ルール
♠KとJの道理
♠
2
「でしょう。
うちに誘ったんだけど、瞬殺ぅ。」
チェシャ猫―――
JOKER。は、下戸だというが、普段から酔っている。
というか、茶目っ気のある、悪戯好きな少年のような男だ。
「大方、“指図なんか受けるか。選ぶのは俺だ。”とか言われたんじゃないですか。」
龍月の言葉に、やはりチェシャ猫のように笑って、ご名答。と、JOKERは言う。
さすが幼馴染。と、付け加えた。
悪い気はしない。龍月にとって
維薪は、自慢の幼馴染の一人だ。
「その龍月の自慢の幼馴染トリオのもう一人―――
天羽の件は進行中として。」
龍月の心の声が聞こえたかのように、JOKERは言った。
今回の
Missionは。と、続ける。
JOKERはいつの間にか手にしていたトランプをリフルシャッフルした。
まるでマジシャンだ。
カードを2枚引く。
Spadeの
Kingと
Jack。
そして、
お題を告げる。まるで帽子屋みたいに。
「
Agitator、龍月の事案か。」
Diamondの
Aceが
葉巻の煙と共に吐いた言葉。
龍月は整った眉を歪めて、それ、あまり良い気がしない。と、口にする。
Agitator―――いわゆる扇動者。という意味の英単語だ。
特定のイデオロギーや政治的な意図に基づいて、大衆行動を指揮。
有利な世論形成に向けて活動する者の事を指す。
影の支配者。黒幕。
ダークな印象がある。と、龍月は思っている。
「そうかな。有能なAgitatorは、多くの人を導いて大きな社会的事変を起こせる。誇るべき称号だよ。」
導く。か。言い様だな。と、龍月は心の中で苦笑した。
JOKERは、維薪はそれを策士。と呼んでるよね。と、楽しそうに笑った。
それも自分的には不本意だ。どうせなら参謀にして欲しい。
龍月は独りごちた。
まあ、呼び名。言われ方など、どうでもいいいか。
「そうだねぇ。龍月くんは、博愛に満ちた
Ace of Heart。が一番似合ってるよ。決して自分本位じゃないからぁ。」
テーブルに顔を伏せていたから、眠ってしまったのかと思った。
Clubの
Aceは手でハートマークを作って、最高の愛。と、満面の笑み。
やはり舌の回らない口調で言った。
「Agitatorも策士も優秀な証拠。そこに愛があればなおさら。期待してるよ。」
JOKERこそ、Agitatorの最たる人だ。と、龍月は思う。
「違いない。この中で全く引けをとらない。」
DiamondのAceは、JOKERに賛同して、ロックグラスを掲げた。
丸氷がカラリ。と、心地良い音を鳴らす。
現実と区別ができなくなる程だ。
ClubのAceは、うん、うん。と、大きくうなづいている。
Spadeの
Aceも口角を上げて顎を下げた。
このメンツに認められたかと思うと、さすがに悦ばしい。
「じゃ、Operation Start。」
JOKERの合図にSpadeのAceはシルクハットを目深にかぶりなおした。
DiamondのAceは
葉巻を横たえ、ClubのAceは再び顔を伏せた。
了解しました。と、龍月だけが言葉にした。
途端。
天井、壁がバラバラと砕け、床が抜け落ちた。
底が見えない、暗い深い井戸のような穴を落下していく。
そして、龍月は現実世界へ引き戻された。
もうちょっと穏やかに帰してくれないかなぁ。
龍月は軽く揶揄を込めて溜息を吐いて、VRゴーグルをはずす。
目の前の自室の机上には、すっかり冷めた飲みかけの珈琲。
窓の外。
西へ向かう
満月を見つめながら、珈琲を飲み干す。
龍月の脳内。
膨大な量の情報が高速で取捨選択され、正解ルートへとベクトルが向いていた。
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