♦JとKの約束
♣
7
「弟なんだ。」
と、“先輩”は、
柊の事を言った。
「え。あ……すみません。弟くんに……。」
龍月は、柊に対しての言動を“先輩”に謝った。
弟……。龍月は、柊が去った道を振り返る。
「いや。強いんだね。……
如樹 龍月くん。」
“先輩”―――
嵩原 諒と名乗った。は、複雑な表情をしたまま、龍月の名を呼んだ。
K学では、有名人だから、知ってるよ。と、笑った顔は、さやかな雰囲気が柊と重なった。
宗尊といい、諒といい、そんなに目立った事はしてないと思うんだけどな。と、龍月は苦笑。
「……僕は、卑怯なんだ。」
「……。」
諒は、龍月と同じく、柊の去った道を見つめて、ぽつり。と、言った。
「弟の罪を見て見ぬふりをしていた。ずっと。」
詳しい事情はわからないが、弟の素行を心配しているのは、伝わった。
早くここから立ち去ったほうがいい。と、龍月の身を案じる優しい心根も。
「……嵩原先輩は、卑怯ではないですよ。卑怯な人は、自分をそんな風にはいわない。現に今、身体を張って弟くんと向き合おうとした。」
正しくあろうとする、弟思いの優しい人だ。
龍月の言葉に、諒は、ありがとう。と、口にしてうつむいた。
やがて、夕日を背負って現れたのは、大柄な男2人を先頭に先の5人。
そのうしろに、3人。
思ってたより少なかった。総勢10人か。
龍月は、夕日に目を細めながら、目算した。
「仲間を
殺ったのは、お前か。」
左の大柄の男が言った。
いや、
殺ってない。と、言おうとしたが黙す。
全員鉄パイプを持っている。なんと、古典的で昭和っぽい族か。
龍月は、良く整った眉根をひそめる。
「逃げなかったのは褒めてやる。」
右の大柄の男の言葉。
いや、逃げる必要ないし。と、やはり心中で呟く。
「この男は、関係ない。柊を返してくれよ、兄貴。」
今度は諒が龍月を守るように前に出た。
兄貴……って。と、龍月は、諒が見つめる左の大柄の男を見る。
「諒。何度言わせんだ。柊は、好きでここに居んだ。黙ってろ。俺はなぁ。仲間を
殺った奴に落とし前を付けに来ただけだ。」
落とし前って……まぁ。見た目ヤクザ
風体。成人だろうけど、まさか昭和生まれではないよな。と、龍月は、先に会った
零己と
Luisを思い浮かべて、零己は比較にならないか。と、思い直した。
言いようによっては男気のある、昔カタギの男―――諒と柊の兄。に睨まれた。
「はっ?こんなヒョロガリのチビに
殺られたのかよ、お前ら。」
右の男が鼻で笑った。
チビって……一応170はあります。と、三度目の独話。
確かに2人とも180……いや、190近いか。と、見積もっていると後ろから忍び笑い。
「その
ヒョロガリに
殺られちゃったねぇ。」
「ね。しっかりと。」
その笑いは、シンクロした。
一人はスマホを掲げて、先の龍月の立ち回りのビデオを流した。大男2人に見えるように。
もう一人の男は、東浜で暴れるな。約束だろ。と、叱咤した。
どちらも同じ顔。同じ声。
「……
昂大くん、
悠大くん。」
湘南暴走族
BAD×BLUESのメンバー、
得道 昂大と
得道 悠大。
得道ツインズと呼ばれる一卵性の双子で、龍月の知り合いだった。
二人を見分けるコツは、髪型。
向かって右分けの髪―――昂大。左分け―――悠大。なのだが、分け目を変えられたらアウト。どいうほどそっくりだった。
「ああ?知り合いかよ。」
右の男が昂大を睨んだ。悠大の持つスマホを見て目を細める。
「
仗、
雷杞。龍月に敵うわけないじゃん。誰の子だと思ってんの。」
悠大がスマホを振りながら大げさに言う。
―――天下の
如樹 紊駕さんの息子よ。
……って、何か悠大くんの持ってるスマホが、水戸黄門の印籠のように見える。と、龍月は、苦笑い。
とはいえ、ははぁっ。と、皆が地面に頭を垂れるワケはなく、しかし、マジかよ。と、かなりザワついた。
BAD×BLUES―――通称B×B。の前身は、湘南暴走族BADとBLUESという二つの族が合体してできた、湘南最大規模の族だ。
そのBADを造ったのが、若かりし頃の父、紊駕だということは、龍月も知っていた。が、ここまで浸透しているとは知らなかった。
どうやら紊駕は、カリスマ的、レジェントと称されているらしかった。
「で。話をきいてっと、柊が犯罪に手ぇ出したのがナシってことだろ。」
「軽はずみ。ありえないね。」
昂大、悠大の順で言い、仗の責任だ。と、昂大が叱責した。
顔も声も仕草までもそっくりだが、兄の昂大のほうが、言動がしっかりしていて、悠大は追随する感じだ。
「……すみませんでした。」
柊は、素直に謝った。平塚連合の皆、鉄パイプを下し、対話に応じてくれた。この辺は、実に平成―――令和っぽくて、良い。
「柊。お前がそんなんだから、諒が心配しすぎんだろうが!」
清々しい拳骨の音が響いて、仗に殴られた柊は、頭を抱え再び謝罪。
仗は、諒に、俺たちはバイクが好きでここにいる。と、言った。
認めてくれ。と、言うようにしっかりと諒の目をみた。
周りからは不良と呼ばれるが、俺たちなりの矜持があるのだ。と。
金輪際犯罪には手をださせない。約束する。と、仗は諒に頭を下げたのだ。
「………わかった。柊の事しっかり見てよ、兄貴。」
諒は、頷いて、平塚連合の男たちにも約束してくれと言った。
どっちが兄貴か。と、昂大は苦笑して、約束破ったらウチの頭出張らせるからな。と、タンカきった。
平塚連合の男たちは、ひえっ。と、悲鳴を上げる。
ウチ―――B×Bのトップは、やはり前身BADを紊駕と共に造った初代総統の
滄 氷雨。の息子、
滄 氷風のことだ。
当然、龍月とは、生まれる前からの知り合いのような間柄だった。
とりあえず、一件落着。
気が付けば、陽が沈み、海風が冷たくなってきた。
「そうだ、柊。」
龍月は、柊の耳元で訊いた。諒が心配するのでなるべく小声で。
今日の強盗の件。どんな経緯だったのかを。
柊は、龍月の先の立ち回りと紊駕の息子という“ブランド”に至極興奮して、色々と話してくれた。
「何すか。龍月さん。おまわりの手伝いしてるとか?」
んっー。そんな感じ。と、はぐらかすと、すげぇ。と、目を輝かせた。
柊は、中1だった。全く悪人になど見えない。
そんな少年が犯罪に手を出す。出せてしまう世の中に龍月は、怒りを覚えた。
SNSで不特定多数の少年たちを“バイト”と称し騙し、犯罪をさせる。少年たちは、気軽にバイトに応募し、決行。結果、逮捕されたとしても大元は痛くもかゆくもないのだ。
防衛手段の一つは、教育だろう。
犯罪を行わない、行わせない。
平塚連合もB×Bもバイク好きな集まりで、犯罪集団では、決してない。
トップが、仗や氷風なら、大きな間違いは起きないし、起こさせないだろう。
そうあってほしい。
龍月は、
桔平に思いを馳せた。
「あ、そういえば、来月あたり
朔弥たち帰国だって。」
「うわ。
陽色くんのか。」
悠大が龍月に言って、昂大がのけぞった。二人のおさななじみだが、龍月も幼少会ったことがる兄弟だ。
また仲間が増えるな。と、龍月は、新月になりゆく月を見つめた。
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