ルール
♠KとJの道理
♠
17
「……ヒマ、なんですか。」
自宅に戻る途中。
熱帯びた視線と、
隠す気のないわざとらしいオーラ。
奏海くん。と、
龍月も負けじと言葉にした。
R134の向かい側。海からの風が笑ったように感じた。
「冷たいなぁ。」
姿を現わした奏海―――
神威 奏海。であり、
王虎昊であり、
JOKER。
その男はやはり、チェシャ猫のように笑っていた。
アーモンド形の鳶色の瞳に、茶髪。大き目の猫口。
当人に言わせれば、名前なんてただの呼び方。
この男には、無数にある。国籍も、また。
由比ヶ浜海岸へと降りる防波堤に腰かける姿。
今は、誰の目にも留まらない日本人。と、化していた。
「
Agitatorが不満なら、うーん。」
独り言をいうようにして、こちら側に渡ってきた。
「
Actor。呼び名は
Aceのがかっこいいよね。」
子供のように無邪気。
愛嬌たっぷりに言って、龍月の後ろをついてくる。
「
AI。のAで、どうだろ。」
龍月は、斜め右後ろの奏海に視線をやりつつ、帰路へ向かう脚を止めない。
不満。かな。
急に真後ろから聞こえたその声音に、思わず脚を止め、振り向かされた。
奏海―――否、JOKER。は、見透かすような瞳で龍月を見ていた。
「……。」
鬼頭の処遇のことを言っているのだ。
先の
薪、そして
闥士の言葉が脳裏にチラついた。
JOKERと目を合わせる。
「……ええ。でも、
今は、まだ。」
想定外だったか。
いや、それすら範疇か。
JOKERは、どこか誇らしげに笑って、おおっ、恐っ!と、おどけて見せた。
龍月も一笑に付し、口角を上げる。
「薪さんに見つかる前に退散してきたんですか。」
―――目に余るようなら俺が容赦しねぇ、って言っとけ。
薪は、
海昊に言っていた。当然JOKER―――王虎昊には、想定内だろう。
だから会わずに逃げてきた。と、龍月は踏んだのだ。
王虎昊は、ご名答。と、笑った。
「あ、あと、
海空ですかね。」
「ん?」
これは、想定内ではないだろう。
おそらく、本人に自覚―――悪意すらないはずだから。
龍月の言葉の真意を読み取るように、王虎昊―――奏海は、じっ、と見つめてくる。
龍月は、再び背を向けて歩き出した。
「ああ。」
と、思い出したように奏海は、声に出すも、それは、僕じゃないでしょう。と、口にした。
「その“不満”は、
扇帝くんに向けてよ。ねぇ、龍月。」
龍月は軽く溜息をついて、そうですね。と、返答。
由比ヶ浜駅についたので、では。と、一礼した。
奏海は、ばいばーい。と、やはりチェシャ猫のように笑って手を振っていた。
交通IC系のカードリーダーにスマホをかざそうとして、ポケットに手をいれた瞬間。
龍月は違和感と共に、奏海が現れた意図に気が付いた。振り返る。
しかし、奏海―――否、JOKER。の姿は既に何処にもなく、海風だけが、龍月の前髪を揺らした。
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あとがき
こんにちは、湘です。
Agitator、一作目。読んでいただきありがとうございました!!
Over The Topで出てきたTeddyの過去。
ずっと書きたかったので、こういう形での実現でしたが、楽しく書けました!
雅楽の事件や東華の創設メンバーの話は詳しくかけなかったので、またの機会に(笑)
龍月は、父親の紊駕より母親の紫南帆の性格を濃く受け継いでいる感じのイメージです。
どっちかっていうと、維薪も言ってたけど(笑)紫月のが紊駕に似てる。かな。
陰で暗躍?する感じは紊駕似かもだけど(笑)。
SDSの諜報機関“Aのお茶会”のメンバー.。にして、ちょっと反抗心を抱いてる風だったり、チャラい感じだけど、自身の信念をもって邁進している様子だったり。
龍月の色々な面を今後の数話で描けたらと思います。
なぜメンバーになったのか、他のメンバーの事などの話も。
乞うご期待!!
世の中は、ようやくコロナに対する意識も変わってきて、少し、日常が戻ってきた。という感じがします。今年はC様にもK様にもたくさん会えるかな♪
楽しみにしつつ……。
ではでは次回作で!!
2023.5.21 湘