ルール
            KとJの道理


                12


マンションに帰ったのは、19日の明け方だった。
そのまま爆睡した。で、今腹が空いて目覚めた。
気怠い。頭、痛い。何か、身体が重たい。
僕は、半身を起こした。
うわっ。と、声が漏れる。

 「お。起きたか、Teddyテディ。」

モンちゃんがキッチンから顔をのぞかせる。良い匂いがする。
リビングは、何処に誰がいるのか判らないほど人で埋め尽くされていて、僕の身体の上にも誰かの脚やら手やらが乗っかっていた。
昨夜の戦いの後、一部は帰宅。一部はここに来たんだった。

 「おはようございます!!Teddy先輩!!」

頭にガンガン響く、甲高い声。ピンク色の髪。馬越まこしだった。
昨夜、いかに僕のことを尊敬していて、いかに東華とうかに入りたかったか熱弁した。ピンク色の髪も僕リスペクトの証だと豪語していた。
途中でどうでもよくなって僕は寝落ちした。多分。

 「昨夜のTeddy先輩かっこよかったっス!!一瞬で河豚ふくべって対10人以上の立ち回り。敵をも助け、仲間を鼓舞する。何たるカリスマ性。ああっ、もう神っス!神!いや、やっぱ王っス王!!」

うるさい。顔、近い。
僕は邪険にしたけど、馬越は止まらなかった。
神と王どっちがすごいのか。自問自答して、どっちよりも僕がすごいって事で納得する。

うざい。
……けど、面白い奴だ。

 「ガチファンとか、うけるよな。」

ニャンタが数時間前までケンカしていたとは思えないほど爽やかな笑顔で、僕にマグカップを手渡してくれた。腹減っただろ。と。
誰かの手足とぐちゃぐちゃになっている毛布やら何やらをどかして、ソファーに座る。
コーンスープ。温かくて美味しい。

ニャンタせんぱーい。と、馬越は奇声をあげて、適当にあしらわれた。

 「敵じゃないんでしたら、もっと早く言ってくれればいいのに。」

洗面所からタマが顔を出す。
自慢のストレート金髪を櫛で梳いている。
髪を洗ったのだろう、さらさらつるつるに光っていた。

ターマ先輩。と、声を裏返して馬越は、立ち回り苦労したんスよ。と、言う。
3日ほど前から大阪港心會おおさかこうしんかいの幹部やメンバーが東京入りしている事に気が付き、東華が昨夜、攻めてくることを知った。つまり、内通者がいる。
倉庫につけた隠しカメラ。状況を判断。機を伺っていたというのだ。

 「ケンケン先輩の突きつけた木刀、かっこいかったっス!!Teddy先輩を裏切るなんて、信じられないっスよ!!」

田子たごの仲間がバツの悪い顔をした。
田子は、いなかった。

 「……田子の事。これからも気にかけてあげなよ。あいつが東華を辞めたって、お前たちは友達だろ。」

僕は田子の仲間たちに言った。皆、しおらしくうなづく。
馬越が優しいっス!!と、涙ぐんだ。
それから。と、僕はダイニングテーブルでケンケンとお茶を飲んでいた杜松ねずと目を合わせる。

 「杜松も、罪着せられてムカついただろうけど、これからも情報収集頼むね。」

杜松は、わかりました。と、口にして、ラットです。と、言った。
ん?と、僕は首を横に傾けた。

 「昨夜、Teddyくんは、私を労い、ラット。と命名して下さいました。そして、そこのは、ホース。さらに、シシ。です。」

杜松―――ラット。は淡々と口にした。
そこのって!と馬越―――ホース。が突っ込んで、元大阪港心會の、缶詰男、猪瀬いのせ―――シシ。がうっス。と、頭を下げた。
ケンケンも頷いていた。

そうだっけ。まあ、いっか。
何か、すごい人数いる。と、思ったら東華に加え、元東京港心會とうきょうこうしんかいと元大阪港心會のメンバーがいるのか。

 「そういえば、鍵。ありがと、ホース。」

たっくんから聞いた。子供たちの手錠の鍵をホースがくれた。と。
ホースは、たっくんのことを、龍月たつき大先輩と呼んで、会えて感激だったと涙した。

ウソがないのは判る。
東京港心會の奴らは皆、江戸っ子的で、陽キャだった。
ちょっとうるさいけど。

 「しっかし、あの鬼頭きとうを前に怯まず、殴打にも耐えっ……うおっっ!!」

ホースがいきなり後ろに倒れた。
敷布団やら毛布やらが広がっている床に座っていたホースは、寝ていたハチに後ろからエルボーをかまされたのだ。
うお、ハチ先輩の抱擁。ありがたいっス!と、ホース。
倒れこんだまま言った。

 「ふふ。おはよ、ハチ。」

起きていたのは知っていた。
ハチなりの気遣いだと言うことも。

たっくんは、鬼頭を連れ出した後、独りで戻ってきた。
もう大丈夫。安心していいよ。と、僕の頭を撫でてくれた。
たっくんがいうなら、そうなのだ。

雅楽うた。安心して天国そっちで楽しむんだよ。
僕は、まだいってあげれないけど、いつか。その時が来たら。
胸を張って雅楽に会いに行くよ。

窓の外。
真っ青な大空が輝いていた。

 「ほら、出来たぞ。これ、食ったら俐士りひとんとこ、行くぞ。」

モンちゃんが遅い朝食を作ってくれた。
そうだ。りぃくんに会いに行かなきゃ。
僕は、立ち上がって顔を洗いに行った。
右のこめかみが痛んだけど、大丈夫。

昨夜、この抗争―――東西抗争。は、東京の勝ちだ。と、ニャンタが宣言して、終結させた。
各々ケガ人の介抱をしながら、散り散りに解散。
いっくんたちトリオにも礼を言って、改めて連絡させてほしいと約束した。

りぃくんに、電話した。
ワンコールも待たせずりぃくんは電話に出た。
希映のえの事を謝ると、僕のせいじゃないと言ってくれた。
隣で希映も大丈夫だよと頷いてくれた。

 「Teddy先輩。……Leeリー先輩へ詫び、入れさせてください。」

さっきまでとはうって変わった真面目な態度のホースと、その仲間。
りぃくんを刺した男の落とし前。ホースは深々と頭を下げた。
昨夜も宣言通り、大阪港心會の牛岩うしいわり、責任を取ってみせた。
仁義を通した。東華の道理ルールに沿う男だ。

 「うん、わかった。お前のそういう所、気に入ったよ。」

 「俺も愛してます!!」

……それは、キショい。
僕は、眉をひそめた。
ふざけんな。と、ハチ。図に乗るな。と、ニャンタが両方からホースを殴った。
ホースは大袈裟に謝って土下座した。

 「気づいてた。か。」

病院で、りぃくんは僕を労ってくれた後、頭を下げた。モンちゃんもだ。
今回の抗争に鬼頭が関わっていた―――黒幕だった。ことを黙していた事。

 「りぃくん、僕に隠し事できないもんね。」

僕は笑った。
モンちゃんとりぃくんの態度。りぃくんに掴まれた腕。言葉。
あの時、あいつが現れて理解した。
二人の……いや、たっくんもだ。優しい気持ちを。

 「やり口が一緒だよな。」

ハチが吐き捨てた。鬼頭の悪行。ニャンタとケンケンも頷いた。
タマは、その当時のことは知らない。他の仲間も。察して黙っていてくれた。

 「……それからさ、水臭いな、Lee。」

ニャンタが少し怒ったような、淋しそうな表情をして、モンちゃんから聞いた。と、言った。

―――なゆたくんたちは、道連れにはできません。

たっくんの前で、りぃくんは言ったらしい。
多分。僕が堕ちたとき。そう、りぃくんは覚悟をしてくれていたのだ。
だから、トリオ―――いっくんの助けを、たっくんに頼んだ。

 「俺らだって地獄の底までTeddyとLeeについていく。」

あの時。お前たちにこの命を預けたんだ。と、ケンケン。ニャンタが頷く。
ハチとタマも当然だ。と、胸を張る。
りぃくんはまた頭を下げた。
俺も!と、ホースが挙手して、誰?と、りぃくんに言われ、皆に笑われた。



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