ルール
♠KとJの道理
♠
9
見えない規制線は、無駄なくスピーディに行われていた。
この周辺は、一般人は来ることのできないように。
いつもながら完璧だ。
龍月は、日の出埠頭の、
今は唯一の入口。で立っている。
着信。どうやら到着。
「クソ龍月。何だよ、このLINEは。」
予想通り、第一声は悪態だった。
いっちゃん。と、抑制する声。
空月だ。
維薪、空月。そして、
天羽。龍月自慢のトリオ。
申し訳ないなと、思いつつ、頼もしく感じ、礼を言う。
「キモイ。」
「ひどっ……だって維薪、素直に言ったら察してくれるでしょう。」
緊急性。と、指を挙げると、鼻で笑われた。
維薪を呼び出すLINE。ストレートに
東華を助けて欲しい。と、送った。
普段はどちらかというと茶化す言動が多い龍月だ。
頭の良い維薪なら理解してくれると思っていた。それに。
維薪は、優しい男だ。
友達を助けるのは当然でしょ。と、根っからの善人、空月。
都華咲くんには借りがあるでしょ。と、天羽が抑揚のない声で言って、維薪を見た。
「
俺の借りじゃねーし。つーか、お前の
ツケがたまるだけだから別にいーけどな。」
それは、困ったなあ。と、龍月は頭をかきながら維薪の優しさに感謝する。
実戦できるから、楽しめると思うよ。と、いつもの様に茶化して、一つだけ明かりの灯る倉庫を指す。
一足先に倉庫に向かう
紋冬たち元
Crazy Kidsの面々の背中を見て、維薪は、赤い髪をかきあげ、長い脚を運んだ。
任せた。と、言うと、キモイ。と、また言われた。
「子供たちも倉庫の中なの、たっちゃん。」
空月が眉をひそめて訊いた。
状況は維薪のLINEを通して伝わっているようだ。
天羽も龍月についてきた。言わずとも役割を分担できるトリオの資質。
やはり、目を見張る。
都華咲の父親―――
鬼頭。は、まだこっちには向かっていなかった。事前に仕込んだ
盗聴器が示している。
東華の戦況は、紋冬たちと維薪の加勢でかなり、いや、確実に優勢だ。
しかも。と、龍月は手の中の鍵を見つめた。
「俺たちは、倉庫の裏口から。なゆたくんと、タマたち東華の数人が子供たちを救出しようとしてる。」
情報によると、倉庫内には十数人の子供たちがいる。
今夜、船に乗せて各地へ運ぶ手筈だ。間に合ってよかった。
鬼頭が来る前に子供たちを助ける。
龍月の最優先事項。3人は、足早に港側へ向かった。
倉庫の番人は、なゆたたちが伸したのだろう。扉の前で気を失っていたので、柱に拘束しておいた。
裏口から入ってすぐの空間のコンテナに子供たちは監禁されていたようだ。
おそらくタマがコンテナの鍵を開けて、丁度子供たちをコンテナの外に出した所だった。
「……龍月。」
なゆたが龍月をみとめた。
裏では怒号が響いている。龍月は無言でうなづいた。
開いた。と思わず声が漏れた。
子供たちは手錠をはめたれていた。が、龍月の持っていた鍵で解錠できたのだ。
これは、
Teddyのカリスマ性の勝ちだな。と、独りごちる。
「助かるよ。……東京
港トレーディングの奴らだ。見つからない内に早く。」
コンテナの陰から奥をみるなゆた。
数人の敵。奥の扉は開いていた。
都華咲たちの姿は見えない。怒号は遠い。
外から見た建物の大きさ。
察するに3つの空間が連なっているのだろう。
左右には天井付近に窓。出入口はここと、維薪たちが向かった正面のみか。
「援護するよ、龍月くん。」
天羽が龍月の思考を読んで背中から真剣を抜いた。
よく捕まらないな。と、言いたいところをこらえて、よろしく。と、口にする。
間が気になったのだろう。
何?と、言いた気な、眼鏡の奥の青と茶のオッド・アイ。銀髪からのぞいた。
「じゃ、僕は子供たちを外へ。おまわりさん。来てるんでしょ。」
と、こちらも察し良く空月。なゆたとタマに目配せする。
龍月は、頼む。と、言って最後の子供の手錠を外した。
よく頑張ったね。と、頭を撫でてやる。
「このお兄さんたちについていけば、お母さんにすぐ会えるからね。」
もう少し頑張ろう。と、子供たちに笑いかけると、皆かわいい笑顔でうなづいてくれた。
七五三の着物を着た女の子。見ると、下駄が片方ない。
空月は背中に乗るように促した。
他の子供たちも皆、なゆた、タマ、東華のメンバーと手をつなぎ、脱出準備完了。
龍月は、その背を見送って天羽と共に倉庫奥へ向かった。
「最近の貿易会社って、
人間も輸出するんですか。」
皮肉を込めて龍月は吐いた。
敵―――大人たち。東京港トレーディングカンパニー。がこちらに気が付く。
時、既に遅し。
天羽の疾風の如き刃が襲う。次々とうめき声を上げて男たちが倒れた。
一番偉そうな態度の男を、龍月は睨みつけた。
「鬼頭
千狩を呼んでもらえますか。」
てめっ、何者だ!と、お決まり文句のように吐く男の襟を取って、投げた。
そのままひっくり返し、両腕を捻り上げる。叫び声。
って言っても素直に首は縦には振らないよね。と、龍月は言って、男の胸ポケットからスマホを抜く。
両腕を片手で掴んだまま、もう一方の手でスマホを操作。
男の顔を認証させて、連絡先を開く。スクロール。
見つけた。ボス。
わかりやすっ。と、口にする。発信。
何してるっ……天羽にやられた男たちが呻くのを、天羽は龍月の下にいる男の喉元に真剣を突きつけることで牽制した。
見事なまでに堂に入っている。
維薪に劣らず高身長。剣術のみならず、肉弾戦もお手の物。
敵に回したら、怖いなぁ。と、本気で思った。
「……ボス。すみません、何か変なガ……」
電話が繋がった。最後まで言わせずにスマホを取り上げる。
「鬼頭さんですか。」
誰だ。という質問を無視して龍月は続けた。
「貴方の大事な
商品と……まぁ、捨て駒でしょうが、いないよりはマシな男たち。守りにきたらどうですか。お待ちしていますよ。」
通話を一方的に切った。
さて、都華咲。ケジメをつけよう。
龍月は、奥を見据えた。
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