JとKの約束


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紫と黒の市松模様の天井、壁、そして床。
それらは歪にうねっていて、平衡感覚を狂わせる。

まぁ、“予備知識”があるだけだいぶ良い。と、
如樹 龍月きさらぎ たつきは、長い脚を先へ進めた。

 「R U OK?」

そんな龍月を見透かすように、大丈夫?と、言ったのは、チェシャ猫だ。
樹の上から見下ろして、口角を上げた。

大丈夫です。と、返答すると、世界がぐるりと一回転した。
大きな円い白いテーブル。
4つのイスは、HeartハートDiamondダイヤモンドClubクラブ。そして、SpadeスペードAceエースが装飾されている。
Heart以外のイスには既に3人の男が腰をおろしていた。

HeartのAceは龍月の席と決められた。
ここへ来るのは、まだ数えられる程度だ。
おそらく、“この会”はもう10年以上も前からあったはずだ。
龍月が初めてここに呼ばれたのは、4年ほど前か。まだ小学生だった。

不定期に開かれるこの“お茶会”は、自分の好きな飲物を思い思いに飲み始め、楽しむ。
向かいのClubのAceは、ショットグラスを持ちながら顔を伏せている。
右隣のSpadeのAceは、目深にかぶったシルクハットから覗く口にコーヒーカップを運んだ。

 「そのうち慣れる。つーか、これ以上の悪趣味はごめんだ。」

Diamond のAceだけが、こちらを見て慈悲的に言い、チェシャ猫を睨んだ。
バーボンと葉巻を嗜んでいるその顔は、大人でクールな印象。

至る所にある、大小様々な鏡が映す4人は、フォトリアルだ。
現実世界と変わらない。
それなのに、この空間は非現実的。
宙に浮いているようにも感じて、移動しているようにも思える。
5人しかいないこの空間の広さ感覚を狂わせる。

突然チェシャ猫がテーブルの上に落ちてきた。

 「悪シュミ?ひどいなぁ。“常識、ルールが通用しない自由な世界”だよ。」

つまり、“不思議の国のアリス”の世界観。
チェシャ猫は、もう一度大きな口を広げて笑うと、消えた。否、紫と黒のストライプ柄―――チャシャ猫。の帽子を被った男に変わった。
その帽子には、宮廷道化師の鈴が付いている。
王様や貴族の批判を口にできる特別な存在。
無敵、切り札―――JOKERジョーカー。だ。

 「アメリカは、予定通り明後日無事決定だね。」

JOKERの言葉に、DiamondのAceがああ。と、肯定し、SpadeのAceは軽く顎をさげた。2020年。昨年から始まったアメリカ大統領選挙。
2021年1月20日の明後日。第46代大統領就任だ。
前大統領の支持者たちが、事件を起こし、波乱があったようだが、龍月のあずかり知らぬところだ。
この、“お茶会”―――“Aのお茶会”はお気楽な様相を呈してはいるが、実は世界を牛耳れる力を持っている。

 「今回のお題は、Caucus Raceコーカス・レースを終わらせること。」

そして。と、JOKERは龍月の目の前にカードを滑らせた。
DiamondのJackジャック。次いで、ClubのKingキング
龍月が手に取ると、JOKERは、Missionミッションだ。と、言った。

以前にも龍月だけに課された任務があった。
その時示されたカードは、HeartのKingとClubのJackだった。

 「決行日は追って知らせるけど、その時に龍月にはDJ―――ダイヤモンド・ジャックを確保してもらう。」

確保……未成年ですか。と、尋ねると、後輩の様だよ。と返答。
DiamondのAceに援護させるから頼むね。と、言われた。

DiamondのJack。……Caucus Raceのキーパーソンか何かか。
龍月はカードを見つめた。
Caucus Race―――Caucusとは、党員集会、幹部会などを指す。
何らかの“集まり”の最中、DiamondのJackなる人物と接触、確保する。

 「彼は、番犬Watch Dog……いや、猟犬Hunting Dog。かな。龍月は交戦しないで済むならこしたことはないけど、万一の時は任せたよ。」

簡単に言ってくれるが、当然一筋縄ではいかないだろう。
“Aのお茶会”がおわらせる―――潰す、“集まり”なのだから。

ClubのAceは相変わらず顔を伏せている。
今回は関わらないということだ。
各々Aceたちは、同時に数十件の案件を抱えているらしい。
新米の龍月の立ち位置は、まだ助手。といったところか。
でも、いつか超えて見せる。
“約束”を守るために。

 「ああ、“ネコちゃん”。良いカード・・・・・だ。」

JOKER―――チャシャ猫は、DiamondのAceに指示を出し終わり、こちらに振り向いて大きな口を開いた。
やっぱり知ってるか。まぁ、想定内。と、龍月は、はい。と、うなづいた。
そして身構えた。

 「じゃ、Operation Start。」

SpadeのAceは、シルクハットを目深に被りなおし、DiamondのAceは、葉巻をゆっくり横たえた。
ClubのAceは、そのまま右手を挙げて振って、龍月が了解しました。と、言葉にした途端、真っ暗な深い穴に落とされた。

ふぅ。と、溜息をついてVRゴーグルを外す。
身構えたお陰で驚きはしないが、少なからず良い気分ではない。

机上の冷めたコーヒーを飲みながら、早速送られてきた資料を見る。
今日は、満月ウルフ・ムーン
最大は朝なので見られなかったが、地球から最も遠い美しい満月。
狼の物悲しい遠吠えが聴こえた気がした。



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イラスト公開

龍月&
J、桔平と K、宗尊




桔平
柔術が得意。
辛口で端的な話し方をする、少しひねくれ者。
人を寄せ付けないオーラがあるが、根は優しい男。


宗尊
柔術、ボクシングが得意。
体の大きさと見た目に反して、恬淡、根明で純朴な男。
礼儀正しく、周りからの人望も厚い善人。



あけおめ!2024!
昨年はC様、K様にも会えて嬉しかったです♪

性懲りもなく、第三話UP!
龍月と平ちゃんの出会いの話。そして、尊ちゃんとの約束。
早く書きたかったひと話でもあったので、ストーリーの山場を超えたので、UPしてみたw。
執筆は、ラストまであとすこし!楽しんでます♪

てわけで、C様の素敵な桔平&宗尊のイラストUPしちゃお!
たくさん使わせていただいてます!C様さんくす♪

いつみてもサイコーっす!!


2024.01.03 湘