ルール
♠KとJの道理
♠
6
弱い奴は、すぐに武器に頼ろうとする。
本当のケンカも知らない、バカ共。
簡単に人を傷つけ、殺す。
本当は、そんな奴らを僕は、殺したいと思ってる。
死んで当然。殺されて当たり前。
りぃくんを刺した奴も、絶対に許さない。
死ねばいい。殺す。殺せ。
頭の中。声は大きくなっていく。
支配される。暴力が溢れだす。
あの日の様に。
―――
都華咲、そこまでだ。
たっくんの声。僕は、周りを見回した。
病院の待合室。
東華の皆が何か言っていて、ハチとタマが制している。
ニャンタとモンちゃんは、スマホで誰かと話していた。
僕は、窓の外を見た。
銀杏が綺麗だ。大丈夫、
雅楽。
僕が、僕でなくなりそうな時。
いつも、頭の中のたっくんが声をかけてくれる。
あの日の様に。
―――死んでいい命は、ないよ。誰でもやりなおせる。
だから、気づかせてあげよう。
たっくんは、優しく僕を抱きしめてくれた。
―――どうしようもないバカ共は、存在する。それでも。
それだから、そんな奴のために、都華咲が犠牲になるのは、俺が許さない。
だから。
僕は理性を失わずに、済む。
「
Teddy!!」
現場にいなかったケンケンが息せき切ってこっちに来た。
大丈夫。僕はケンケンに言った。
りぃくんが死ぬはずない。
ニャンタが通話を終えて、ケンケンに事情を説明する。
昼過ぎだった。センター街でゴミ掃除。
日曜の今日も七五三のお祝いで、着物の女の子たちがたくさん歩いていた。
ビルとビルの間を特に注視していた。
りぃくんは、きっと僕を見ていてくれたんだ。
僕に向かうナイフを、身体で制してくれた。
僕は、倒れこむりぃくんを抱き、ニャンタとハチが犯人の男を捕らえた。
救急車と警察をモンちゃんが呼んでくれた。
男は、僕に言った。
ノルマを達成できないと、殺される。と。
東京港心會の男だった。
「Teddyのせいじゃない。俺や皆だって気が付いたら必ずそうする。」
ケンケンは、僕の盾になる。と、言ってくれた。
ニャンタもうなづいた。僕が無事でよかった。と。
それから数十分。
りぃくんの処置が終わった。と、医者が言って、病室に入ってもいいと言われた。
僕が先陣を切った。
りぃくんは、眠っていた。
頬に触れる。温かい。生きている。
ありがとう。僕は、呟いてりぃくんに頬を寄せた。
皆が、僕を大事に想ってくれるから、僕も皆を守りたいと想う。
自身を大切にしようと、想えるんだ。
病室の扉が開いた。りぃくんの母ちゃんだ。
「……ごめん、りぃくんの母ちゃん。りぃくん、僕の代わりに……」
りぃくんの母ちゃんは、最後まで言わせてくれなかった。
僕を抱きしめて、都華咲が無事でよかった。と、ケンケンと同じ事を言ってくれた。
りぃくんの母ちゃんも、僕を本当の息子のように想ってくれる。
りぃくんの父ちゃん同様。
そして、りぃくんの妹、
希映。
雅楽の2つ上で、雅楽に対して本当の姉ちゃんのように接してくれた。
僕のもう一人の妹的存在。
「皆、無事で良かった。」
希映は涙ぐんでそういって、りぃくんに触れた。
僕が謝ると、希映は首を横に振った。
雅楽と買ったクマのストラップを握りしめていた。
―――力は、守るために使おう。だから、次会うときまでに、強くなっていよう。
りぃくんの声が頭の中で響いた。
雅楽が死んで、りぃくんも外国へ引っ越すといった時、約束した。
皆を守るために、僕は強くなったんだ。
だから、東華を立ち上げた。
帰国したりぃくんと、ずっと僕の傍にいてくれたニャンタたちと。
僕に賛同してくれる、東華の皆と。これからも、東京を守るために。
「りぃくんをヤった奴を。東京で悪事を働く奴らを、僕たちは、許さない。東京港心會、
殺るよ。」
おぉぉぉっ!!と皆の雄叫び。
モンちゃんがあわてて人差し指を口にもっていく。
皆が一斉に口に手を当てた。思わず笑いがこぼれる。
「……待て、Teddy。」
ベッドから声がした。りぃくんが目を覚ました。
皆が再び、今度は歓声を上げて、モンちゃんが静かにしろよ!と、声を出して制す。
僕は、りぃくんを抱き起こした。
腹を抑えながら、半分身体をおこしたりぃくんは、皆に謝った。
心配かけた。と。
僕は、りぃくんに礼を言う。りぃくんは一笑に付す。
「東京港心會を
殺ることに異論はない。でも、策が必要だ。」
りぃくんは、言った。
ニャンタの調べでは、東京港心會は、大阪の
大阪港心會と兄弟分にあるらしい。
こちらはバリバリのヤクザモンのようだ。
ケンケンいわく、東京港心會は、大阪港心會を腹のうちでは
殺りたいと思ってる。
しかし、現状劣勢。
上部組織、東京
港トレーディングカンパニーという会社から資金と情報を集め、大阪港心會潰しに躍起になっているらしい。
つまり、三つ巴になり得る。と、りぃくん。
「ここ数日の事件だけでもかなりの児童が行方不明です。」
「俺らが見回っただけでも、未遂もかなりだ。」
タマとハチ。
つまり、誘拐され、今怖い思いをしている子供たちがたくさんいる。
おそらくどっかに売る為だ。雅楽のように。
りぃくんは、僕を見た。
「今から行く。ケンケン、東京港心會の
首領は、ダレ?」
「っ……まて、まて、Teddy。
Leeの話、聞いてなかったのかよ。」
ケンケンが両手を顔の前で振る。
誰。と、僕がもう一度訊くと、渋々答えた。
東京港心會の
首領、
馬越 勇心。
ふぅ。と、りぃくんが溜息をついた。
「Teddyに策なんか無意味だってわかってる。自由にやれ。」
りぃくんは、ニヒルに笑った。
「悪いが俺は動けない。なゆたくん、頼みます。」
「了解。じゃ、Teddyを正面から突っ込ませ、その隙に俺とタマで子供たちを救う。
源剱、根城は調査済みだろ。」
もちろんだ。と、ケンケン。
「えっ……Teddyくん囮に使うんですか。」
杜松が口をあんぐり開けて呟いた。
「何だよ、文句あんのか。最強の囮だろ。」
りぃくんが凄んだ。僕は、思わず吹き出して笑う。
元
関壱會の
道理は、知らないし知る必要もない。
東華は東華。僕とりぃくんが
道理だ。
「僕は、東京港心會の
首領を
殺るだけだ。東華の
道理に反したからね。」
うっス。と、ハチが拳を叩いた。
ケンケンが東京港心會のメンバーを、ニャンタが大阪港心會の主要メンバーを。
各々顔写真付きで皆にリマインドさせる。
「Teddy……」
りぃくんが、僕の腕を取った。少しの沈黙。
「敵討ち。とか考えるな。」
誰の。りぃくんは、主語をはっきり言わなかった。
ただ、その手に力を込めた。
「
道理違反に制裁を!」
おぉぉぉっ!!!
りぃくんの言葉に皆が3度目の大声を上げた。
いつの間にか場を離れていたモンちゃんが、病室の扉を開いて入ってきた。
だから、うるせぇって!と。
「じゃ、そういうことで。楽しもうよ!!」
僕が言うと、時間かけてくれよ。囮なんだから。と、ニャンタがぼやく。
無理だろ。と、ケンケン。無理っスね。と、ハチ。
タマは、瞬殺ですよ。と、得意気に口にした。
杜松と元関壱會のメンバーだけが驚いた顔つきをして、お互いを見合っていた。
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