ルール
♠KとJの道理
♠
15
「
龍月。来とったん。」
事務所から出た龍月を呼び止めたのは、
空月の姉で同じ年の
海空だった。
「
梢依さんからケーキもろたやんかぁ、食べていかへん?」
父、
海昊譲りの両エクボをへこませて、笑った。
海空は、大量のカットケーキが乗るお盆を持っていた。
しかも、2つだ。
組員たちに持っていくつもりだろう。
もう一つの盆は、おそらく“あおぞら園”用だ。
あおぞら園は、ここから数メートル程離れたところにある。
飛龍組の管理下にある児童養護施設だ。
様々な事情で行き場のない子供たちを支援している。
闥士が
都華咲たちのために管理しているマンションもある種同様だ。
あおぞら園は、龍月にとってもなじみの場所だった。
両親が医者、心理士、として創設当時から携わっているので、龍月も幼いころから出入りしていたのだ。
あおぞら園の子供たちも龍月を慕ってくれている。
「お。相変わらず美味しそうだね。あっち、もってくなら俺、行くよ。」
龍月は、お盆の上の多種多様なカットケーキを覗いて、あおぞら園の方向を指差した。
知り合いのパティシエ―――梢依。からの試作品のケーキ。
梢依は、鎌倉市極楽寺駅前のオーガニックレストラン“Umi-海-”。の腕利きのパティシエだ。
試作を作っては海空に食べてもらっている。
海空は、超甘党。
この細い体のどこに入るのかというくらい、底なしだった。
そんな海空は、龍月の言葉に一瞬、逡巡した。
「……そっちは、うちが。龍月は、広間の方、お願いしてええ?」
「……。」
広間―――つまり、飛龍組組員へ。ということだが。
龍月は、海空のその尻込みした態度の意味を悟って、軽く頭を叩いてやる。
大丈夫。と。
「もっと自分が苦しくなるから。いつもの明るく元気な海空でいっておいで。」
じゃ、俺は、あおぞら園に持ってくから。
と、龍月は、半ば強引にお盆を一つもらい受けた。
海空は唇を尖らせて、かなわんなぁ、龍月には。と、ぼやいた。
海空は、父親譲りの温厚さと明るく元気なのが長所だ。
たまに天然を発揮するが、普段は竹を割ったような性格をしている。
だが、今年の夏ころから尾を引くある諸事情が、その性格に影を落としていた。
「みぃちゃん。私も一緒に行くよ。」
母屋の方から声がした。
妹の
紫月も来ていたようだ。
兄貴は、全然女心わかってない。と、体幹の良さがわかる歩き方でこちらまでくる。
高く結ったストレートの長い黒髪が大きく揺れていた。
ちょっとご立腹のようだ。
「相変わらず手厳しい。じゃ、頼んだ。」
そんな妹の優しさを茶化して、二人を広間に促した。
紫月は、龍月を斜め上に睨む。
中2女子にしては高い、165程の身長。
しゅっ、とした輪郭に一重で鋭い目つきは父親譲りだ。
3つも下なのだが、かわいらしくお兄ちゃん。と、呼んでくれたのはいつまでだったか。いつの間にか、兄貴。と呼ぶようになった。
反抗期か。兄を蔑ろにする妹なのだ。
そして、龍月同様、ここで武道を磨き、絶対兄を超えてやる。と、気概十分で挑んでくる。そういうところ、
維薪に似ている。と、龍月は思っていた。
維薪、空月、
天羽。そして、海空と紫月。
6人は、幼いころから飛龍家の道場で切磋琢磨してきた仲だ。
空手、柔道、剣道。色々な格闘技術を磨かせてもらっている。
維薪はひたすらトップを目指し、猪突猛進。
会う度に龍月に挑んでくる。
紫月も負けじと向上心が高い。
特に剣術は、海空や空月より秀でている。
よもすれば、維薪と同格か。
兄としては、少々口が悪く、男勝りなのが心配ではあるが、正義感が強く、責任感もある立派な妹だ。と、龍月は、観ていた。
そんな先陣を切って広間へと長い脚を運ぶ妹を、龍月は頼もしく見送り、自身は、あおぞら園へと向かった。
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