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関東壱角會かんとういちかくかい―――関壱會かんいちかい。は、ここ数年で結成された新勢力。
六本木を中心とした半グレ集団だが、今では都内全域まで広がりを見せている。
ヤクザでも暴走族でもない存在。街の不良集団。それが半グレ。
半分グレーとか半分グレてるとかそんな意味だ。

一昔前までは、成人の不良はヤクザの傘下だった。
暴対法のツケや時代の流れ。世代的価値観の変化。
もっと利口にあざとく、単純な暴力だけでやっていけると考えた奴ら。
ヤクザの重しの効かない犯罪集団としてデカくなっていった。
その中でも関壱會は、資金力とネットワークを駆使してのし上がってきた組織。
売春、詐欺、賭博。なんでもあり。と、言われている。

 「高っ!」

氷風ひかぜが田舎モン丸出しで目の前の高層タワーを見上げた。
8月19日。決戦の日。
地上54階、地下6階、高さ238mの高層オフィスビル。

その周り。
住宅、ホテル。映画館などの商業施設がある。
このタワーの48階が決戦場だ。
未来空みらくは氷風を一瞥して、手筈通りに。と、片手を上げた。
TeddyテディLeeリーは慣れた様子で歩き出した。
龍月たつきは、迷子になるなよ。と、俺を茶化して紫月しづきと別の入り口へ向かう。
俺は龍月に舌打ち。独り、エレベーターで受付を目指した。

わかってはいた・・・・・・・が、48階まで行くのに辟易した。
まず、敷地内から受付が遠い。
案内表示も施設がたくさんあるせいでわかりづれぇ。
とりあえずエントランスを見つけた。

受付で招待状と身分証明書の為の学生証を出す。
紙っぺらの入館証を受け取る。
キモ男がよこした封筒。
ご丁寧に入館方法と必要なモノ―――身分証明書。の別紙が入っていた。

48階は3階のエレベーターホールから。
と、案内を受け、エスカレーターを昇る。
エレベーターの前、社員用の無人ゲートが何台も設置されている。
一般客は通過に必要な非接触カードの代わりにこの紙っぺら。
ガードマンにそれを見せてエレベーターに乗り込んだ。

エレベーターは偶数、奇数階別。
間違えると一度ロビーで一階まで降りないといけないらしい。
七面倒くせぇ。
48階。ワンフロアは優に1000坪を超える。
入り口でまた入館証と学生証を提示。
中央に集中した共用部を囲うかのようなドーナツ型の間取り。

 「いらっしゃーい。お、髪型いいねぇ。」

2階の受付を通過したときからわかっていたであろう、俺の到着。
キモ男が目ざとく髪型を指摘して、迷わず来れてえらいねぇ。と、茶化した。
俺は事前打ち合わせ通り、学ランにいつもは立てている赤髪を下していた。
学ランは必要なものに正装。と、あったからだ。

確かにオフィス階での私服は目立つ。
ましてやTeddyのようなビーサン、Tシャツはなおさら。
だが、自分のスタイルを曲げないTeddyはビーサン、Tシャツだった。
逆に東京生まれ東京育ちだからかもしれない。
氷風なんぞは似合わねぇジャケットを着ていた。

―――入ったか。
唐突に龍月の声。頭の中に響いて気持ち悪ぃ。
髪で隠した耳内のインカム。の合図。
インカム―――複数人秘話通信が可能、IPインカムシステム。
龍月が皆に配った。入手先は不明。
氷風と未来空、TeddyとLeeからもレスポンス。

 「ここで待っといてねぇ。」

K学に来た時とは違い、一応正装的なものを身に着けていた。
白タンクトップのインナー。
花柄の派手な濃紺のジャケットを肩落としで着こなす、キモいスタイル。
首輪と手のアクセサリー。やっぱり、イカレた風体。

俺は部屋を見渡した。
入り口と反対、奥はガラス張りの窓。そして、その右手奥に扉。
中央に楕円形のテーブル。その周りに肘掛けチェアが10脚。

ほどなくて氷風と未来空。TeddyとLee。が入室。
念の為、Teddyたちとは他人の振りをする手筈。
一番入館に手間取るのは龍月だろう。
紫月の付き添いと通すか。まぁ、策士龍月なら心配ない。
予想通り、紫月に続いて龍月が入室してきた。視線を交わす。
その数分後、2人組が2くみ。
4人とキモ男が入ってきて、ドアが閉められた。

 「まぁまぁ座ってくださいよぉ。」

相変わらずキモいしゃべり方。わざわざ俺たちを名指しで席を指定した。
東京華雅會とうきょうはなみやびかいのTeddyくんにLeeくん。
湘南暴走族 BADバッド×BLUESブルースの氷風くんに未来空くん。と。
調査済み。を、アピールするためか。にやついた笑みで続けた。
最後に入室した2人組は埼玉と千葉の名の知れたチームのNO.1とNO.2だった。
そして、特別ゲストと称して俺。紫月。その付き添い、兄の龍月。

立ち位置がはっきりした。
呼ばれた順に上座から配置されている。
関東壱角會の目的は、やはり人材集め。だ。

 「ようこそ、関東壱角會へ。歓迎します。」

お待たせしました。と、芝居がかったセリフが奥の扉からきこえた。
今日は祝賀会パーティです。と、どこか宗教的、思想犯的臭いのする男。
関壱會のトップ、巳嵜 麒みざき あきら。が現れた。
金色の髪。
長めのトップを後ろに流し、サイドを刈って三本線を入れた奇抜な髪型。
角ぶち眼鏡。ピアス。成金的な金の腕時計に指輪。
ストライプのスーツをきちんと着こなす。インテリヤクザ風にも見える。
物腰は柔らかいが、威圧的、傲慢的な雰囲気が内に秘められている。

 「わざわざ東京くんだり・・・・・・まで来させて何が目的よ。」

横柄な態度。埼玉チームのNo.1か。後ろに控えるのがNo.2だろう。
どっちもクマみてぇにでけぇ。20代後半か30代か。
巳嵜はご足労すみません。と、口にするが、目が笑ってねぇ。
逆らったら殺しヤリますよムード全開だ。

埼玉の態度に同調した千葉の2人。
昔はドヤンキーでしたっつーナリ。頭の悪そうなNO.1とNO.2。
NO.1は斜に構えた体勢で巳嵜に睨みを利かす。
4人は、入り口カウンターに並べられた料理を食していた。

そんな4人を一瞥して巳嵜は、関壱會のNO.2、琳音りんねを呼んだ。
改めて巳嵜が仕切る。自己紹介の後。
夜景を背景に両手を広げた。

 「ここにいるみんなは同志です。」

一緒に日本の将来の希望となりましょう。と、勝手に演説を始めた。
日本の若者の現状。格差社会。全て蹴散らして私たちが日本一になる。
身勝手な正義。

 「てめぇ、何がしてぇの?」

1℃も2℃も室温を下げたのは、いい加減怒り心頭のTeddyだ。
仲間ハメたり、ちょっかいだしたり、やり方が汚ねぇんだよ。
と、立ち上がった。

 「つうか、何このガキ。俺より上座ってありえなくねぇ?」

Teddyの態度に埼玉のクマが立つ。
知らね。Teddyの地雷。踏んだな。

 「それに、チ……っ!!」

チビ。と言おうとしたのだろうが、続かなかった。
楕円形のテーブルの上。
滑るようになめらかで、素早い。全く無駄のない動きだった。
テーブルから飛び回し蹴り一発。クリーンヒット。
クマが白目を向いて床に倒れた。

 「ひゃは。強ぇ。」

キモ男が奇声を発する。
Teddyは何事もなかったかのように、うっそうとテーブルに降り立った。
埼玉のNO.2と千葉の2人が椅子をひっくり返して立ち上がり、凄んだ。
Teddyに手をあげようとした、瞬間。

 「うるせぇ。」

座れ。と、鶴の一声を発したのは、氷風だ。
怒鳴ったわけじゃないのに、この場を一瞬で静めた。
その口調と鋭い視線、オーラは、B×Bビービーの集会を思い起こさせた。
埼玉と千葉の奴らも無言でそそくさと座りなおす。

 「すごい。やっぱりTeddyくんと氷風くんは。」

想像以上です。と、満足そうな笑顔で拍手する巳嵜。
興奮を隠さずに続けた。
自分には財力がある。金を生み出す力。
そして、Teddyと氷風にはカリスマ性―――東京と神奈川の求心力。
タッグを組んだら日本のトップに立てる。
高揚した表情の巳嵜。

 「犯罪で日本一を目指すのか。おっさん。」

俺は胸糞悪い気分を言葉にした。未来空が吹いた。

 「財力、カリスマ。そして計画性が揃えば組織としては間違いなく成功する。」

合理的な考えだ。と、未来空はいった。
だがな。と、立ち上がる。

 「やり方が合理的じゃねぇ。」

迫力満点の恫喝。
その未来空の巨体と威圧感に巳嵜が思わず一歩引いた。
巳嵜は両手を挙げて、悪かった。と、上ずった声を出す。

 「君たちを試したりして申し訳なかった。君たちの力は本物だ。」

東華やB×B、その周りをハメたりちょっかいだしたりした理由ワケ
誰が東京と神奈川のトップなのか。そして確信に至った。

 「私がトップに立つのではない。君たちだ。私はサポート。妹の琳音もだ。」

女性陣をまとめるのは、彼女でも良い。と、巳嵜は紫月を示した。

 「でも・・?」

紫月が思い切り睨む。こっちの地雷も踏まれたか。
いちいち言葉と心中が違ぇんだよ。
と、顔に似合わない汚い言葉と男顔負けのタンカ。
埼玉と千葉の奴らはすでに蚊帳の外だった。

 「まあまあ。あたしら顔もいいし、役に立つだろ。」

なだめたつもりの琳音。火に油。
肩に乗せられた琳音の手を振り払う紫月。

 「ばかか。役に立つ?犯罪にか?」

関壱會は、各業界のお偉いさんたちから金を巻き上げていた。
ハニートラップ、売春、水商売、女を良いように使って。
かわいい子を招待している。琳音が言っていた理由ワケ

 「……仕方ないですね。」

大げさに巳嵜はため息をついた。キモ男が指を鳴らす。
奥の部屋から黒服の厳つい大人たちが湧いてきた。

 「残念です。交渉決裂です。か。」

黒服の一人が、存在を消して隅に座っていた龍月のこめかみに銃をあてた。
可哀想に、妹思いの兄が死にますね。と。
龍月は、きちんと着た学ラン。いつもはしない黒縁メガネ。
髪をおろした真面目くんのナリをしていた。

 「みぃんな、お友達なの。知ってんだぜぃ。」

キモ男が俺の耳元でささやいた。
こっちには人質がいるからぁ。手ぇ出すなよ。と、インカムの存在を示唆。
俺の髪に触れた。キモい。まじ。
俺が睨みつけると、ネット遮断したからねぇ。
と、舌を突き出した。犬歯がのぞく。
埼玉と千葉の奴らは固まって腰を抜かしていた。

 「ガキ相手に大人が銃使うのかよ。」

その声に恐れは全くない。
Leeは祭りのときを彷彿させる、低く凄みのある口調で言って立ち上がった。
黒服を目で刺す。
予想外の高圧的な態度とLeeの風体に銃を持つ黒服が怯んだ。
その瞬間。

龍月が目にもとまらぬ速さで黒服の銃を持つ腕をつかんで背負い投げ。
黒服は、受け身を全く取れずに床にたたきつけられた。
その上に馬乗りになった龍月は、銃を奪う。

巳嵜もキモ男も琳音も。埼玉と千葉の奴らも同様、唖然。
口が開いたままだ。
当然俺たちだけが知っている。

 「ダークホース。なめないでよねぇ。調査不足のツケ。な♪」

龍月が眼鏡を開襟した胸にかけ、髪をかき上げた。
口角をあげて嘲笑。策士龍月の爆誕だ。
紫月が呆れてため息。
TeddyとLeeが誇らしげに笑う。氷風と未来空も。
皆知っている。一番最強なのは、こいつだ。と。

 「……計画性。ブレーン。か。」

巳嵜がはっ。と、したようにつぶやいた。
形勢逆転。
龍月は慣れた手つき・・・・・・で銃のセーフティをかけた。危ないからね。と。
そんな龍月をみて、巳嵜は歩み寄った。

 「えっと。龍月くん。表には目立ってないけど、ブレーンは君だったんだ。」

はは。と、額に手をあてて嬉々として言った。

 「やられたよ。すごいな。欲しい・・・!!」

気ぃでもふれたんか、こいつは。
ひひっ。と、俺の後ろでキモ男も笑った。祭り・・の始まりかなぁ。と。

 「父ちゃんに連絡できねぇだろう。どうするぅ?」

相変わらずキモ男は俺の耳元でしゃべる。
インカムが無反応と確認するために。
巳嵜が手を挙げた。号令。
窓際に整列していた黒服たちが一斉に銃を構えた。
龍月に伸された黒服が立ち上がり、銃を返せと迫る。龍月がそれに応じた。

 「……。」

俺らは全員拘束された。
結局これかよ。力でモノ言わす、汚ねぇやり方。恐怖支配。
無尽蔵で身勝手な正義。悪意の扇動。

 「悪いようにはしない。協力を約束してくれたら、解放する。」

巳嵜は俺を見た。
君のお父さんにも、まだ言ったりしない。安心して。と、恫喝。
俺の招待理由―――警察の親父を脅す。または、搾取。
利用するためのコマ。

 「はっきりゆっとく。俺らはお前らの仲間コマにはならない。」

協力はしない。と、拘束状態で氷風は睨みを効かせた。
巳嵜はため息をついた。両手を天井に向ける。
この状態でどうするのか。と、不敵に笑った。



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あとがき

10月にはC様にあえるかな♪
緊急事態宣言も解除方向らしい。
相変わらずひっきーの僕ですが、だからこそ、物語はどんどんすすむ。
執筆ただいま16。たのしーな。
UPもがんばるね!

イラストも沢山になってきたので、別ページにまとめました。
EntertaimentのIllustrations

またC様の素敵なイラストお待ちしています!!
もちろんK様、みなさまからも♪
妄想大感激!!

Over The Top 0にも引き続きイラスト公開しています。

新作:11枚目、関東壱角會NO1の巳嵜 麒とNO2琳音。→Over The Top 0

海空&王虎昊のイラストはEntertaimentのIllustrationsにて公開!
実際の作中のシーンではないため、ここには載せず。
妄想シーンの爆誕ですww

では、では、楽しんでいただけたら幸いです!!
みなさま腐らず楽しみましょう♪


2021.9.23 湘




















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