1 真夜中の湘南海岸、江ノ島。 波の音を掻き消す、さまざまな音質の爆音が木霊する。 「ここは俺らの縄張りだぜ、何しに来た!」 弁天橋の麓。 数十名の男たちが鋭い視線を向ける。 「ちょっとよぉ。そっちの特攻隊長さんに用があんだよ。」 足元をふらつかせた、酔っ払っているかのような、ガタイの良い男。 「ああ?てめぇの分際で、ナメてんのか!」 男たちが一斉に構えた。 「やめろ。」 淡とした声に、浜が音をなくした。 響くのは、一定のリズムを刻む波音だけ。 「俺ら二人の問題だ。手出しすんな。」 長い腕を伸ばして仲間を制す。 髪は赤く、後ろに撫で付けてある。 「へ、かっこいいじゃねーか。うちによぉ、てめぇにホレこんでる奴がいるワケよ。」 語尾を伸ばし伸ばし言ういいかたが、ねちっこい。 アレを見てみろ。と、指差した。 「なっ……。」 弁天橋の上。 単車にもたれかかるようにして乗せられている、小柄で細身の男。 アクセルとクラッチに手が固定されていた。単車は、唸り声をあげていた。 それを支える、巨漢。右足をギアに掛けていた。 「あいつ、意識朦朧としてっからよぉ、ダチが足、踏んだら……。」 どうなるか、わかるよな。と、にやついた笑みを見せる。 黄色く並びの悪い歯。 「きたねーぞ。」 「ゆうこと聞けよ。なぁ、アタマ、悪くねーもんなぁ。」 語尾強く言い切ると同時に、担いでいた鉄パイプを振り上げた。 瞬間。 「……!!やっやめろー!!!」 ――――――……。 一瞬の出来事だった。 鈍い音が、真夜中の浜辺に響き渡って、波音さえもかき消した。 鉄の塊が、暗闇を舞った。 黒い花弁と共に――……。 >>次へ <物語のTOPへ> |