♦JとKの約束
♣
18
「ダメだ、
平ちゃん!」
龍月は、今一度空を睨んだ。
JOKERの煽り。
白を黒とせんとする、挑発。
―――さて、
オセロの盤は、何色になる。かな。
フザケルナ。思わず声に出しそうになった。インカムからのおちょくるような面白がるJOKERの言葉。
そもそも想定していたのなら、CIAを囮にするなんて。まさか、わざとか。
JOKERは、CIAは、殺されてもいいと思ってる。
日向さんが、
桔平が、殺しても構わないと思っているのか。
させない。と、龍月は、桔平の前へ歩みを進める。ゆっくりと。
「大丈夫、平ちゃん。大丈夫だから、ね。」
龍月は、桔平に手を差し伸べた。
銃を握る桔平の右手は、震えていた。自身の手を見つめる桔平の瞳からは、涙が溢れている。
龍月は、後悔した。
「ごめん、平ちゃん。……深呼吸、ゆっくり、息を吸ってごらん。」
すぐに退避させるべきだったのだ。日向さんを捕らえるため、改心させるため、桔平を傷つけた。判断を誤った。
桔平は、荒々しく息をしていた。
龍月の声が聞こえているか否か。あやうい状況だった。
「簡単だよ、桔平。相手に向けて、引き金を引く。」
それだけだ。JOKERは、さらに煽ってきた。
「JOKER!!Stow it!!」
龍月は、思わず叫んだ。
こわっ。と、
日本語の返答。ムシした。
ゆっくりと息を吸って。と、龍月は、桔平に声をかけ続けた。俺を、見て。と、手の届く位置まで近づく。あと、三歩。二歩……。
「……たつき……さん……」
龍月の手は、桔平の銃を握る右手を包んだ。桔平が我に返った様に龍月を見た。呼吸がだんだんと遅くなっていく。
するり。と、銃が桔平の手を離れた。龍月は素早くセイフティーをかけて、桔平の肩を抱いた。ゆるゆると、桔平はその場にしゃがみこむ。
龍月は、桔平を支えた。龍月に顔をうずめた桔平は、声を押し殺して泣いていた。
「ごめんね、平ちゃん。辛い想いをさせて、ごめん。」
龍月は、天井を睨み、姿を現した
Luisに銃を手渡す。
Luisは、うなづいた。日向の下へ。その刹那。Luisは、CIAを見た。
「!!」
響いたのは、銃声2発。そして、叫び声。硝煙反応を示すのは、Luisが握っている銃だった。
「これで、手打ちにしましょう。もしも、まだ気が済まないのなら……。」
Luisは、英語で日向に言った。俺が、この2人を殺しますよ。と。
日向は、目を見開いた。龍月は、桔平を庇うように抱えた。
「私は、Mr.
新極とは、
本国で少し、接点が合ったんです。」
尊敬してましたよ。Luisは、慈悲的に口にした。
知らなかった。そもそもFBIとCIAは普段接点はないときく。アメリカ国内での仕事が被るとするなら、外国からのスパイ対処くらいだと。龍月は、Luisを見る。
Luisは、脚を撃ち抜いたCIAを蔑んだ目で見下ろしていた。怒気を含んでいる。
感情を露わにするLuisは、あまり見たことがない。基本的にクールなイメージだ。
日本にいるときは、髪を黒にしているが、地毛は金に近い茶髪。スペインの血を引いているからか、肌は、オリーブ色に近く、本来の目の色は、青だ。今は、カラコンをいれているが。
全体的にシャープで、中国系アメリカ人としては、日本に馴染みやすい風貌。どちらかというと小柄で、少年のような雰囲気もある。
「だから、任せてください。……繋ぎますよ。Mr.新極の想い。我々が。Mr.日向。貴方はこれからも日本国を守ってください。」
日向は、深い溜息をついた。Luisは、CIAの拘束を解いて、2人の止血をさせた。他の4人は、恐ろしいものを見るような目で、Luisを。それから姿は見えない、JOKERを。観た。
こうやって、悪を繋いでいくのだ。JOKERは。このCIAを暗い底へ沈め、頭も出ない、出させない程の圧倒的な力で。龍月は今更ながら、寒気がした。
「ありがとう。申し訳なかった。……私は、罪をおかした。償う。桔平くん……すまない。」
日向さんは、冷静さを取り戻してそういったが、おそらくSDSは、許すだろう。と、龍月は再び天を観た。日向さんは、桔平を川崎駅まで拉致した男と、車でここへ連れてきた男たちの無罪を主張した。理由も聞かず従ってくれた元部下だ。と。日向さんの古巣―――公安の。だろう。
SDSとも繋がっていて、元裏理事官。バレるのは、承知の上だっただろうに。それでも、許せなかったという想い。憎しみ。少し、理解はできる。
でも、やはり、罪を犯したとしても法で裁かれるべきだ。
と、龍月は思い、少しの疑問符がついてしまったことを強制的に払拭した。
Luisに先に行っていい。と、言われ、桔平を連れて地上へと続く螺旋階段を昇る。今いたB3階の天井が触れられる辺りで異変に気が付いた。
「ワタシ。
逸平に助けられた。命、惜しくないね。」
中国語訛り。
宋扶郎だった。
どこに居た?いつから居た?龍月は階段を降りようか迷って、思い留まった。桔平が最優先だ。もう、間違わない。と。
宋扶郎は、何かを手に持ってわめいているようだ。
自分の上着をめくる。まるで、映画のようだ。宋扶郎は、全身にダイナマイトのようなものを巻いていた。アナログでシンプルだが、殺傷力は、強力だし、銃も使えない。宋扶郎は、徐ろにライターを上げた。CIAに近づく。
「……ちょっと、平ちゃん。耳ふさいで、伏せてて。」
龍月は、同じ高さになった天井付近に這っている水道管を目でたどる。丁度、宋扶郎の上を狙えば、水が降る計算だった。
後のことは考えていない。JOKERに任せてやれ。と、龍月は、苦笑して、学ランの下に装着したホルスターから銃を抜いた。
できれば使いたくない。慣れているハズもないし、上手いわけがない。でも、人を撃つわけじゃない。誤射してしまわぬよう細心の注意。大丈夫。結構管は、太い。と、龍月は葛藤しながら、慎重に照準を定めた。
少しでも気を反らせれば、Luisが何とかしてくれる。多分。
幸いこっちには気づいていない。今だ。
「……。」
思いの外、銃の衝撃は、大きくはなかった。
龍月の狙い通り、弾丸は、水の通る管に当たり、シャワーのように宋扶郎の上から降り注いだ。ライターもダイナマイトらしきものも、濡れただろう。
銃声と、降り注ぐ水。虚を衝かれた下のフロアー。一瞬の隙に2人のCIAは逃げ出した。
Luisが後を追う。CIAは、すぐ傍のスロープを一目散に昇った。
龍月は思わず声を上げた。そこは、ダメだ。と。
ここへ来る道すがら、海ほたるの構造をチェック、全て頭に入れた。
このスロープの先は……。
CIAは、龍月の制止もきかず、我先へと出口に飛び出して行ってしまった。
どんっ。と、いう鈍い大きな音。車の急ブレーキ音。何かが壊れ、割れる音が聞こえた。
ここからでは伺い知ることはできなかったが、想像は容易い。そのスロープは、アクアライン道路からの避難用。つまり、出口を出てすぐに車両が通っているのだ。
Luisはきっと、間に合わなかっただろう。
―――
Ace。後は、こちらで。早く桔平を安全なところへ連れて行ってあげな。
Good Job。JOKERは優しい声音で囁き、以降通信が途絶えた。
運転手や同乗者に被害がないといいのだが。と、龍月は憂いだが、自分がやれること、やるべきことは、桔平を守ることだ。と、言い聞かせた。
「……。」
すっかり、いつもの桔平に戻ったようだ。
何とも冷たい。いや、呆れた表情で、龍月を見ていた。
苦笑で応えると、置いていきますよ。と、鼻で笑われ、先を昇っていく。
日常、平常。これでいい。これが、いい。
「……平ちゃん、よく頑張った。本当、ごめんな。」
龍月の謝罪に桔平は、俺のヒーローなんでしょ。
ヘマしないでくださいよ。
これからも。と、語尾を強めて言った。
桔平の頬は、少し、赤かった。
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