第四章 Bad Boys 恋愛事情

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 真夜中の湘南海岸、江ノ島。
 波の音を掻き消す、さまざまな音質の爆音が木霊する。

  「ここは俺らの縄張りだぜ、何しに来た!」

 弁天橋の麓。
 数十名の男たちが鋭い視線を向ける。

  「ちょっとよぉ。そっちの特攻隊長さんに用があんだよ。」

 足元をふらつかせた、酔っ払っているかのような、ガタイの良い男。

  「ああ?てめぇの分際で、ナメてんのか!」

 男たちが一斉に構えた。

  「やめろ。」

 淡とした声に、浜が音をなくした。
 響くのは、一定のリズムを刻む波音だけ。

  「俺ら二人の問題だ。手出しすんな。」

 長い腕を伸ばして仲間を制す。
 髪は赤く、後ろに撫で付けてある。

  「へ、かっこいいじゃねーか。うちによぉ、てめぇにホレこんでる奴がいるワケよ。」

 語尾を伸ばし伸ばし言ういいかたが、ねちっこい。
 アレを見てみろ。と、指差した。

  「なっ……。」

 弁天橋の上。
 単車にもたれかかるようにして乗せられている、小柄で細身の男。
 アクセルとクラッチに手が固定されていた。単車は、唸り声をあげていた。
 それを支える、巨漢。右足をギアに掛けていた。

  「あいつ、意識朦朧としてっからよぉ、ダチが足、踏んだら……。」

 どうなるか、わかるよな。と、にやついた笑みを見せる。
 黄色く並びの悪い歯。

  「きたねーぞ。」

  「ゆうこと聞けよ。なぁ、アタマ、悪くねーもんなぁ。」

 語尾強く言い切ると同時に、担いでいた鉄パイプを振り上げた。
 瞬間。

  「……!!やっやめろー!!!」

 ――――――……。

 一瞬の出来事だった。
 鈍い音が、真夜中の浜辺に響き渡って、波音さえもかき消した。
 鉄の塊が、暗闇を舞った。
 黒い花弁と共に――……。


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あとがき