ルール
            KとJの道理


                16


 「お。斗威とうい。」

あおぞら園で、黒我くろが 斗威の背中を発見。声を掛けたら睨まれた。
こっちも紫月しづきと同様、反抗期のようだ。先輩を蔑ろにする後輩。

斗威は、龍月たつきの通う、私立K学園の中等部3年。部活も同じ、総合格闘技部だ。
まぁ、出会いが。かな。と、自嘲して龍月はその背に、ケーキ持ってきたから食べにおいで。と、声を張った。
反抗期っ子には、必要以上に構わない。鉄則。

龍月が施設内の食堂に入ると、従順っ子・・・・たちが群がってきた。
ケーキ、ケーキ。と、大合唱する子ら。今日の出来事や自分の気持ち、思いを一斉に話しかけてくる子ら。
龍月は、可能な限り全員に応える。

ここにいる子供たちは皆、様々な理由があって淋しさを抱えている。

斗威もそうだ。
斗威は学校で荒れていた。表立ってはいないが、裏では陰湿なイジメを行い、自身のフラストレーションのはけ口としていたのだ。
龍月は斗威にイジメられていた善住 真央人よしずみ まおとを先に総合格闘技部に入部させ、真央人をイジメに来た斗威と条件付きで闘った。
条件は、龍月に負けたら総合格闘技部に強制入部。
というわけで、斗威は入部させられた。
今年の春のことだ。

しかし、今では真央人とも和解し、練習に励んでいる。
斗威のフラストレーションの原因は、父親の虐待にあった。
斗威の父親は、横浜中華街の一角でアンダーグラウンドと呼ばれる地下格闘技場を運営、賭博の場としていた。
そこで斗威を闘わせ、負けさせ、金を稼ぐという間接的虐待をしていたのだ。
今では父親と別離させ、あおぞら園で生活しているという訳なのだ。

当然、SDS事案だった。
丁度春の祝い稽古をサボったのも、この件でスマホが手放せなかったという理由があった。今回の鬼頭きとうと同様、斗威の父親への制裁。龍月は、制裁対象者の子供が斗威と知り、救いたいと提言した。

まぁ、実際救ったのは空月あつきの優しさだったろう。
空月は、意図も計算も全くなく、純然たる思いで斗威の心を解かした。
龍月の望んでいた最善。いや、それ以上だった。

入学式の日。
空月たちトリオが斗威にからまれるだろうことは想定内。
赤髪に、既定の制服を守らないだろう維薪いしんに、銀髪、オッド・アイの天羽てんう
目立たないはずのない二人。
そして、その二人に、同行するであろう空月。
予想通りに斗威は空月と接触。

空月の超ド級の温情により、決行日がゴールデンウィークに早まったが結果オーライ。
無事、斗威をあおぞら園に迎えることができた。
感謝してほしいわけじゃないが、少しは先輩として接してほしいなぁ。と、龍月は先の斗威の背中を思い出す。

 「チョコの。とっといて。」

思いが通じたのか、斗威が食堂に戻ってきて、ぼそりと言った
ものすごい勢いでなくなる、お盆上のケーキ。
寸でで死守。龍月が親指を立てて斗威に目配せすると、やはり睨まれた。
かわいい後輩だ。

 「龍月くん!」

ケーキの匂いをかぎつけてか、巳嵜 麟大郎みざき りんたろうと、姉の琳音りんねが来た。
二人とも今年あおぞら園に保護された。いや、正しくは、した。
これもSDS事案だった。

一番上の兄、あきらによる“天下統一構想”。
麒は、六本木の半グレ集団、関東壱角會かんとういちかくかいを従え、TeddyテディB×Bビービーのトップ、滄 氷風あおい ひかぜらを巻き込んだ。通称、“六本木事件”。
そして、“世界多幸教せかいたこうきょう事件”、“令和維新れいわいしん”にまでその影響は及んだ。

結果トリオの大活躍―――特に維薪。で、龍月の望む最善。いや、やはりそれ以上。の成果となったのだ。

“Aのお茶会”でDiamondダイアモンドAceエースは、龍月を“Agitatorアジテーター”と呼んだが、龍月は、やはり参謀、または、“スーパーサブ”でありたい。と、思った。
参謀とはトップを頭脳で支える最高のフォロワー。
スーパーサブは、スポーツで良く使われる言葉だが、試合の流れに応じて戦略的に投入される優れた能力を持った選手を意味する。

どちらも全体的な視点、情報収集、分析、判断力などが必要だ。
無敵の調整力は、戦況を容易に変える。

龍月は、食堂でおいしそうにケーキを頬張る子供たちを見回した。
全て。とはいかないだろうが、可能な限り。
この子たちに、世の中は、そんなに悪くないよ。と、言えるように。
だから、鍛錬する。いつかの為に。
龍月は、改めて自身を鼓舞した。



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