ルール
            KとJの道理


                8


人数少ねぇな。と、ハチがぼやいた。
港区、日の出埠頭。平屋の倉庫が並んでいる。
土曜の夜だが、人気はなかった。僕たち東華とうかのメンバー以外。
左手奥には水上バスやレストランシップなどの乗り場があるが、ここからは見えない。
煌々とする明かりが見えるだけだ。

 「それは、仕方ないですよ。今日の今日。埼玉や千葉のメンツは特に難しい。でも。」

それは、敵も一緒です。と、タマが指さす倉庫群。
一つだけ薄暗い明かりが灯っていた。
あそこに、東京港心會とうきょうこうしんかい首領ボス馬越まこしがいる。
ま、そうだな。敵の応援が来る前にっちまおう。と、ハチ。

僕は、明かりの方へ歩き出した。
僕とケンケンとハチは倉庫正面入口。ニャンタとタマは裏へ。
仲間を二手に分けた。
殆どは僕の後ろに控える。ケンケンとハチが左右。
同時に扉を開いた。

 「はぁ?んだ、これ!」

ハチがバカでかい声で叫んだ。後ろの仲間たちがざわめく。
倉庫の中。500は軽くいるか。ご丁寧に敵がお出迎えしてくれた。
誰がリークしやがった。ハチが仲間を見回し、皆がさらに騒ぐ。

 「Teddyテディ。中央の奴、大阪港心會おおさかこうしんかいナンバー2の河豚ふくべだ。」

ケンケンが言った。
どうやら関西も揃い踏みのようだ。
お前だろ!と、後ろから声がした。田子たご杜松ねずを指さして叫んだのだ。
情報を漏らした犯人。杜松は否定した。

 「何やぁ、仲間割れかいなぁ。格好良う登場した割に笑わしょんのう。」

中央の男、河豚が笑い、周りも嘲笑した。
僕は、一歩前へ出た。馬越はどこだ。と、問う。
知らんがな。と、河豚は両手を天井に向け、また笑った。

 「ワレ、わこうとるんか。袋のネズミやでぇ。せになぁ、東京より大阪が上や。ワイらのトップ、牛岩うしいわさんがなぁ。」

 「じゃ、そいつ出せ。」

アホか。河豚は言った。トップが易々と出てくるわけない。と。
オーラが弱すぎた。構える必要すらない。無意味。

 「お前じゃ相手にならない。牛岩って奴を、呼べ。」

それでも河豚は、首を縦には振らなかった。
僕は軽く溜息。仕方ない。

 「つっ……?!!」

ノーモーションで間合いを詰めた。180はあるデブ。関係ない。
上段回し蹴り、一発。河豚がコンクリの床に沈んだ。
大阪港心會の奴らがざわついた。

 「僕が、東京華雅會とうきょうはなみやびかいのTeddyだ。覚悟のない奴は、消えろ。」

おぉっっ!!と、東華の雄叫び。
一瞬遅れて大阪港心會の奴らがこっちに向かってきた。
その瞬間、風が吹いた。

 「どけ。Teddyのジャマだ。」

ケンケンが一太刀。木刀を振るい、何十人もの敵を僕から遠ざけた。
道をあけろ。と、ハチがケンケンの逆側で敵をなぎ倒す。
おかげで奥までの道が開いた。僕は進む。
後ろでは乱闘が始まった。

 「へぇ、トップがいの一番に出張るやなんてぇ、アホちゃうんか、東華は。」

倉庫のずっと奥。天井近くまで積み上がっているコンテナや木箱。荷物。
その上に、しゃがんでこちらを見下ろす人物がいた。
倉庫の薄暗い明かり。逆光のせいで顔は見えないが、野太い男の声だった。
僕は、お前が首領ボスか。と、声を張る。
その人物が、だったら何や。と、笑う。

 「東華の道理ルールに反したお前を、東京で悪事を働くお前らを。僕たちは、許さない。降りてこい。覚悟はできてんだろうな。」

その男は、ゆっくりと立ち上がった。顔を天井に向ける。紫煙を吐く。

 「何寝ぼけとんねん。この人数見てみぃ。どうみてもワレぁ劣勢やでぇ。しかも、裏切りモンがいてんねやろ。」

うししっ。と、キモイ笑いをした。
コンテナの陰から次々と敵が現れた。
裏切りモン―――ここへ来ると決めたとき。いや、東京港心會とぶつかる。と、皆に宣言した3日前。そいつ・・・は、僕らを売った。でも。

 「それは、東華こっちの話だ。いくら束になっても、何百人いてもお前たちは、僕には勝てないよ。」

何やてぇ!!と、十数人。怒号を上げて僕に突っ込んできた。
強く短い息を吐く。
中央の男、右。そして左。僕までのキョリを目測。
考えなくとも身体が動く。腹ごなしに丁度いい。

まずは、前蹴り。
中央の男が倒れ、ドミノの倒しの様に後ろ3人を巻き添えにした。
右の奴の大振りパンチ。避けて、カウンターで顔面ワンパン。
おそらく鼻が潰れた。

左の奴のパンチは、僕に届く前に僕の右後ろ回し蹴りに側頭部をられ、コンクリの床に沈んだ。
そのまま脚の回転と威力を弱めずに、3人。
その反動で左脚回転回し蹴りで、3人。
残りはビビって向かってこなかった。

 「降りてこい。」

 「ちっ……バケもんやなぁ。」

僕は、来ないなら行く。と、言い放ち、積荷を登った。一段、二段。
だんだん敵首領ボスの顔が見えてきた。
羊の毛皮のような分厚いコート。着膨れして見える。
細い輪郭。不健康そうな顔。20代後半。

負ける気が全くしない。
牛岩といったか。“羊石”の間違いだろ。中身は絶対小さい。
僕に睨まれて、細い眉を動かした。そして、指をならす。

積み上げられたコンテナの脇や後ろから男たちが、何かを投げてきた。
積荷の中身か?大小様々な箱のようなものや缶詰。

 「ケンケン、ハチ!!皆、上!気を付けて!!」

僕の声に皆が天井を仰いだ。“牛の威を借る羊”。は、やってまえ。と、ほくそ笑んだ。自分の仲間までるつもりだ。
僕は、床まで飛んだ。
下にいる男に、丁度缶詰のような物が直撃する寸前。蹴り飛ばす。
当たったら死ぬ大きさだ。

男は、僕を見て目を丸くした。
僕は、おい。と、積荷のてっぺん踏ん反り返る牛岩を指さす。
何処までも僕の道理ルールに反する男だ。

 「仲間まで巻き添えにして、何が首領ボスだ!!」

 「はぁ?アホくさ。仲間やて?手下や手下。使い捨てのなぁ。」

お友達ごっこやないんやで。と、吐き捨てた。
ハチがちっ。と、舌打ち。ケンケンも睨みつける。
僕は、今一度積荷を登り、戦況を見渡した。
ケンケンとハチは当然。田子と田子の仲間、杜松と元関壱會かんいちかいのメンバーは優勢に戦いを進めているが、他の仲間はやや意気消沈。または、倒れていた。

 「ねぇ、東華!!お前たちの力は、こんなモンじゃないだろ!!」

僕の声に東華の仲間たちが、顔を上げる。
たかが500。裏切り者。ふざけるな。東華は、負けない。

 「東京守るのは、関東を守るのは、東京華雅會の使命だ!!」

そうだろ!!僕の問いかけに皆が、おぉぉっ!!と、息を吹き返す。
再び乱闘が始まった。

 「おぉぉっっ!!かっけぇなぁ!!」

痺れるぅ!と、後方から甲高く、バカでかい声が聞こえた。
僕たちが入ってきた正面入り口。
中央の人垣が左右に開き、声の主がこっちに来た。
舌打ちした後、遅いやんか。と、牛岩。
ケンケンが、馬越だ。と、口にする。

ようやく、お目見えか。
東京港心會首領、馬越。がこちらに来た。
肩までつく、ウェーブの長い髪。僕とかぶるピンク色。ハットを乗せている。
その脇とうしろには、ゾロゾロと強面の男たちを連れていた。



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