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夏休み。
祭りに行くために、久しぶりに自宅―――渋谷区松濤。
  いしん
 「維薪!絶対に迷子にさせないでよ!」

お袋は再三俺に、アホそらとボケてんのおもりを押し付けた。
目印にしろ。と、染めた時には怒り狂っていた俺の赤髪を指す。
はあい。と、アホ空が従順に返事をした。ガキか。

 「すっごい人だねぇ。うわ、屋台もたくさん。」

渋谷の街は、ど派手な飾りに多種多様な模擬店。
地面が見えないほどの人。でごった返していた。
珍しくボケ天の表情に高揚感が観えた。
アホ空は体全体で興奮しているのが判る。

3人で祭事。何が楽しいのか。
と、思ってたけど、さすがに雰囲気に呑まれる。
理由なく気分テンションが上がった。

K学に入学してから俺は、親父の姉―――あさざ伯母さんの家に居候している。
あさざ伯母さん―――あおい あさざ。は、鎌倉駅近くに住んでいる。
2人の子供―――俺のイトコ。は、すでに家をでていた。
だから、俺に一部屋与えてくれた。
K学まで数十分の距離。

中学受験をしたい。と、親に言った去年の夏。
両親揃ってすんなり受け入れ、あさざ伯母さんに取り付けてくれた。
たつき
龍月の策略と親たちや周りの意向。
背景が観え観えだったけど、最終的に決めたのは、俺だ。
こっち
渋谷の中学に行ってたら、とかは考えたことはない。
とはいえ、生まれた街に感慨がないわけじゃない。深くはないが。

「お巡りさんもたくさんだねぇ。」

大変そう。と、アホ空が俺を見る。
祭事に駆り出される警官。大規模な交通規制、整理。
地域課や交通課の警官たちがおおわらわになっていた。

俺の両親は、警察官だ。ただ、2人とも公安。
しかも、オヤジは警察庁警備局公安課のトップだ。
いわゆる世間的には超エリート。キャリア警察官。

公安は、国内外のテロリスト、左右翼団体、カルト教団等を捜査対象としている。
日本の公共の安全を維持するのが仕事だ。
俺はアホ空を見ていってやる。

 「テキヤさんたちも大変そうだぞ。」

屋台を出しているテキヤのほとんどはバックにヤクザがいる。
とはいえ、アホ空の父親―――飛龍 海昊ひりゅう かいう
は、それら全てを含む、日本ヤクザ界のトップ・オブ・トップ。だ。

 「そうだね。」

俺の意図を理解してかせずか、笑顔で答えるアホ空。
公安警察のトップとヤクザのトップ。
2人は学生のころからの仲だというから、少し笑える。

テキヤが祭事を支え、祭りに貢献して、警察がある種黙認する。
本音と建前。その最たるもの。か。
でも、そこに慣れ合いはない。強い絆があるからこそ、お互い、特に親父。
は、職務を全うする。
親父―――流蓍 薪なしき たきぎ。は、そういう男だ。と、お袋―――真実まこと。は、言う。

 「ねぇ。」

突然、ボケ天が俺の肩を叩いて指をさした。片手に真っ赤なりんご飴。
代々木公園の脇道。5人の男と浴衣姿の女2人。
どうみても無理やりのナンパだった。
もちろん、いの一番にアホ空が走り出す。

 「ちょっと、女の子たち、困ってるじゃん。やめなよ。」

アホ空の言葉に男たちが一斉に振り返った。
自分が強いからと驕っているわけではなく、誰が相手でもアホ空はブレない。
人を助けるの、当然でしょ。と、恥ずかしげもなく口にする。そういう男だ。

男たちは、チビのアホ空を見とめて、あからさまにバカにした顔をする。
女2人は素早く俺らの後ろに逃げ隠れた。

 「何意気がっちゃってんのかなぁ。俺らを誰だか知ってんの?」

 「知らない。知らないけど、女の子たちに謝りなよ。」

真面目か。
アホ空の返答に思わず笑いそうになりながら、男たちを観察した。
カンバン・・・・は背負ってない。ただのチンピラ風情か。
こ の
渋谷周辺の不良連中を思い出す。
が、どのチームの証的なものは、こいつらには見つけられなかった。
今時はそんなモンないことも多い。
ただの不良団体。がうようよしている。
年齢は、俺らより2、3コ上レベル。
いっても高校、下手したら中坊だ。

 「謝れ、だと?」

一人の男が、全く反省してないコトを身体で示してきた。
右ストレート。女が悲鳴を上げる。

 「謝る気、ないってことですか。」

当然、アホ空はその右手を避けて、顔面パンチを寸止めした。
相変わらず、甘い。売られたケンカは、買えや。
俺は、口に出さずに見守った。
この後の展開。当然、乱闘必至。だからだ。
よっしゃ!!楽しそうだぜ!!

―――……。

 「あ、ありがとうございました。」

女たちが呆気に取られるほどの瞬殺。
まず、俺に向かってきた2人を倒した。
次にボケ天が避けてこっちに転がってきた2人を蹴り上げた。
最後にアホ空と遊んでいた・・・・・男に回し蹴り。
ケンカを好まないアホ空の制止に、全くつまらねぇから打ち止めした。
男たちは転がるように逃げていった。

 「もしかして……維薪?」

女の一人が口にして、髪色とか変わっててわからなかった。と、言った。
よく見るとどっかで見た顔。多分タメだ。
中学受験したんだもんね、久しぶり。と、他愛もない会話。
ケヤキ並木を抜けて、イベント会場に出た。

ここも屋台がたくさん並んでいて、人だかり。
その奥まった一角。に、さっきの男たち。俺たちを見つけて指を差した。
どうやらお仲間さんがいたらしい。
数メートル先。男たちの群れが一斉に俺らに剣呑な視線を送ってきた。

 「いっちゃん、逃げよう。」

アホ空がそれに気が付いて、俺の腕をつかんだ。
自分がられるのが怖いんじゃない。
アホ空が恐れているのは、周りに迷惑がかかることだ。
逃げるが勝ち。アホ空の常套句。
その腕を振りほどいた俺に、ダメだ。と、強い口調で諭す。

 「とりあえず、あっち。君たちは人ごみにまぎれて。」

ボケ天が人のいないほうを指さして、女たちには反対方向へ行けと指示した。
アホ空とボケ天が阿吽の呼吸でダッシュ。仕方なく俺も従った。
確かに、多勢に無勢。とまではいわねぇが、全員が暴れたら面倒な人数だ。
他の奴ら、巻き添え必至。

 「何、逃げてんだ、こらぁ!!」

怒号。波のように人を押しのけて大群が向かってきた。
代々木公園通りR413に出る手前の封鎖中の駐車場。柵を飛び越える。
この先は、代々木競技場。
催し物をやっているようだから、おそらく警官がいる。
アホ空は警官に助けを求めるつもりだ。

 「また逃げんのか!流蓍!!」

俺は足を止める。また逃げる?何のことだ。誰だ。
大群の中央から男が姿を現した。一瞬考えて思い出した。
小5の時に伸したS中の不良連中の頭。
また逃げる。の意味が全く解らず、向き合った。

 「神奈川、逃げたんだってなぁ。俺の復讐が恐かったんだろ。」

鼻の下をこする、男。
言葉も出ない。バカヤローの思考回路。理解不能。

 「俺らトーカの恐ろしさ、見せてやんよ。」

よくわかんねぇ。でも、俺と闘いたいらしいことは理解できた。

 「お前ら逃げてろ。俺のケンカだ。」

 「いっちゃん、相手しちゃダメだ。一緒に逃げるよ!」

ガンとして譲らない、アホ空。こういう時、こいつは絶対引かねぇ。
ボケ天もスマホを取り出して、警察に連絡するつもりだ。

 「維薪、意地張らないで。空月あつきの策が最善。」

意地、じゃねぇよ。別に。売られたケンカは、買うんだよ。
まあ、相手はタイマン張る気はねぇみてぇだから、とばっちりはあるだろう。
でも、ここなら最小だろうが。

俺はファイティングポーズを取った。
大群が一斉に拳を鳴らして、にやついた笑みをもらして俺を見た。
その時。

 「何だよ。タイマンじゃねーの?」

低く凄みのある、不機嫌な声。
大群の間がいきなり開いた。



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あとがき

やっと登場ですわ!!前書き0のお二人。→BLOGも見てね。
って前書き書きすぎ(笑)

執筆中のプロトに書いているらくがきをUPしているので、そんな感じに。
まだ2枚目のらくがき(氷風&未来空)すらもでてこないし(汗)
気長に待ってね!!

2021.7.31 湘




















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