ルール
♠KとJの道理
♠
10
「いいよ。お前らの、落とし前のつけ方。見ててあげる。」
僕は、ピンク髪―――
馬越に言った。
馬越は、ひゃっほう!と奇声を上げて、右腕を高々と挙げる。
300人強を引き連れた馬越は、僕の前にやってきて、開口一番、“王”と叫んだ。
僕のことを尊敬している。と、言った。
さらに、
大阪港心會、東京
港トレーディングカンパニーのやり方が意に沿わない。
と、僕に頭を下げ、りぃくんを刺した男―――自身の仲間。
の責任を取ると言い出したのだ。
りぃくんを刺した男は、ノルマを達成できずに東京港トレーディングのボスに脅され、僕を
殺れと指示されていたらしい。
大阪港心會を
殺らさせてくれ。と、
東京港心會のメンバーも一斉に腰を折ったのだ。
「こらぁ、東京!何抜かしとんのや!裏切るんかぁワレぁ!!」
「ごちゃごちゃうるせぇよ。ここは、東京だっ!!」
仲間をへとも思わない、汚い手しか使わないお前らにムカついている。
馬越は
牛岩に啖呵を切った。一気に戦況が変わった。
そんな中。
「なっ、んだよ、それ。それじゃ俺が……」
「裏切ったイミがない。か?」
ケンケンが、思わず口にした
田子の喉元に木刀を突きつけた。
お前が大阪港心會を呼んだんだな。と。
「そして、私に罪をなすりつけた。……新参者。だからですか。」
杜松がネクタイを緩めた。
背後から素早く田子の腕を後ろで拘束して睨みつける。
ケンケンが、僕を見て、りぃくんから連絡をもらった。と、言った。
「……田子。僕のこと、恨んでるの?東華の
道理に、賛同できない?お前たちも?」
僕は、田子と田子の仲間に訊いた。
田子は、口の中、欠けた歯を確認するかのように舌で触った。
僕の
道理に従わなかったから、僕が夏に折ったのだ。
「だったら何だよ!!」
田子は叫んだ。田子の仲間は黙していた。
「そっか。残念だ。」
えっ、と。田子が呟いたか否か。僕の回し蹴りをまともに受けて、沈んだ。
今から、敵だ。聞こえてはいないだろうが、宣言した。
東華の
道理に二度も反した奴に、情状酌量の余地は、ない。
「東華は、自由だ!だけど、自由には、責任が伴うんだよ。僕の
道理に従えないならそれでいい。でも、落とし前はちゃんとつけろ!!」
うひょおっ、かけぇぇっっ!と、馬越が締まらない奇声をまたあげて、ハチに拳骨をかまされた。
田子の仲間たちは、すんません。と、頭を下げ、今まで通り僕の仲間でいたい。と、懇願した。
「……ワイも
Teddy……はんの為に闘ってもええやろか。」
さっき降ってきた缶詰を蹴った時、下にいた大阪港心會の男。
と、その周りの数人が何故か挙手をして言った。
よく、わからないけど。と、僕は笑って、いいよ。と返答。
男たちが歓喜の声をあげた。
何ゆうてんねやぁ!と牛岩が吠えた。戦況がまた、変わった。
「一丁前に、男語ってんなぁ。」
正面入り口。また、誰かが来た。
「
都華咲ぁ、生きてたか。大きくなったなぁ。」
その男は、僕の心の奥底にある、黒い何かを引きずりだす声音だった。
牛岩が、
鬼頭さん!と叫んで、大阪港心會が直立不動になった。
鬼頭
千狩。僕の生物学上の父親だった。
8年前。
雅楽を殺した男だった。
たくさんの大人たちを従えて、肩で風を切るようにして歩いてくる。
「何温ぇことしてんだてめぇら。武器使え武器!!」
鬼頭の取り巻きたちが大阪港心會に鉄パイプやら何やらの武器を配った。
馬越、聞いてたからな。と、脅しの言葉にも、馬越や東京港心會のメンバーは態度を変えることはしなかった。
東京港心會 VS 大阪港心會。
東華と新参者 VS 東京港トレーディング。
ガキの時間は、終わりだ。と鬼頭が吐いた、その時。
「じゃ、こっちも大人が出張ろうか。」
モンちゃんと、元
Crazy Kidsの仲間たちだった。
さらに。
「通りすがりの都民だけど。参戦、してもいいか、Teddy。」
「いっくん!」
赤い髪。170はある身長。一昨年、小5で田子を独りで伸した強者。
たっくんの幼馴染、
維薪だった。
―――維薪は、もらうね。でももし維薪がそっちを選んだら、頼むね。
たっくんは、言った。
いっくんとは、本当は同じ中学の予定だった。
―――百聞は一見にしかず。だ。会ってごらん。気に入ると思うな。
夏祭りの日。
たっくんに言われて、僕は、いっくんとその仲間―――トリオに会った。
たっくん自慢のトリオ。
いっくんは向上心が高く、真っすぐだ。
あっくんは、素直で他人に優しい善人だ。
天くんは、信頼してる人は絶対に裏切らない。
たっくんは、言った。
そして、3人とも強い。僕の友達だ。と。
「モンちゃん、いっくん。東京港トレーディング、お願いしていい?」
ザコで悪いけど。と、加える。2人は頷いてくれた。
僕は、こいつとケジメをつけないといけない。
「親子、水入らず。だな。」
「知らねーし。」
僕は吐き捨てた。
冷てぇな。と、にやけた笑みを漏らす鬼頭。
僕の母ちゃんはホステスだった。当時、渋谷でNo1を謳っていたらしい。
鬼頭に見染められて、僕を産んだ。雅楽を産んだ。
ただ、産んだだけで、育ててはくれなかった。
僕らには戸籍がなかった。
だから、僕は小学校にすらいけなかった。
「母親譲りのキレーな面、してやがんなぁ。
売れそうだ。」
生後間もない雅楽を虐待して売ろうとした。
3歳の雅楽を、死に至らしめた。
アメリカ市場もいいけど、やっぱアジアか。などと独りで頷いている。
最低最悪の下衆ヤロー。クズ以下。
黒い何かが、腹の底から昇ってくる。こみあげてくる。怒り。
渋谷のど真ん中で、あんなに人がいる中で、僕と雅楽は、二人ぼっちだった。
警察も、国―――児相も助けてはくれなかった。
何かが間違っている。理不尽だ。
悪が平然とのさばり、善が泣く世の中なんて、おかしい。
だから、ぶっ壊すと決めた。
強くなると、誓った。
渋谷を、東京を正すと。
完膚なきまでに、圧倒的な力で。
「つっ!!!」
鬼頭が目の前でぶったおれた。
僕の上段蹴り。ノーガード。
てめぇ。と、顔をおさえて咳き込んだ。
こんなに弱いのか。こんなに小さかったか。
あの日、殺しそこねた、男は。
鬼頭は、立ち上がってジャケットの裏に手を入れた。
お前の、女か。と、取り出したスマホ。鬼頭の不敵な笑み。
茶色のクマのストラップ―――
希映のだ。
鬼頭は下卑た笑いで、僕のズボンからでている色違いのクマを指さした。
りぃくんの父ちゃんが希映とお揃いで雅楽に買ってくれたものだった。
りぃくんの父ちゃんと母ちゃんは、僕たちを救ってくれた。
戸籍を与え、学校に通わせてくれた。
りぃくんと希映、僕と雅楽。
本当の兄妹のように接してくれた。
「生きてたら雅楽を同じくれぇの
女かぁ。」
「……お前の口で雅楽の名を、言うな。」
拳に力が入り、掌に爪が刺さった。
希映を、どうした。僕は、自分の声を外で聞いているかのような感覚に陥った。
頭の中で、誰かがしゃべっている。
殺せ。殺してしまえ。唇から血がにじんだ。
いつの間にか、鬼頭が僕の下にいる。
拳をふるっているのは、僕、か?
鬼頭の顔は血まみれだった。僕の、手か。この真っ赤な手は。
―――そこまでだ、都華咲。
感情で動くな。冷静になれ。
たっくんの声がした。深呼吸。
そうだ。たっくんが教えてくれた。
不安定な心のケアの仕方。怒りの向け方。
たっくんには、勝たなくていい。負けてもいんだと。
―――勝つことは大事だ。でもね、負けても、負け方が大事なんだよ。
それ以上やるなら、俺が相手になる。
たっくんは言ってくれた。僕が、一線を超えようとしたときだ。
あの時。
初めて、僕は泣いた。
そうだったね、たっくん。ありがとう。
僕は、りぃくんに握られた腕をさすった。
―――敵討ち。とか考えるな。
そうだよね、りぃくん。ありがとう。
僕は、一呼吸。
「希映を、どうした。」
鬼頭の胸座を引き上げて、もう一度訊いた。
血に染まった顔。うっすら目を開けた鬼頭が指差した先。
後方のキャットウォーク。一番初めに伸した
河豚がいた。
希映を捕まえている。
「希映っ!」
希映は僕をみとめて、眉をしかめて唇をへの字にした。
涙をこらえているようだ。
次の瞬間、目を見開いて、つっくん!と、叫んだ。
頭に衝撃。脚を踏ん張って耐えた。
鬼頭が立ち上がり、鉄パイプを担いでいた。
こめかみが熱かった。頬に流れる血。手でぬぐう。
僕は鬼頭を睨みつけた。
「Teddy!希映ちゃんは任せろ!」
ケンケンが僕の脇を駆け抜けていった。
ケンケンは、女の子好きなだけじゃなくて、女の子に超絶優しい。
だから、六本木事件で、
巳嵜が自分の妹を遣って汚い手でケンケンを陥れたとき、甘んじてラチられた。
僕は、頼んだ!と声を張る。
鬼頭と再び向き合った。
「僕は、お前を殺さない。お前の命なんて、いらねーし。」
殺す価値もない。昔の恨みで復讐。敵討ち。ダサい。
「金輪際、僕や僕の仲間に近づくな!」
最後の一振り。拳に力を込めて放った。
僕は、鬼頭に引導を渡した。
微動だにしない鬼頭を見下ろす。
「えらかったね、都華咲。」
頭の中じゃない。
振り返ると、目の前に本物のたっくんが立っていた。
180はある長身、黒のコート。
左下がりのスタイリッシュでおしゃれな前髪。
オーラが非凡だ。
僕が、最強と認める一人で、心服する人。
たっくんは、優しい笑顔で笑ってくれた。
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