名を呼んだ。
「あたしにも来たんだよ。当事者だろ。」
紫月は招待状を受け取っていた事を暴露した。
通路向かいの4人掛けブースに座って、短いスカートもお構いなしに脚を組む。
とさかが解りやすく赤面した。
紫月の招待状は、直接琳音から受け取ったらしい。
祭りのとき。希映と待ち合わせをしていたのは、紫月だった。
琳音は俺らが東華とぶつかった後、紫月に手渡した。
かわいい子を招待している。と。
龍月とLeeの親が知り合い。と、言っていた。
つまり、紫月も希映と以前から知り合いだったのだろう。
希映ではなくなぜ紫月だったかは不明。
だが、東華の周りを
かき混ぜるには十分か。
かわいい。ねぇ。俺は紫月を見た。
父親似の鋭い一重の瞳。睨まれたら男でも怯む。
ストレートな長い髪は一本で高く結わいている。
身長は俺より低い165くらいか。
中2の平均の女としては高い方だろう。
スタイルも悪くはない。とは思うが、かわいい。は、疑問。
性格と戦闘力を知らなければそう思う奴もいるのかもしれない。
俺の視線に気が付いて、睨み返してきた。怖っ。
祭りの時。数分違えばナンパ連中は紫月に伸されていたかもな。
どっちが幸いだったか。
「俺にGPSでもつけてる?名探偵の妹よ。」
龍月が乾いた笑いで紫月を茶化した。そんなムダなことするか。
と、紫月は一蹴。
希映がLeeとTeddyの会話を聞いて、紫月に連絡してしまったのだ。
と、謝った。
とりあえず、ぼやっとだが背景が見えてきた。
琳音が関東壱角會のNO2で、キモ男がNO3。
だとしたら黒幕は関東壱角會のトップか。
説明時に龍月が書いたメモを見る。
―――関東壱角會。巳嵜 麒。
「なあ、柊と連絡取れんだろ。」
龍月でもアホ空でもボケ天でもいい。疑惑の解消。
アホ空がうなずいてスマホを取り出した。
龍月は、氷風と未来空にLINE後、8月19日をどうするか。と、問う。
「僕は、行くべきじゃないと思います。」
スマホから顔をあげてアホ空がまじめに言った。リスクの回避。
「つーかてめぇは招待されてねぇだろ。家で寝てろ。」
「黙ってるわけにはいかないよ。いっちゃんは行くっていうでしょ?」
うるせえよ。知ったような口利くな。
僕は当然行くよ。と、Teddy。Leeもうなづいた。
こんなやり方、僕の
道理に反するからね。と、壮絶に笑う。
「お、俺もナメられたままじゃムカつきます。逃げたくねぇっス。」
とさかが奮起する。でもその拳は震えていた。
てめぇも呼ばれてねぇだろ。と、俺はとさかを制した。
「病人と女、子供は寝てろ。」
TeddyとLee。氷風と未来空は絶対参加だろ。龍月は自己判断。
5人、もしくは6人で行く。それが最善だ。
俺のタンカ。
朔弥先輩が、俺も病人扱いなのね。
と、頬をかいて、優しい配慮だ。と、くしゃっと笑った。
龍月は思案する顔。
スマホの着信を見てうなづいた。自己解決。決断。
龍月のスマホ画面。
氷風が参加する意を示した。未来空は条件付き。
関東壱角會が何を目論んでいて、当日何をするつもりなのか。
徹底的に調べてから。と。合理的判断。
紫月は女と言われ除外されたことに怒り、行くと言い張った。
アホ空は心底困った顔をした。
ボケ天は相変わらずぼけっと天井を見上げていた。
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あとがき
ヒマ人の僕はまだまだ イラスト書きまくってる。→
Over The Top 0
UPの順番ずれちゃったけど。
8枚目、K学に現れた狛路。(キモ男By維薪)
9枚目、龍月&Teddy(出会い頭のとびつき編w)
10枚目、龍月&紫月&希映(Teddy&Leeと待ち合わせ)
次回多分下記イラスト公開!
11枚目、関東壱角會NO1の巳嵜 麒とNO2琳音。
まだ書き溜めてる海空&王虎昊のイラストは公開未定。
現在、2冊目いっちゃったので、多分公開できそう?かな。(笑)
2021.9.15 湘