♦JとKの約束
♣
1
紫と黒の市松模様の天井、壁、そして床。
それらは歪にうねっていて、平衡感覚を狂わせる。
まぁ、“予備知識”があるだけだいぶ良い。と、
如樹 龍月は、長い脚を先へ進めた。
「R U OK?」
そんな龍月を見透かすように、大丈夫?と、言ったのは、チェシャ猫だ。
樹の上から見下ろして、口角を上げた。
大丈夫です。と、返答すると、世界がぐるりと一回転した。
大きな円い白いテーブル。
4つのイスは、
Heart、
Diamond、
Club。そして、
Spadeの
Aceが装飾されている。
Heart以外のイスには既に3人の男が腰をおろしていた。
HeartのAceは龍月の席と決められた。
ここへ来るのは、まだ数えられる程度だ。
おそらく、“この会”はもう10年以上も前からあったはずだ。
龍月が初めてここに呼ばれたのは、4年ほど前か。まだ小学生だった。
不定期に開かれるこの“お茶会”は、自分の好きな飲物を思い思いに飲み始め、楽しむ。
向かいのClubのAceは、ショットグラスを持ちながら顔を伏せている。
右隣のSpadeのAceは、目深にかぶったシルクハットから覗く口にコーヒーカップを運んだ。
「そのうち慣れる。つーか、これ以上の悪趣味はごめんだ。」
Diamond のAceだけが、こちらを見て慈悲的に言い、チェシャ猫を睨んだ。
バーボンと葉巻を嗜んでいるその顔は、大人でクールな印象。
至る所にある、大小様々な鏡が映す4人は、フォトリアルだ。
現実世界と変わらない。
それなのに、この空間は非現実的。
宙に浮いているようにも感じて、移動しているようにも思える。
5人しかいないこの空間の広さ感覚を狂わせる。
突然チェシャ猫がテーブルの上に落ちてきた。
「悪シュミ?ひどいなぁ。“常識、ルールが通用しない自由な世界”だよ。」
つまり、“不思議の国のアリス”の世界観。
チェシャ猫は、もう一度大きな口を広げて笑うと、消えた。否、紫と黒のストライプ柄―――チャシャ猫。の帽子を被った男に変わった。
その帽子には、宮廷道化師の鈴が付いている。
王様や貴族の批判を口にできる特別な存在。
無敵、切り札―――
JOKER。だ。
「アメリカは、予定通り明後日無事決定だね。」
JOKERの言葉に、DiamondのAceがああ。と、肯定し、SpadeのAceは軽く顎をさげた。2020年。昨年から始まったアメリカ大統領選挙。
2021年1月20日の明後日。第46代大統領就任だ。
前大統領の支持者たちが、事件を起こし、波乱があったようだが、龍月のあずかり知らぬところだ。
この、“お茶会”―――“Aのお茶会”はお気楽な様相を呈してはいるが、実は世界を牛耳れる力を持っている。
「今回のお題は、
Caucus Raceを終わらせること。」
そして。と、JOKERは龍月の目の前にカードを滑らせた。
Diamondの
Jack。次いで、Clubの
King。
龍月が手に取ると、JOKERは、
Missionだ。と、言った。
以前にも龍月だけに課された任務があった。
その時示されたカードは、HeartのKingとClubのJackだった。
「決行日は追って知らせるけど、その時に龍月にはDJ―――ダイヤモンド・ジャックを確保してもらう。」
確保……未成年ですか。と、尋ねると、後輩の様だよ。と返答。
DiamondのAceに援護させるから頼むね。と、言われた。
DiamondのJack。……Caucus Raceのキーパーソンか何かか。
龍月はカードを見つめた。
Caucus Race―――Caucusとは、党員集会、幹部会などを指す。
何らかの“集まり”の最中、DiamondのJackなる人物と接触、確保する。
「彼は、
番犬……いや、
猟犬。かな。龍月は交戦しないで済むならこしたことはないけど、万一の時は任せたよ。」
簡単に言ってくれるが、当然一筋縄ではいかないだろう。
“Aのお茶会”がおわらせる―――潰す、“集まり”なのだから。
ClubのAceは相変わらず顔を伏せている。
今回は関わらないということだ。
各々Aceたちは、同時に数十件の案件を抱えているらしい。
新米の龍月の立ち位置は、まだ助手。といったところか。
でも、いつか超えて見せる。
“約束”を守るために。
「ああ、“ネコちゃん”。
良いカードだ。」
JOKER―――チャシャ猫は、DiamondのAceに指示を出し終わり、こちらに振り向いて大きな口を開いた。
やっぱり知ってるか。まぁ、想定内。と、龍月は、はい。と、うなづいた。
そして身構えた。
「じゃ、Operation Start。」
SpadeのAceは、シルクハットを目深に被りなおし、DiamondのAceは、葉巻をゆっくり横たえた。
ClubのAceは、そのまま右手を挙げて振って、龍月が了解しました。と、言葉にした途端、真っ暗な深い穴に落とされた。
ふぅ。と、溜息をついてVRゴーグルを外す。
身構えたお陰で驚きはしないが、少なからず良い気分ではない。
机上の冷めたコーヒーを飲みながら、早速送られてきた資料を見る。
今日は、
満月。
最大は朝なので見られなかったが、地球から最も遠い美しい満月。
狼の物悲しい遠吠えが聴こえた気がした。
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イラスト公開
龍月&
♦J、桔平と
♣ K、宗尊
桔平
柔術が得意。
辛口で端的な話し方をする、少しひねくれ者。
人を寄せ付けないオーラがあるが、根は優しい男。
宗尊
柔術、ボクシングが得意。
体の大きさと見た目に反して、恬淡、根明で純朴な男。
礼儀正しく、周りからの人望も厚い善人。
あけおめ!2024!
昨年はC様、K様にも会えて嬉しかったです♪
性懲りもなく、第三話UP!
龍月と平ちゃんの出会いの話。そして、尊ちゃんとの約束。
早く書きたかったひと話でもあったので、ストーリーの山場を超えたので、UPしてみたw。
執筆は、ラストまであとすこし!楽しんでます♪
てわけで、C様の素敵な桔平&宗尊のイラストUPしちゃお!
たくさん使わせていただいてます!C様さんくす♪
いつみてもサイコーっす!!
2024.01.03 湘