16

     こうき
  ――箜騎、ありがとう。

       お前はずっと、俺の側にいてくれた。
       俺がサッカー投げ出して、荒れたときも。
       いつも。
       お前の優しさ、俺は大好きだ。
       いつまでも優しさを失わずにいろよ!!
           りつか
       P・S 俚束のこと、よろしくたのむ。

                          かみじょう  たつる
                          龍条 立 


 箜騎の痩せすぎない頬に涙が伝った。

  「立さんっっ……」

 涙が止まらない。
 立は、あの時どんな気持ちで……。

 ――立さん!何でだよ!何で別れなきゃなんないんだよ!

 ――P・S 俚束のこと、よろしくたのむ。

  「立さん……」

 後から後から流れる涙。
 ぬぐいもせずに、手紙を握り締めた。

  「箜騎ぃ〜!」
 ほずみ
 保角が箜騎に泣きついた。


 ――保角、ありがとう。

       お前は、ちょっと調子に乗りすぎる所があるな。
       現金だしさ。
       でも、お前のそういうところ。
       誰かに元気を与えてやれる。
       俺もたくさんもらった。ありがとう。
       これから、辛いこともたくさんあるだろうけど、お前なら大丈夫だ。
       Fightだぜ。


 立が苦笑して書いている姿が目に浮かんだ。
 箜騎と抱き合って、泣いた。

    ながき
 ――修、ありがとう。

       小さいことで、いつまでもくよくよしてんなよ。
       お前には、いい所がたくさんある。
       自分を信じて、その優しい笑顔を絶やさないでくれ。
       いつまでも。
       お前らしくいけ!


  「うっ……立さぁんっ。」

 しゃがみふして泣いた。

    とひろ
 ――斗尋、ありがとう。

       斗尋、よかったな。
       本当の彼女ができてさ。
       ひさめ
       氷雨もいいけど、やっぱ、女の子がいいよな。(笑)
       大切にしろよ。
       いつまでも、元気なお前でな!


  「龍条さん……」

 斗尋は、唇をかみ締めた。
 あれから、斗尋は以前に氷雨がつれてきたボブヘアの少女と付き合い始めた。
 立の冗談が、やけに辛い。

    みやつ
 ――造、ありがとう。

       お前は、苦労人だな。
       少し肩の力を抜いて、楽に生きてみな。
       でも、造のそういうしっかりした所、いつも俺は支えになってた。サンキュウ。
       人のことを親身に考えてやれる、温かいお前。
       大好きだぜ。
       そして、後悔は、絶対にするな!


  「龍条さん……」

 造は空を見上げた。
 優しい立の笑顔が焼きついている。


 ――氷雨、ありがとう。

       お前には、たくさん礼をいわなきゃな。
       ありがとう。
       お前の生きる強さ、俺は尊敬している。
       お前は強い。
       どんなことがあっても負けない強さ。持っている。
       がっつでいけ!

       P・S CB400FOUR ぶっこわしたらしょーちしねーぞ!


  「っ……」

 かみ締めていた唇が緩んで、氷雨の瞳から涙が溢れ、落ちた。

 夜の港。
 すすり泣きが木霊する。
 大声を上げて泣く者もいた。

 皆、皆、立を想っていた。

    つづし
 ――矜、ありがとう。

       お前には、たくさん言わなきゃいけないことあったのに、ごめんな。
       こんな手紙には書ききれないよ。
       ありがとう。
       書いても書いても足りないくらいだ。
       ごめんな。
       ずっと、辛い思いをさせてしまった。
       謝っても謝りきれない。

       でも、矜のことだから、ばかやろう。って、優しく呟いてくれるんだろうな……。
       矜、夢を実現させてくれよ。
       俺は、いつも見てるから。
       ずっと。

       ありがとう。


  「っ……ばかやろう!」

 はりさけそうな想い。

  「立――!!!」

 大空に向かって叫んだ。

     ゆづみ
 ――夕摘、ありがとう。

       生きる勇気をくれたね。
       俺は、夕摘のお陰で俚束と幸せになることができた。
       最期まで、俺は幸せでいられる。
       夕摘の強さ、俺は目の当たりにしたとき、女の子って男より大人だ。って思ったよ。
       もちろん、夕摘は俺より大人なんだけど。
       女の子って強いんだ。って。
       もう一度、ありがとう。

       P・S でも、たまには男に甘えたりしろよな。


  「ばかっ……」

 夕摘も手紙を手に泣いた。
 立の失笑が浮かんだ。


 ――俚束、ありがとう。

       俺の大切な、愛しい俚束。
       ありがとう。
       悲しませたりしてごめんな。
       でも俺は、精一杯お前を幸せにした。
       俺も幸せをたくさんもらった。

       これからは、お前の新しい人生、歩んでくれ。
       長年の夢だった店ももってくれ。
       辛いこと、たくさんあると思う。
       でも、俺の愛した俚束だから、打ち勝っていける。
       絶対いける!頑張れ!
       いつまでも見守ってる。

       愛してるよ。


  「……」

 ――愛してるよ。

 泣かないと決めた。
 もう、泣くのは、これで最後にしよう。
 俚束は、そう心に決めて、大声で叫んで涙を流した。

  「それから……立からの最後の皆への手紙だ。聞いてくれ。」

 矜は、手紙を読み終えた皆を見計らって、皆の前に立った。

  「皆、ありがとう。皆がいたから俺は生きてこられた。辛いことも苦しいことも皆と一緒だったから乗り越えられた。仲間っていいよな。温かいよな。」

 涙をすすって、手紙を持ち直す。
 深呼吸。
    ロ ー ド
  「THE ROAD。この族の名前は、俺がつけた。どこまでも果てしなく続く道。ロード。それぞれ違う道であり、どこかで出会う道。一本のレールじゃなくて幅広い道。俺の、お前らの、皆の道。」

 空を振り仰いだ。
 ダイヤモンドにも勝る港の夜景が輝いた。


 ――誰かに引かれるんじゃなくて、自分で作ってかなくちゃならない。
    行き止まりは何処にでもある。
    土砂崩れで通れないことだって。
    渋滞に巻き込まれたり、色々なことある。

    でも、きっと、絶対、道は続いてるんだ。
    後戻りしてもいい。
    止まってもいい。
    自分のペースで、ゆっくり進んでいけばいんだ。

    皆ならできる。
    きっと、できる。
    絶対、できる。
       ロード
    皆の道を見つけて進んでいってくれ!

    THE ROAD ―何処までも果てしなく―

                               龍条 立


 一斉に皆の泣き声が、港に木霊した。
 立の想いは、皆に届いた。

 そして、皆の想いも、あの空の立に届いただろう……。

 1988年、7月31日。
 ほんのり赤みがさして、今日が終わる。

 そして、8月1日。
 顔を出した朝日と共に、THE ROADは新しきを迎える。

 皆、それぞれのROADを目指して。
   ロ ー ド
 THE ROAD 何処までも果てしなく――……。


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