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―――OK。
タイミングよくボケてんの声が頭の中に響いた。

 「こうすんだよ!」

俺の声とほぼ同時。奥の扉が蹴破られた。           
ボケ天が10人もいる黒服の小手を一瞬で取った。
鞘には入っているが、真剣だった。
続いてアホそら
体操選手の如く、舞い上がった銃を素早く回収。俺たちの拘束をも解く。
全く無駄のない俊敏かつ柔軟な動き。

 「紫月しづきちゃん。」

ボケ天が背中に挿していたもう一本の真剣を紫月に放った。
紫月が黒服に立ち向かう。
紫月は俺らの中でもボケ天と俺に次いで剣術が得意だ。
決着はあっという間についた。

 「なぜだ……ネット回線は遮断したはず。」

巳嵜が呆気にとられたまま言った。
当然の疑問。でも俺ら―――龍月たつきには想定内。
インカムに気が付かれることも、回線の遮断も。

 「見たろ。俺らには、身軽なサルがいること。」

俺の言葉にアホ空がひどいな。と、眉をしかめた。
巳嵜が、まさか有線か。と、口にした。

そう、そのまさか。だ。
電源場所の事前把握。十分な長さのLANケーブル。
高低差、障害物があろうが関係ない。
アホ空の身体能力をもってすれば、最速でネット回線を普及できる。

 「眼鏡の精度、ちょっと悪いよ、龍月くん。」

ボケ天が息も切らさずに相変わらず飄々とした辛口コメント。
龍月が用意したカメラ内蔵の眼鏡。入手先不明だが。
龍月とボケ天の視覚の共有。敵の人数、位置の完全把握。
龍月はゆっとく。と、失笑した。誰に。かも不明。

 「このインカム、警察とつながってるとでも思ったか?」

俺は、キモ男に中指を立てた。ガキのケンカに親出すか。と吐き捨てる。
おもしれぇな。と、キモ男は笑った。

アホ空はケーブルの代わりに銃を詰めたリュックを背負って、退避。と叫んだ。
埼玉と千葉の奴らをかばうように、退路に導いた。相変わらずのお人好しだ。
全員散り散りで脱出。目的地―――地下駐車場。

 「人集めて追え!逃がすな!!」

予想通りの巳嵜の反応。飛んで火にいる夏の虫。俺は嘲笑。
さぁ、フィナーレだ。暴れんぞ!!

 「監視カメラ、バカにすんなよ。てめぇらの行動、お見通しだ。」

口調と心中があってきたじゃねーか。俺は巳嵜に悪態づいた。
わざと駐車場に誘導されているとも知らないで、巳嵜は憤りを露わにした。
エレベーターで地下駐車場まで、ノンストップ。

 「遅ぇっスよ、維薪いしんくん。」

低くうなる爆音。EX-4の後ろでとさかが笑った。B×Bビービー特攻服トップクにタスキ。
手当跡がなくなった朔弥さくや先輩がアクセルをふかして、うっす。と挨拶。
氷風ひかぜ未来空みらくに頭を下げた。その横、後ろ。一斉にヘッドライトが点灯した。150over。
駐車場右側手口いっぱいにB×B、平塚連合。さらには横浜の族が塞ぐ。

 「知らなかったかぁ?今日は、8月19日バイクの日。だぜぇ。」

氷風がニヒルに笑って、てめぇら、準備はいいか。と、族連中を鼓舞した。
殺すな、死ぬな。捕らえて拘束。端的な未来空の指示。
皆がガムテープ、タイラップやロープなどを一斉に掲げて返事をした。
巳嵜や黒服たちが引きつった。

 「待たせたな、東華お前らっっ!!」

Teddyテディの自信あふれる魅力的な満面の笑み。
左側出入り口の人壁が一斉に腰を折った。こちらも100over。
駐車場の出入り口はこれですべて塞がれている。

 「ルール違反に制裁を。」

地を這うような、恫喝的、怒気を含んだLeeリーの声。
東華は喚声をあげて突進した。こっちは殺す気満々だ。
氷風が殺すなよ。とTeddyに釘をさすが、知らねぇし。と嘲笑。
巳嵜が慌てて俺を守れ!と黒服に叫んだ。大乱闘開始。
銃はさすがにあれで全部か。こっからは拳。身一つの勝負。楽しそうだぜ!!

 「うはぁ。ホンモンの祭りだぁ!」

目の前のキモ男。どこか恍惚的、快楽を切望する表情で笑った。
イカレてる。

 「てめ、まじキモいんだよ。」

俺の右ハイキック。まともに入った。
185はある高身長、カンケーねぇ!
前傾姿勢になったキモ男に左腹パンお見舞い。
弱ぇ、弱すぎるわ!

俺は拳を奮った。躊躇なく。顔面パンチ。拳が肉にめり込む感覚。
ローキック膝裏蹴りから鳩尾鉄拳。コンビネーション。
スピードを緩めずに叩きこむ。
キモ男が血を吐いて腹を抱えて蹲った。

 「観えてんぞ!」

後ろからの黒服二人の奇襲。回し蹴り2連発で瞬殺する。
キモ男がゆっくり立ち上がった。例によってキモい舌舐めずり。
血に染まった顔面。吸血鬼よろしく尖った犬歯を見せる。

 「強ぇなぁ、すげぇなぁ、維薪くん。惚れ惚れするわぁ。」

完全にイってやがる。キモいの通りこして得体の知れなさすぎ宇宙人だわ。
俺はキモ男の両手を後ろで縛って膝を折らせた。
立てねぇように両足拘束。
キモ男はその間も俺の動向を狂喜した目で見ていた。
ある種トランス状態。病的だ。

あちらこちらで大方ケリがつきそうな頃。
江ノ島で氷風に土下座をした男―――嵩原 仗たかはら じょう
しゅう
柊と嵩原先輩の兄。が声をかけてきた。

 「色々ありがとな、維薪。柊のこと、頼むわ。」

柊や嵩原先輩とは似ていない、巨体。のわりには表情は優しい。
おそらく20代後半か30代。
黒服たちがこっちに向かってきて、言葉の意味を考える暇はなかった。
仗も黒服を相手に移動したので、距離が開いた。

視線を右にやると丁度とさかが3人を相手している。
既に顔はぼこぼこで拳も血だらけだった。意識もヤバそうだ。
よろけてボケ天とぶつかった。

 「陽色ひいろくん、ジャマだからどっか隠れててくんない?」

無慈悲なボケ天の言葉。言い方。と、とさか。無傷なボケ天にため息をついた。
実力差に打ちのめされた感。

 「おい、とさか。前だけ見てろ。」

俺はとさかの背に自分の背を向けた。
ストレート以外のとさかへの攻撃を全て捌く。
弱ぇなりにもタイマンなら負けねぇだろ、堅汰けんたとのタイマン思い出せ。
と声を張った。

 「一発も当たんなかったが、お前は倒れても諦めなかったろ。根性みせろや!」

 「……維薪くん。」

うぉぉぉっ―っ、と威勢だけはよく拳を振り上げるとさか。
まぐれ当たりをかまして喜んだ。

 「当たった!維薪くん、当たったよ!あ!!」

当たんねーほうが不思議だわ。ため息。
とさかは紫月をみとめて、やばい。と、叫んで駆け出した。  
二人の黒服が、紫月の両腕を広げるように掴んで膝を折らせた。
りんね
琳音が勝ち誇ったように腕を組んで、紫月を笑って見下ろしている。
真剣は背中に挿したままだった。

 「女のくせに、何粋がってんだよ。兄貴に従ってりゃいーの。」

女には女の役割があんだよ。と、精一杯大人ぶった言い方。
綺麗な顔してんのにな。と、黒服に目配せした。
黒服が屈んで紫月のセーラー服胸元に手を伸ばした。
とさかがやめろ!っと叫ぶ。

 「女のくせに?男とか女とか、カンケーないから。」

紫月は、立膝をついた。
自分の両腕を素早くひねり返して黒服二人を正面の黒服にたたきつけた。
見事に練り上げられた胆。大男が軽々と宙を舞った。
へっ。と、とさかがフリーズした。

紫月は誰よりも男前に笑って、あたし、最強。と、口角をあげた。
確かに。真剣使わずしてこの強さは認めるわ。
とさかの100万倍は余裕で強ぇ。
紫月は、琳音の前に立ち、一発。左手で頬を張った。
乾いた良い音が響いた。

 「自分の価値を自分で下げんなよ。」

レディース総長顔負けのタンカを切る。琳音はあえなく紫月に拘束された。

 「くっそ、ふざけんな!」

自分を守る黒服たちが次々と倒れていく。
巳嵜は逃亡を考えたか、エレベーターに向かった。
丁度エレベーターが降りてきた。
子犬を抱えた女が、開いた扉から見えた光景に目を白黒させた。

 「どけ!くそばばぁ!!」

巳嵜に張り飛ばされた女と子犬。子犬が悲痛な声をあげて宙を舞う。
その瞬間。

 「動くな。」

子犬をキャッチして、女を支えたのはアホ空だった。
そして、巳嵜の首筋。いつの間にか鞘から抜いた真剣を突きつけるボケ天の姿。
マジで。お前、地雷踏みすぎ。巳嵜に心中でつぶやいた。

ボケ天は無抵抗な小さい物―――特に動物。を痛めつける輩には容赦ない。
普段はぼけっとしているくせに、予備動作なく間合いをつめる。
相手に真剣を向ける姿。殺し屋さながら。刺す鋭いオッド・アイ。冷酷非道。
巳嵜は声も出せずに固まった。

 「天ちゃん!それ以上はダメだ。」

アホ空の声が聞こえていないのか、ボケ天は、許さない。と、普段では滅多にお目にかかれない低く、怒気のこもった声でつぶやいた。
巳嵜の首に赤い線が引かれていく。深く。深く。

 「天!!」

龍月が駆け付けた。巳嵜を後ろから拘束した。
それでもボケ天は、真剣を鞘にはしまわなかった。
自分でも抑えきれない、憤怒。衝動。おそらく。

 「……。」

俺も気が付いていた。こいつの危うさ。
ボケ天は、いつか一線を超えたら、人を殺める。かもしれない。
繊細で脆く、危うい心。
龍月とアホ空も気が付いていて、危惧していたのだ。ずっと。

アホ空は、子犬は無事だから大丈夫だよ。と、優しく語りかけた。
龍月も真剣を鞘にしまえ。と、慈悲的な目を向けた。
ボケ天が深呼吸する。

次の瞬間。
ボケ天に向けて振り下ろされそうになる鉄パイプ。
俺は見逃さなかった。ハナから注視してたわ、ナメんな!!

 「おい、バレてんだよ。最初っからな!!」

俺はそいつの鉄パイプを後ろから掴んだ。
驚いて見上げるその顔。全く無傷。至極、幼い。
柊と平塚連合の奴らが駆け付けた。
柊が良く整った眉を悲しそうにしかめて、そいつの名前を呼んだ。



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あとがき

緊急事態宣言解除!!っていってもハメを外しすぎてはいけないが。
C様と会えるかな!!少しぐらいはよいよね♪
このまま落ち着いて、少しずつでも元の生活に近づいていきますように。


物語は18執筆中!まさかの3冊目?やばい。どうしよう。
でもまじでたのしすぎるー♪
久々書きまくってるなぁ。

学生時代みたいだ。
学生時代。授業なんて聞かずにほぼ妄想中の湘でしたww


2021.10.04 湘




















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