♥Qの憂鬱
♥
15
“地球温暖化”といわれた夏の猛暑を忘れてしまう程、一気に寒さがやってきた10月。それなのに、来月初めは夏日予想だという。
「寒っ。」
龍月は思わず呟いて、ノートPCを持ってベッドに横たわった。
この2か月。情勢がかなりめまぐるしく動いた。
まず、タマや“Q”、他から集まった情報により、
東京華雅會と
BAD×BLUESにちょっかいを出した男―――
巳嵜 麒。が判明。
通称“六本木事件”で対処。
麒は、
JOKERが潜った組織―――
世界多幸教の信者であり、教祖の妻と良い仲―――本人は利用していただけのようだ。だった。教団の資金を生み出していた
當金 狛路を手中におさめ“世界統一”を目論んでいたが、通称“世界多幸教事件”にて対処。
しかし、それでも懲りず、BAD×BLUESを再び巻き込み、“
令和維新”を起こした。
「うん、いいね。」
龍月は、ログを見直しながら、独りごちた。
麒が起こした一連の事件を解決に導いたのは、
維薪だった。そして、
空月の成長。目を見張るものがある。
龍月は、情報を集め、関係各所に適切に連絡、指示、依頼をしただけだった。
龍月が落とした一滴が波紋のように広がり、重なり、影響し合う。ベクトルが指す先。平和というゴール。
龍月は、写真を手に取った。
梢依がわざわざプリントアウトしてくれたものだ。
「Qのお茶会―――カルテット。」
呟いてみる。間違いなく、最強戦力だ。
にちかの情報収集力、
海空の危険察知能力に
紫月の超認識力、記憶力。
そして……
詩弦。
彼女は、梢依の妹であり、龍月も良く知る
YOKOHAMA BAY ROADの副隊長。いうまでもなく、強い。
結成約4か月。
どれほど頼りになったか。そして、今後も。
情報戦において、今後、どんなことがあっても負ける気がしない。と、龍月は、本気で思っている。
「それにしても、すごいなこのかき氷。」
Queen―――ハート、ダイヤモンド、クローバーにスペード。各々をモチーフに豪華で煌びやかなフルーツが盛られた、見た目にも鮮やかなかき氷だ。
人物と対比して推測するに、優に20センチはあるだろう。
これは、海空は喜んだだろうな。と、龍月は、笑顔でかき氷を頬張る海空を想像して、頬を緩ませた。
少しは、憂鬱も晴れただろうか。
あれから、特に相談はされていない。
扇帝に対する想い。
維薪に関しては、おそらく年末あたりか。
決闘―――まさか、本気にするとは思わなかった……いや、想定内だが。苦笑。
それにしても。と、龍月は、写真の妹を見る。
プロポーズを提案するとは、少し意外だが、的は射ているかもしれない。
おそらく、好きだの付き合ってだのは通用しまい。
とはいえ、梢依に対しての言動や、六本木事件での立ち回りなど、妹ながらにあっぱれだ。当然、両手を挙げて褒めても一笑に付されるだろうが。と、龍月は誇らしげにもう一度写真を眺めた。
「……懸念は、こっち。だな。」
PCのログが切り替わった。
龍月は、ベッドから起き上がり、写真を机の引き出しにしまって、イスに腰かけた。
先月、相模湖でキャンプ中の
天羽が自爆ドローンに狙われたログ。
やはり、維薪の機転で事なきを得たが、別勢力だ。と、JOKERは、言った。中国ではなく、おそらくロシア。
今回は、偵察か監視か。それ以上は今に至るまで音沙汰なしだ。
秦皇羽が見事な腕でドローンを射止めた。残骸は解析、分析にまわされているだろう。
天羽は、文化祭の時も、キャンプでのことも少なからずショックを受けている。
Yuriも当然調べを進めているだろうが、龍月も情報収集を既に始めていた。
アンテナを十二分に広げて、数多の情報を集める。
そして、取捨選択。分析、調整。的確な判断と適切な指示。
「……こっちは、また
東華に係るかもしれないな。」
呟いたその瞬間。スマホが呼応するかのように振動した。
夜中の3時だが、お構いなしだ。龍月は、VRゴーグルを装着して、PCを再起動、ログインした。完了までの間に、自室に備え付けてあるコーヒーメーカーのスイッチをONにする。
今日は、マンデリン。苦味とコクを中心とした味わいが好きだ。
豆が挽かれて、良い匂いが充満する。
瞬きをする間に、目の前は野原になった。
“アリス”のように燃えるような好奇心は、ない。少しの不安とそれを凌駕できる自信を持って、龍月は、一歩、踏み出した。
兎は、いない。追いかける必要はないのだが、少し小走りになる。
やがて、古い大樹が現れた。
幹には、鍵のかかっていない扉。開けると、トランプの嵐が吹き荒れた。
龍月は
Alice―――
秦愛琳。に想いを馳せた。
秦愛琳は、女優として返り咲きを成功させた。と、ネットニュースでも話題になっていた。
その時の記事に女優として復活するきっかけは。と、インタビューを受けてのコメントがかかれていた。
―――白兎さんに助けられて、夢の世界へまた戻ってきたの。
龍月は、口元を緩める。
龍月は、思った。秦愛琳は、自分の信条を全うな手段で曲げずに、生きる決意をしたんだ。と。夢の世界との決別。そして、新たな夢の世界へ。
龍月は、紫と黒の市松模様の歪んだ世界を力強く歩き進める。
チェシャ猫が、樹の上から龍月を見下ろして、口角を上げた。
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♥♦ お ま け
♠♣
こんにちは、湘です。
読んでいただき、ありがとうございました。
さてさて、龍月Story第2弾ですが、第1弾、
♠KとJの道理 ♠
よりは、前の話です。
ちなみに時系列(現時点でUP済ストーリー)では、
UNTITLEDの後のお話で、
Over The Topと一部被る。って感じです。
旧世代ストーリーともちょいちょい関連があるので、気になった方は是非
空も読んでいただけると嬉しいです!
ではでは、次の物語で。
2023.10. 30 湘