Qの憂鬱


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それは、本題・・じゃなかったと思うけどな。
龍月たつきは、文化祭の準備の最中、LINEを確認して溜息。
飛龍組ひりゅうぐみ石嶺組こくみねぐみのトップで、関東支部をもまとめる逸材、石嶺 扇帝こくみね みかどからの連絡。
海空みあお嬢の動向に注意頼む。とのこと。
斗威とういの件―――“中華街事件”を勘ぐって何か危ないことをしそうだ。と。

勘ぐるというか、間違いなく知って・・・は、いる。自分が教えたのもあるのだが、まあ、性分だろう。と、龍月は思った。
龍月がSDSに関わっているのを薄々感じて―――否、確信して、自分も。的なやつだ。
承知しました。と、送って、扇帝くんって意外と意地悪なんですね。と、打つ。
数秒後、返信が来た。

 「……へぇ。ま、立場上仕方ないか。」

思わず言葉が漏れた。
日曜の夜。海空は、扇帝くんを訪ねた。おそらく、“満月ストロベリー・ムーン”を一緒に見るためだ。
“Umi―海”で、にちかが、“好きな人と一緒に見ると結ばれる。”と、言った。と、きいた。
海空は素直だ。誰にでもわかる。扇帝くんの事を想っていることくらい。

だから、本人も知ってるはずだ。
龍月は、もう一度扇帝から送られてきたLINEを見た。

―――大人を困らせるな。

恋愛に大人も子供もないと思うけど。
まぁ、とはいえ。かな。
扇帝くんは、救われたのか、はてまた……。と、龍月は、晴天の空を見上げた。
余計なお世話でした。と、謝りのスタンプを送る。すぐに既読になる。

動向に注意。か。言われなくとも今回のもう一つのMissionでもある。
JOKERジョーカーも扇帝くんと同じ危惧だったのか。不明。
とりあえず、引き続きMissionを遂行する。ClubクラブAceエースからの情報は全て最新。頭に入れている。

ClubのAce―――Yusry bin Abdulalaziz Al Saudユスリ― ビン アブデュルアズイーズ アル サウドYuriユーリィ―――Юрин。は、サウジアラビア人だが、幼少期から青年期の大部分をロシアで過ごしていたという。
ロシアでの師匠が、冥旻みらの夫、秦皇羽シンファンユー
ロシア名、Kir Moskvinキール モスクヴィン―――КирМоскВйн。だ。

秦皇羽は、中国とロシアのハーフ。だが、中国では、由緒正しき漢民族、秦家長子にして国家権力No.2の地位を得ている。
さらに、ロシア現大統領の実孫だという。
様々な影響を鑑みると秘密、秘匿にする諸々。事情を察して余りある、数奇な生い立ちだ。
そして、その息子が、天羽てんうだ。
故に様々な大人の世界観に翻弄される立場に居る。

そんな冥旻、天羽を護るのが、Yuriの恒久的任務だった。
Yuriは、腕利きのスナイパーとしてロシアでは知られている。しかし、その家系は、実は、サウジアラビアの王族という。
秦皇羽もYuriもSDS創設当時からの仲間のようだが、そのメンツたるや想像を絶する背景の者たちばかりだった。
当然龍月も全ては知らないが、政界、財界、マスコミ、ect。全世界各国のVIP級が揃っている。らしい。

世界を牛耳れるほどの権力。それを、海昊かいうさんは持っている。
しかし、その力を私利私欲のために行使することのないのが、海昊さんだ。
“キレイ事”と言われようが、世界平和のために尽力する。
穏やかで温厚篤実を絵に描いたような人。それでいてある種の威厳を持ち、畏怖がある。全く非凡で唯一無二の人。
そして、父さん、如樹 紊駕きさらぎ みたかの大親友。

 「おーい、如樹。やっぱ、やらない?」

クラスメートから声を掛けられた。文化祭の打ち合わせで生徒会室に行く途中だった。クラスメートは、ダメ元。というような顔つき。
クラスの出し物、“寸劇”。“彦星”のオファー。

 「如樹やってくれたら、絶対他校の女子いっぱい釣れる・・・からさぁ。」

頼む。と、頭を下げられた。釣れるって。と、龍月は、苦笑しながら、裏方だとありがたいなぁ。と、やんわり断る。
時間帯に縛りがある事は、極力避けたい。スクランブル対応・・・・・・・・ができ辛くなる。

 「そうかぁ。生徒会もあるし、忙しいよなぁ。でも、織姫も男だから、彦星はやっぱイケメンがいいって本人も皆言うんだよ。」

キャストは既に決まっていた。文化祭は今週末だ。
練習も佳境だろうに……。と、龍月は、尖ったアゴに手を添える。
181pの長身に、細身だが、武道で慣らしたバランスの良い体格。
手足も人よりも長い。顔立ちも端正な龍月は、校内ではイケメン認定されていた。

黒髪をスタイリッシュにまとめあげ、前髪は右瞳を隠すように斜めに伸びている。二重の瞳は、やんちゃそうで、聡明そうで少しミステリアスな雰囲気を醸し出している。
鼻筋も良く通り、薄い唇。全体的にシュッとしている爽やかイケメンだ。

加えて、学力もトップクラス。だが、人当たりも良い事で、男子校でさえ人気者なのだ。外部から来る女子は、間違いなく釣れる・・・。だろう。

 「OK。じゃ、こうしよう。ずっとって訳にはいかないけど、教室前で呼子やるよ。どう?」

龍月は、人差し指をあげた。いつの間にか集まってきた数人のクラスメートが、おおっ。と、声をあげる。交渉成立。
必要以上に頭を下げるクラスメートたちに、恐縮しながら、最大限手伝いをする約束をした。楽しもうね。と、締めくくり、生徒会室へ歩みを進める。

 「ごくろう様。」

生徒会長の嵩原 諒たかはら りょうだ。バレー部キャプテンでもある諒は、スポーツマンらしく小麦色の肌にがっしりとした体型だ。
性格に違わない優しい笑みで労ってくれた。

 「遅いです、副会長。」

 「龍月先輩、おつかれっス!」

辛口な後輩、新極 桔平しんごく きっぺいと純朴で礼儀正しい大道寺 宗尊だいどうじ むねたけ
桔平は183p。宗尊に至っては192pもある。大柄な2人は、同じ部活―――総合格闘技部。だ。
他の会員たちも口々に挨拶してくれる。どうやら一番最後だったらしい。しかし、集合時間には遅れていない。1分前。ギリセーフだろう。

 「おおかた色々な奴らにつかまってたんだろ。」

時計を見た龍月に、諒は問題ないよ。と、口元を緩める。
文化祭での諸々の件について詰める。と、手を叩いた。
諒ちゃん、優しい。と、礼を込めて口にして、龍月は桔平に向く。

 「さすが、人気者ですね、龍月さん。」

 「……ゆってませんし、思ってません。」

桔平の思考を声マネして茶化すと想定内の答えで笑えた。
隣で龍月先輩は人気者っす!とでかい声で叫ぶ宗尊。も。
かわいい後輩だ。

桔平は、咳払いを一つ。トリオ―――特に維薪いしんに手を焼いている。と、唇を尖らせた。桔平は柔術の使い手だ。維薪すら敵わないほどの。
“孤高”という表現が似合う。シャープな一重の目に襟足の長い、ツンツンと立たせた黒髪。全体的に細いが、柔よく剛を制す。タイプだ。
そんな桔平を倒さんと、毎回維薪は、挑んでいる。こちらも想定内で興ろい。

総合格闘技部は、諒の手助け―――本人は恩返しという。もあり、今年の春、龍月が創った。
龍月の理想のための一つの具現化。K学の自警団。居場所。だ。
昔ほど“不良”という人種は滅多に見ない。が、表面化していない、燻ぶった気持ち、行き場、やり場のないそれ。持て余し、最悪な形で発散させないために。

いつの時代も思春期は、健全な青春と不安、不満、フラストレーションの混在。
以前、父親に言われたのを受けて、思い立ったのだ。
ようやく少しずつ形になってきたと自負している。

 「赤髪少年は、元気でいいっス。黄色の少年も最近は頑張っています。」

赤髪―――維薪。黄色―――斗威とうい。宗尊は、独特な表現で呼び、快活に笑った。お前が相手しろよ。と、桔平に言われ、いつでもいいぞ。という。
宗尊は、見た目通りの超パワー。ボクシング経験もある。
根明でポジティブ。どんな部員がきても調教―――まとめることができるだろう。
だから、部長をお願いした。

 「……で、当日パンフは、なしで。QRコード。でOKだよな。」

 「並びすぎるのを避けたいから、手前からアナウンスして、スマホを用意してもらいましょう。入口の係員、5人。かな。ここに一人と、あと、ここ……。」

諒の言葉に龍月は頷いて、手際よく係員の配置を学園マップで確認。指示。
QRコードの表を人の流れを止めないため、数多く用意する。
安全第一。暑さも予想されるため、休憩室も必須とした。

先程から学ランのズボンのポケットが振動している。
要領良く済ませ、確認しなければ。案件でないといいが、おそらくそうだ。
一段落ついたところで、スマホを手に取る。

LINE2件。e-mail1件。の表示。
LINEの送り主と内容確認。e-mailを開いた。
閉じるとすぐに消滅するそのe-mail。全てを記憶にとどめた。



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