♥Qの憂鬱
♥
5
それは、
本題じゃなかったと思うけどな。
龍月は、文化祭の準備の最中、LINEを確認して溜息。
飛龍組系
石嶺組のトップで、関東支部をもまとめる逸材、
石嶺 扇帝からの連絡。
海空お嬢の動向に注意頼む。とのこと。
斗威の件―――“中華街事件”を勘ぐって何か危ないことをしそうだ。と。
勘ぐるというか、間違いなく
知っては、いる。自分が教えたのもあるのだが、まあ、性分だろう。と、龍月は思った。
龍月がSDSに関わっているのを薄々感じて―――否、確信して、自分も。的なやつだ。
承知しました。と、送って、扇帝くんって意外と意地悪なんですね。と、打つ。
数秒後、返信が来た。
「……へぇ。ま、立場上仕方ないか。」
思わず言葉が漏れた。
日曜の夜。海空は、扇帝くんを訪ねた。おそらく、“
満月”を一緒に見るためだ。
“Umi―海”で、にちかが、“好きな人と一緒に見ると結ばれる。”と、言った。と、きいた。
海空は素直だ。誰にでもわかる。扇帝くんの事を想っていることくらい。
だから、本人も知ってるはずだ。
龍月は、もう一度扇帝から送られてきたLINEを見た。
―――大人を困らせるな。
恋愛に大人も子供もないと思うけど。
まぁ、とはいえ。かな。
扇帝くんは、救われたのか、はてまた……。と、龍月は、晴天の空を見上げた。
余計なお世話でした。と、謝りのスタンプを送る。すぐに既読になる。
動向に注意。か。言われなくとも今回のもう一つのMissionでもある。
JOKERも扇帝くんと同じ危惧だったのか。不明。
とりあえず、引き続きMissionを遂行する。
Clubの
Aceからの情報は全て最新。頭に入れている。
ClubのAce―――
Yusry bin Abdulalaziz Al Saud。
Yuri―――Юрин。は、サウジアラビア人だが、幼少期から青年期の大部分をロシアで過ごしていたという。
ロシアでの師匠が、
冥旻の夫、
秦皇羽。
ロシア名、
Kir Moskvin―――КирМоскВйн。だ。
秦皇羽は、中国とロシアのハーフ。だが、中国では、由緒正しき漢民族、秦家長子にして国家権力No.2の地位を得ている。
さらに、ロシア現大統領の実孫だという。
様々な影響を鑑みると秘密、秘匿にする諸々。事情を察して余りある、数奇な生い立ちだ。
そして、その息子が、
天羽だ。
故に様々な大人の世界観に翻弄される立場に居る。
そんな冥旻、天羽を護るのが、Yuriの恒久的任務だった。
Yuriは、腕利きのスナイパーとしてロシアでは知られている。しかし、その家系は、実は、サウジアラビアの王族という。
秦皇羽もYuriもSDS創設当時からの仲間のようだが、そのメンツたるや想像を絶する背景の者たちばかりだった。
当然龍月も全ては知らないが、政界、財界、マスコミ、ect。全世界各国のVIP級が揃っている。らしい。
世界を牛耳れるほどの権力。それを、
海昊さんは持っている。
しかし、その力を私利私欲のために行使することのないのが、海昊さんだ。
“キレイ事”と言われようが、世界平和のために尽力する。
穏やかで温厚篤実を絵に描いたような人。それでいてある種の威厳を持ち、畏怖がある。全く非凡で唯一無二の人。
そして、父さん、
如樹 紊駕の大親友。
「おーい、如樹。やっぱ、やらない?」
クラスメートから声を掛けられた。文化祭の打ち合わせで生徒会室に行く途中だった。クラスメートは、ダメ元。というような顔つき。
クラスの出し物、“寸劇”。“彦星”のオファー。
「如樹やってくれたら、絶対他校の女子いっぱい
釣れるからさぁ。」
頼む。と、頭を下げられた。釣れるって。と、龍月は、苦笑しながら、裏方だとありがたいなぁ。と、やんわり断る。
時間帯に縛りがある事は、極力避けたい。
スクランブル対応ができ辛くなる。
「そうかぁ。生徒会もあるし、忙しいよなぁ。でも、織姫も男だから、彦星はやっぱイケメンがいいって本人も皆言うんだよ。」
キャストは既に決まっていた。文化祭は今週末だ。
練習も佳境だろうに……。と、龍月は、尖ったアゴに手を添える。
181pの長身に、細身だが、武道で慣らしたバランスの良い体格。
手足も人よりも長い。顔立ちも端正な龍月は、校内ではイケメン認定されていた。
黒髪をスタイリッシュにまとめあげ、前髪は右瞳を隠すように斜めに伸びている。二重の瞳は、やんちゃそうで、聡明そうで少しミステリアスな雰囲気を醸し出している。
鼻筋も良く通り、薄い唇。全体的にシュッとしている爽やかイケメンだ。
加えて、学力もトップクラス。だが、人当たりも良い事で、男子校でさえ人気者なのだ。外部から来る女子は、間違いなく
釣れる。だろう。
「OK。じゃ、こうしよう。ずっとって訳にはいかないけど、教室前で呼子やるよ。どう?」
龍月は、人差し指をあげた。いつの間にか集まってきた数人のクラスメートが、おおっ。と、声をあげる。交渉成立。
必要以上に頭を下げるクラスメートたちに、恐縮しながら、最大限手伝いをする約束をした。楽しもうね。と、締めくくり、生徒会室へ歩みを進める。
「ごくろう様。」
生徒会長の
嵩原 諒だ。バレー部キャプテンでもある諒は、スポーツマンらしく小麦色の肌にがっしりとした体型だ。
性格に違わない優しい笑みで労ってくれた。
「遅いです、副会長。」
「龍月先輩、おつかれっス!」
辛口な後輩、
新極 桔平と純朴で礼儀正しい
大道寺 宗尊。
桔平は183p。宗尊に至っては192pもある。大柄な2人は、同じ部活―――総合格闘技部。だ。
他の会員たちも口々に挨拶してくれる。どうやら一番最後だったらしい。しかし、集合時間には遅れていない。1分前。ギリセーフだろう。
「おおかた色々な奴らにつかまってたんだろ。」
時計を見た龍月に、諒は問題ないよ。と、口元を緩める。
文化祭での諸々の件について詰める。と、手を叩いた。
諒ちゃん、優しい。と、礼を込めて口にして、龍月は桔平に向く。
「さすが、人気者ですね、龍月さん。」
「……ゆってませんし、思ってません。」
桔平の思考を声マネして茶化すと想定内の答えで笑えた。
隣で龍月先輩は人気者っす!とでかい声で叫ぶ宗尊。も。
かわいい後輩だ。
桔平は、咳払いを一つ。トリオ―――特に
維薪に手を焼いている。と、唇を尖らせた。桔平は柔術の使い手だ。維薪すら敵わないほどの。
“孤高”という表現が似合う。シャープな一重の目に襟足の長い、ツンツンと立たせた黒髪。全体的に細いが、柔よく剛を制す。タイプだ。
そんな桔平を倒さんと、毎回維薪は、挑んでいる。こちらも想定内で興ろい。
総合格闘技部は、諒の手助け―――本人は恩返しという。もあり、今年の春、龍月が創った。
龍月の理想のための一つの具現化。K学の自警団。居場所。だ。
昔ほど“不良”という人種は滅多に見ない。が、表面化していない、燻ぶった気持ち、行き場、やり場のないそれ。持て余し、最悪な形で発散させないために。
いつの時代も思春期は、健全な青春と不安、不満、フラストレーションの混在。
以前、父親に言われたのを受けて、思い立ったのだ。
ようやく少しずつ形になってきたと自負している。
「赤髪少年は、元気でいいっス。黄色の少年も最近は頑張っています。」
赤髪―――維薪。黄色―――
斗威。宗尊は、独特な表現で呼び、快活に笑った。お前が相手しろよ。と、桔平に言われ、いつでもいいぞ。という。
宗尊は、見た目通りの超パワー。ボクシング経験もある。
根明でポジティブ。どんな部員がきても調教―――まとめることができるだろう。
だから、部長をお願いした。
「……で、当日パンフは、なしで。QRコード。でOKだよな。」
「並びすぎるのを避けたいから、手前からアナウンスして、スマホを用意してもらいましょう。入口の係員、5人。かな。ここに一人と、あと、ここ……。」
諒の言葉に龍月は頷いて、手際よく係員の配置を学園マップで確認。指示。
QRコードの表を人の流れを止めないため、数多く用意する。
安全第一。暑さも予想されるため、休憩室も必須とした。
先程から学ランのズボンのポケットが振動している。
要領良く済ませ、確認しなければ。案件でないといいが、おそらくそうだ。
一段落ついたところで、スマホを手に取る。
LINE2件。e-mail1件。の表示。
LINEの送り主と内容確認。e-mailを開いた。
閉じるとすぐに消滅するそのe-mail。全てを記憶にとどめた。
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