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「こんなとこで話しよったら、稽古できひんやろ。」
海空は、
扇帝さんと
王虎昊に言って、俺に道場へ上がる様促した。
王虎昊は、俺を見て、公安の息子。と言った。
扇帝さんは、いつもの顔に戻り、ごめん、ごめん。と、笑う。
「……うす。」
三人の間に流れる微妙な空気。まじ、居づれぇし。
俺は荷物を置いて、トレーニングウェアに着替えるために更衣室に向かった。
道場には更衣室、シャワーも完備。幼いころから自由に使っている。
「高校模試。受けるんやて?」
更衣室からでてきた俺に、海空。まだ三人とも居た。
俺は一応。と、曖昧な返事をして竹刀を持った。
海空は、一位やったら何かやろか。と、母親の様に茶化した。
アメでやる気をUPさせるそれ。
子供扱い。
「んじゃあ、海空もらうわ。」
俺は、わざと扇帝さんと、王虎昊に向けて言葉を放った。
扇帝さんと王虎昊の反応。予想通り。笑えた。
「……ワレ、何ゆうとんねや。」
「はは。面白いなぁ。もしかして
中国語わかっちゃった?」
海空が困った顔をして、王虎昊は、やっぱりチェシャ猫のように笑った。
俺はそのどちらの言葉もシカトして、竹刀を振った。
嫉妬、嫌がらせ。どっちも正解で不正解。
別に海空と付き合いたいとかそういうワケじゃない。
俺の気持ちに気付いてほしいとかそういうワケでもない。
蚊帳の外。なのが少しイラついた。かな。
自己分析。やっぱガキ臭ぇ。か。
「……参ったなぁ。」
扇帝さんがストレートの茶髪をかき上げた。
何に参ったのか。
聞かれた事か、俺の言動にか。両方か。
ま、どっちでもどうせ俺は渦中でない。
「本当にトップ取っちゃうよ、
維薪は。要注意だねぇ。」
そんな中、至極楽しそうに道場の入り口に顔を見せたのは、クソ
龍月だ。
帰ったんじゃねーのか。このヤロ。いつから居やがった。
龍月は自分の気配のコントロールができる。
六本木事件の時も、素人相手ならお手の物。
俺らや飛龍組の強者に対してでさえ。闘気も内に秘める。
「維薪来てるよ。ってゆったら挨拶したいっていうから。」
龍月は言い訳するような口調で、門の方へ大きく丸のジェスチャーを出した。
程なくして現れたのは、あおぞら園に引き取られた
麟大郎だった。
王虎昊は、じゃ、
保留ね。と、英単語を完璧に発音する。
どさくさに紛れて海空にハグをして消えた。
「維薪くん。……えっと、改めて、ごめん。と、ありがとう。」
初めに会ったときの険がなくなったか。
麟大郎は、愛嬌のある人当たりの良い雰囲気の中に異なる感情があった。
言うなら負のオーラ。か。
朔弥先輩に
堅汰が鉄パイプを振り降ろした後、率先して加勢した時。
とさかと堅汰のタイマンの際の言動。など。
兄、
麒の呪縛。解けたようだ。
「
琳音なんか、
紫月ちゃん大好きになっちゃって、同じ学コ行きたいとかゆってんの。」
朗らかで明るい表情。本来の顔、なんだろう。
琳音も同じくあおぞら園に引き取られた一人。
おそらくSDSの目的には彼らを救うことも含まれていたのだ。
親や保護者に何らかの事情があって、子供の養育ができない、しない家庭。
プリン先輩のとこみたいなDV。
ヤングケアラー。など。の手助け。
龍月の母親、
紫南帆さんは、臨床心理士だ。
紊駕さんが院長を勤める
如樹病院で働く傍ら、あおぞら園にも携わっていた。
そのせいかどうかは知らないが、龍月もよくあおぞら園に行くらしい。
今日も麟大郎、琳音。そしてプリン先輩や子供たちの様子を見に来たのだろう。
何故か龍月は子供受けがすこぶる良い。
Teddyが龍月に懐いている画が浮かんだ。こっちは多分に
心服だろうが。
「良かったな。」
俺は竹刀を振る手を止めずに麟大郎に言った。
麟大郎は、もう一度礼を言ったあと、ボケ天にも礼をいったがムシされた。
と眉根をひそめて嘆くように言った。
「だから、それは……、まぁ。
天には悪気はないからさ。」
龍月が大丈夫。と、いいながら奥歯に物が挟まった様な言い方をする。
「根に持ってんだけだ。すぐ忘れるわ。」
ボケ天は、麟大郎が自分に鉄パイプを振り下ろそうとした事にご立腹なのだ。
と、伝えた。
意外とガキっぽいとこがあるからな、奴は。
ま、俺もか。自嘲。
麟大郎は、そっか。と申し訳なさそうに言って、もう一度ちゃんと謝る。
と殊勝に言った。
「
仲間だと思ってる証拠だ。これから麟大郎が証明していけばいんじゃね。」
たとえ時間がかかったとしても。
自分の誠意。必ず伝わるはずだ。
俺の言葉にありがとう。と、麟大郎はうなづいた。
大方ボケ天は、龍月に、裏切る奴はキライ。とでもほざいたのだろう。
そのまま伝えるには憚れた。って龍月の顔に書いてあった。
でも、ボケ天のその態度は
他人を信じたい。という表れだ。
人間は裏切る。動物は裏切らない。
ボケ天の冷めたオッド・アイ。脳裏に蘇った。
六本木事件の時。一瞬ボケ天が昔に戻ったかのように思えた。
幼少のトラウマ。
「心配すんな。俺が一線を
超えさせねぇ。」
龍月に言った。
龍月は、うん。俺らが。だな。と、笑った。
海空もおおきに。と、全てを知っているのか、察したのか。
両エクボをへこました。
やっぱり
海昊さんと似ている。と思った。
「……頼ることも必要。なんて偉そうなコト前に言っちゃったね。」
扇帝さんは、大人が恥ずかしいな。と、言った。
先のことも含めた言い方。
入学当初のプリン先輩とウェーブ先輩たちの騒動後の事。
「お前たちは、本当に聡い
子たちだよ。尊敬する。」
「……いや、結局大人の掌の上だし。でも、ありがとうございました。」
六本木事件。おそらく扇帝さんも尽力してくれたのだろう。
立つ瀬ないな。と、苦笑して、置いていた竹刀を手に取った。
「手合わせ。お願いしても良いかな。維薪。」
扇帝さんのその顔。俺を同等に観る。と、言っているようだった。
当然まだ遠く及ばないが、もちろん受けて立つ。
俺も竹刀を握る手に力を込めて、体勢を整えた。
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あとがき
わーい。C様との密会(笑)が現実になりそう!
そしてこの話もまだまだつづく。現在20話執筆中。
K様も忙しいかとは思いますが、あいたいよー!
2021.10.19 湘