Qの憂鬱


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ターゲットは、冥旻みらちゃんやったんか。
数時間前を回想。大事にならず文化祭も終了した。
龍月たつきは、面目躍如やったにちごない。良かった。

 「それにしても、大人の男をああも簡単に伸しちゃうあんたら、何?」

帰りにそのままうちに寄った、にちかとしぃちゃん。
にちかは、ベッドに腰下して、大げさに言う。

龍月からもう一人の中華系の男を注意しろと言われたとき、身体が既に反応していた。しぃちゃんもそうだったに違いない。
何のことはない、無防備で丸腰。ズブの素人・・・・・だった。

何でこんなんが、冥旻ちゃん狙うんや。
いや、だから、爆弾やったんか。
赤Tの囮とセットで。ほんま、汚い奴らや。

 「大人だろうと大男だろうとカンケ―ないから。私ら、最強だし。」

しぃちゃんが目配せ。大きく頷く。
そうね。本当最強よ。と、にちかも頭を縦に上下させる。

 「にしても。龍月よねぇ。全て初めから知ってた。あんたの兄貴、何者よ。」

にちかがしぃちゃんに言って、しぃちゃんが、曲者。と、呟いた。
言いえて妙や。せやけど、非凡。やな。

 「まぁ、龍月のことやから、他人の為にしとることなんわ、まちがいない。今回やて冥旻ちゃん、ようけ守ってくれたし。」

まぁ、ね。と、にちかは呟いた。
そうだ。と、何かをひらめいた様子。
私たちもやろう。と、にちかはドヤ顔をしてみせた。

 「探偵事務所的な。私らでつくっちゃおうよ!」

いいね。そういうの、好き!と、言って部屋に入ってきたのは、冥旻ちゃんだった。
聞いちゃってごめん。と、舌を出して、お盆一杯のお菓子と紅茶を運んできてくれた。ローテーブルに置く。
髪は、ショートに整えられていた。

 「どう?似合うでしょ。」

心配させないために大げさに髪をかきあげて見せる。
両耳のピアスがキラリと光った。

 「ステキ、冥旻ちゃん。ポニテもかわいいけど、ショートも凄く似合う。」

ありがとう。と、笑って、先の話の続きを口にする。
今回、自分がターゲットになったのは、多分夫の関係だ。と。

冥旻ちゃんの旦那さんは、秦皇羽シンファンユー
数回しか会ったことはないが、天羽てんうと同じ、オッドアイ。金髪。ロシアと中国のハーフだという。

 「だから、あまり深入りはしないでね。でも、やれることはやりましょ。男ばっかりにまかせてられないし、ね。」

イタズラな子供のような目で冥旻ちゃんは、言った。
秦皇羽は、中国の国家主席、秦皇翼シンファンイーの息子で、ロシア大統領、Kiril Rasputinキリル ラスプーチンの実孫だという。当然オフレコ。
知った時は、さすがに驚いた。

だからか、冥旻ちゃんと結婚し、天羽がいることは公にしとらんようや。
嫌やないんかな。と、思わんこともないが、諸事情が許さんやろな。

それに、冥旻ちゃんも天羽もそのことに負の感情は持ってないようや。
色々な家族の形。それでええんやと思う。

せやけど、今回またそれ絡みやったら、やっぱり力になりたい。
冥旻ちゃんの為に。やれること、やったるわ。と、力んで、部屋の外に向く。

 「……いい加減、入ってもええで。」

にちかが、はっ?と、声を上げる。
冥旻ちゃんは当然。しぃちゃんもわかっていた。
そのオーラ。わざと隠さず、見守るてい

 「いや、タイミング。逃した。」

龍月だ。龍月は、自身の気配を完璧にコントロールできる。
本気で隠そうとしたなら、ウチでもようわからん。
女子会に混じるのも、ねぇ。と、誰に言うともなく口にした龍月に、何ゆうてんねや。座りぃ。と、促す。

 「本当、今日はありがとう。ゆっくり礼できなかったから。」

と、指し示したのはローテーブルのお菓子たち。
よく見ると、鎌倉の銘菓ばかりや。まぁ!嬉しいわ。
にちかには、現金がいい?と、訊く龍月。今回はこれで許す。と、にちかは“鳩サブレ”の封を切った。

ウチも。と、“鎌倉紅谷のクルミッ子”を一口。
自家製キャラメルにクルミがぎっしり。バターの生地に挟まれている。なのに、くどくない。いくらでもいけるわ。

 「で、本題。正式にお願いしたい。いい?」

女子会の力を貸してほしい。と、龍月。
NOと言わせない笑顔は、やはりさすがだ。まぁ、いわへんけどな。
しぃちゃんも勝ち誇った顔をする。

 「あっ!!」

突然にちかが大声をあげるから、クルミッ子を落としそうになったわ。
危ない危ない。

 「いいわねぇ。女王様。“Queenのお茶会”。」

意味ありげににちかは、ふふふ。と、笑った。
ぶつぶつ呟いて、龍月に向く。

 「いいわ、龍月。この名探偵にちか様に任せなさい。見返りは、都度払いね。」

お手柔らかに。と、龍月。どうやら交渉成立のようだ。

テーブルの上のお菓子に手を伸ばす。
“鎌倉五郎の半月”や。
名の通り半月の形をした、薄めのさくっとしたおせんべいに抹茶や小倉クリームをはさんだ一品。
うさぎ印がかわいいし、もちろん美味。

抹茶と小倉を一つずつ手にして、かざす。合わせてみる。
満月……やんなぁ。と、溜息。

中華街での扇帝みかどとアビーの姿が脳裏に蘇った。
来月は、七夕かぁ。

 「そうや、冥旻ちゃん今日文化祭で話しよったやんか。中国やと、七夕は8月なんやて?」

七夕は、冥旻ちゃんと秦皇羽の特別な日だと聞いた。
一緒に星を見て、願い、結ばれた。
何てロマンチックなんやろ。ええな。
冥旻ちゃん、めっちゃ恥ずかしそうにしとったけど、かわいかった。
今でも秦皇羽に恋しとる、女の子の顔やった。

 「そう、今年は、8月22日。中国では、“バレンタイン化”しているらしい。スキな人にプレゼントを送ったりするんだって。」

へぇ。ええなぁ。
男性が女性に何かを贈ること多いんやて。人気なのは、花束のようや。ええな。

 「えー、そうなんだ。冥旻さんと旦那様は、織姫と彦星みたく年一で会うんですか。」

にちかの言葉に、もっと普通に会うけどね。と、苦笑して、でも七夕は必ず会うかな。と、口にする。
冥旻ちゃんは、そう言い終えて、にちかがにやり。と、したのを、もう。恥ずかしいな。やめてよ。と、にちかの背中を叩いた。
本当にかわいい。

 「あ、そういう日。狙われるんじゃない?」

ストレートティーを一口。しぃちゃんが的を得た。
龍月を見ると、相変わらず何かを知っているのか知らないのか、判らせない表情をしていた。

 「大丈夫よ。犯人はもう捕まったし、上手く・・・やってくれたでしょ。」

冥旻ちゃんは、龍月に目配せした。龍月が頭を下げる。
危機感がないわけやない。信頼や。

そうや、冥旻ちゃんは、幼いころから―――いや、生まれたときからや。宿命みたいなもんを背負っとる。
ウチのパパと同じや。空月あつきも、天羽も。
もちろん、パパもや。いや、パパこそ。や。

せやからウチらに護身術である武道をやらせたんや。
とはいえ皆強制なてされとらん。己らが自然に選んだ。
もし、拒否してもパパやったら怒ったりせえへん。絶対や。

全力で守ってくれよる。今もやけどな。
せやけど、負担、減らしたらんとな。ウチかて、もう17になるんや。
パパが飛龍組ひりゅうぐみを継いだ年やと聞いた。

窓の外、月はなかった。
少しの意気込みと、もやもや・・・・が同居しとる。
曇り空みたいで嫌やねんけど、しゃーないしな。がんばらな。



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