ルール
♠KとJの道理
♠
8
人数少ねぇな。と、ハチがぼやいた。
港区、日の出埠頭。平屋の倉庫が並んでいる。
土曜の夜だが、人気はなかった。僕たち
東華のメンバー以外。
左手奥には水上バスやレストランシップなどの乗り場があるが、ここからは見えない。
煌々とする明かりが見えるだけだ。
「それは、仕方ないですよ。今日の今日。埼玉や千葉のメンツは特に難しい。でも。」
それは、敵も一緒です。と、タマが指さす倉庫群。
一つだけ薄暗い明かりが灯っていた。
あそこに、
東京港心會の
首領、
馬越がいる。
ま、そうだな。敵の応援が来る前に
殺っちまおう。と、ハチ。
僕は、明かりの方へ歩き出した。
僕とケンケンとハチは倉庫正面入口。ニャンタとタマは裏へ。
仲間を二手に分けた。
殆どは僕の後ろに控える。ケンケンとハチが左右。
同時に扉を開いた。
「はぁ?んだ、これ!」
ハチがバカでかい声で叫んだ。後ろの仲間たちがざわめく。
倉庫の中。500は軽くいるか。ご丁寧に敵がお出迎えしてくれた。
誰がリークしやがった。ハチが仲間を見回し、皆がさらに騒ぐ。
「
Teddy。中央の奴、
大阪港心會ナンバー2の
河豚だ。」
ケンケンが言った。
どうやら関西も揃い踏みのようだ。
お前だろ!と、後ろから声がした。
田子が
杜松を指さして叫んだのだ。
情報を漏らした犯人。杜松は否定した。
「何やぁ、仲間割れかいなぁ。格好良う登場した割に笑わしょんのう。」
中央の男、河豚が笑い、周りも嘲笑した。
僕は、一歩前へ出た。馬越はどこだ。と、問う。
知らんがな。と、河豚は両手を天井に向け、また笑った。
「ワレ、わこうとるんか。袋のネズミやでぇ。せになぁ、東京より大阪が上や。ワイらのトップ、
牛岩さんがなぁ。」
「じゃ、そいつ出せ。」
アホか。河豚は言った。トップが易々と出てくるわけない。と。
オーラが弱すぎた。構える必要すらない。無意味。
「お前じゃ相手にならない。牛岩って奴を、呼べ。」
それでも河豚は、首を縦には振らなかった。
僕は軽く溜息。仕方ない。
「つっ……?!!」
ノーモーションで間合いを詰めた。180はあるデブ。関係ない。
上段回し蹴り、一発。河豚がコンクリの床に沈んだ。
大阪港心會の奴らがざわついた。
「僕が、
東京華雅會のTeddyだ。覚悟のない奴は、消えろ。」
おぉっっ!!と、東華の雄叫び。
一瞬遅れて大阪港心會の奴らがこっちに向かってきた。
その瞬間、風が吹いた。
「どけ。Teddyのジャマだ。」
ケンケンが一太刀。木刀を振るい、何十人もの敵を僕から遠ざけた。
道をあけろ。と、ハチがケンケンの逆側で敵をなぎ倒す。
おかげで奥までの道が開いた。僕は進む。
後ろでは乱闘が始まった。
「へぇ、トップがいの一番に出張るやなんてぇ、アホちゃうんか、東華は。」
倉庫のずっと奥。天井近くまで積み上がっているコンテナや木箱。荷物。
その上に、しゃがんでこちらを見下ろす人物がいた。
倉庫の薄暗い明かり。逆光のせいで顔は見えないが、野太い男の声だった。
僕は、お前が
首領か。と、声を張る。
その人物が、だったら何や。と、笑う。
「東華の
道理に反したお前を、東京で悪事を働くお前らを。僕たちは、許さない。降りてこい。覚悟はできてんだろうな。」
その男は、ゆっくりと立ち上がった。顔を天井に向ける。紫煙を吐く。
「何寝ぼけとんねん。この人数見てみぃ。どうみてもワレぁ劣勢やでぇ。しかも、裏切りモンがいてんねやろ。」
うししっ。と、キモイ笑いをした。
コンテナの陰から次々と敵が現れた。
裏切りモン―――ここへ来ると決めたとき。いや、東京港心會とぶつかる。と、皆に宣言した3日前。
そいつは、僕らを売った。でも。
「それは、
東華の話だ。いくら束になっても、何百人いてもお前たちは、僕には勝てないよ。」
何やてぇ!!と、十数人。怒号を上げて僕に突っ込んできた。
強く短い息を吐く。
中央の男、右。そして左。僕までのキョリを目測。
考えなくとも身体が動く。腹ごなしに丁度いい。
まずは、前蹴り。
中央の男が倒れ、ドミノの倒しの様に後ろ3人を巻き添えにした。
右の奴の大振りパンチ。避けて、カウンターで顔面ワンパン。
おそらく鼻が潰れた。
左の奴のパンチは、僕に届く前に僕の右後ろ回し蹴りに側頭部を
殺られ、コンクリの床に沈んだ。
そのまま脚の回転と威力を弱めずに、3人。
その反動で左脚回転回し蹴りで、3人。
残りはビビって向かってこなかった。
「降りてこい。」
「ちっ……バケもんやなぁ。」
僕は、来ないなら行く。と、言い放ち、積荷を登った。一段、二段。
だんだん敵
首領の顔が見えてきた。
羊の毛皮のような分厚いコート。着膨れして見える。
細い輪郭。不健康そうな顔。20代後半。
負ける気が全くしない。
牛岩といったか。“羊石”の間違いだろ。中身は絶対小さい。
僕に睨まれて、細い眉を動かした。そして、指をならす。
積み上げられたコンテナの脇や後ろから男たちが、何かを投げてきた。
積荷の中身か?大小様々な箱のようなものや缶詰。
「ケンケン、ハチ!!皆、上!気を付けて!!」
僕の声に皆が天井を仰いだ。“牛の威を借る羊”。は、やってまえ。と、ほくそ笑んだ。自分の仲間まで
殺るつもりだ。
僕は、床まで飛んだ。
下にいる男に、丁度缶詰のような物が直撃する寸前。蹴り飛ばす。
当たったら死ぬ大きさだ。
男は、僕を見て目を丸くした。
僕は、おい。と、積荷のてっぺん踏ん反り返る牛岩を指さす。
何処までも僕の
道理に反する男だ。
「仲間まで巻き添えにして、何が
首領だ!!」
「はぁ?アホくさ。仲間やて?手下や手下。使い捨てのなぁ。」
お友達ごっこやないんやで。と、吐き捨てた。
ハチがちっ。と、舌打ち。ケンケンも睨みつける。
僕は、今一度積荷を登り、戦況を見渡した。
ケンケンとハチは当然。田子と田子の仲間、杜松と元
関壱會のメンバーは優勢に戦いを進めているが、他の仲間はやや意気消沈。または、倒れていた。
「ねぇ、東華!!お前たちの力は、こんなモンじゃないだろ!!」
僕の声に東華の仲間たちが、顔を上げる。
たかが500。裏切り者。ふざけるな。東華は、負けない。
「東京守るのは、関東を守るのは、東京華雅會の使命だ!!」
そうだろ!!僕の問いかけに皆が、おぉぉっ!!と、息を吹き返す。
再び乱闘が始まった。
「おぉぉっっ!!かっけぇなぁ!!」
痺れるぅ!と、後方から甲高く、バカでかい声が聞こえた。
僕たちが入ってきた正面入り口。
中央の人垣が左右に開き、声の主がこっちに来た。
舌打ちした後、遅いやんか。と、牛岩。
ケンケンが、馬越だ。と、口にする。
ようやく、お目見えか。
東京港心會首領、馬越。がこちらに来た。
肩までつく、ウェーブの長い髪。僕とかぶるピンク色。ハットを乗せている。
その脇とうしろには、ゾロゾロと強面の男たちを連れていた。
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