♦JとKの約束
♣
20
ここ数ヶ月。特に
Caucus Raceからは、ほぼ毎日、
桔平を気にかけ、出来る限り桔平の教室に足を運んでいた。カゲは、知っていたのだろう。
―――お前の猟犬に挨拶してやったんだ。
生徒会会議の後。電話越しに教室で言った同じセリフをカゲは、口にした。
桔平たちにちょっかいを出した理由。
龍月は、溜息をついた。
カゲは、こうも言った。
―――猟犬が使えなければ即、切り捨てろ。荷物を背負うな。
電話の向こうだというのに、冷めたカゲの目が観えた。
釘を刺し、嘲笑ったのはカゲの額の刀傷だったか。
「……来年。楽しみにしてろよ。」
龍月は思わず青空に呟いた。
由比ヶ浜から吹いてくる海風。少し、肌寒い。
桔平に鬼が笑う。と、言われたが、龍月は、本気で笑わせるつもりはなかった。来年になれば、龍月の自慢の
トリオ。が、入学してくる。
諒に生徒会長になってもらう。桔平も
宗尊も、居る。
カゲ……お前も。と、龍月は立影に思いを馳せて、一抹の不安を覚えた。
カゲ―――
立影。とは、幼いころからの知り合いだ。横浜の族、
YOKOHAMA BAY ROADの4代目総長で、
B×Bのトップ、
滄 氷風や、立影の兄、
立樹と一緒によく遊んだ仲だった。
荒っぽく、好戦的な性格で、一見身勝手な言動をするが、意図がある。
……今度。ゆっくり話してみるか。と、龍月は、何か思うところがあるのかも。と考えて、立影にLINEを入れた。すぐに既読にならないことは、承知。立影は、基本的にスマホを重視していない。
龍月は、白スマホをポケットにしまい、勝手知ったる
飛龍組本部の門をくぐった。
迷路のような地下道を、迷いなく進み、指定された部屋の扉を開いた。
珍しく、今日の“Aのお茶会”は、
対面だった。“オフ会”とでもいうか。
とはいえ、扉を開いた先にある部屋は、無機質で、電子機器に囲まれた、未来的、仮想的で少し笑えた。
でも、いつもの
Heartのイスはないし、平衡感覚も狂わされないから安心だ。そんな空間で龍月を迎えたのは、4人。
JOKERは、リアルでもチェシャ猫のような笑みをして、アーモンド形の瞳を細め、
Diamondの
Aceは、金髪青目。
ClubのAceは、陽気に笑い、
SpadeのAceは、妖艶に口元を緩めた。
龍月は、4人を見渡して、少し唇を尖らせた。
歌舞伎町の強盗事件の時と同じく。せめてもの反抗だった。
でも。と、龍月は4人を軽く睨んだ。
今回は、悪シュミどころの話ではない。JOKERは、
日向さんにも盗聴器をつけていた。情報をわざと漏らし、CIAを襲わせたのだ。桔平が拉致られることも想定に入っていたはずだ。ならば、事前に言ってくれてもいいではないか。自分が気づかなければ、教えないつもりだったのだろう。
「わかりやすくご立腹かい。かわいいね。」
JOKERは笑った。
龍月。と、DiamondのAce―――
Luisは、JOKERの言葉の後に諭すように言った。
確度の低い事象は、特に。広く伝えるのは混乱を招く。と。
「リスキーなんだ。色々な意味でな。漏れる可能性も上がる。日向が桔平をラチるか否か、ギリギリまで不明だった。」
Luisが言うことは最もだった。想定しなかった―――できなかった自分の非だ。と、龍月が反省の色を示すと、言った通り、龍月に非はない。と、Luisは、優しく龍月の頭を撫でた。
「何もなければOK。あった時は……そのために
Dに準備させた。」
そういうことだよ。と、JOKERは言って、予想通り龍月から連絡が来た。むしろ自分の能力を誇るべきだよ。と、Luisの反対側から頭を撫でた。
何だか、幼少のころを思い出して、少し恥ずかしくなった。
自分は、このメンツの中で劣る。全く対等ではない。事実を改めて突きつけられた気がして子供じみたことをした。龍月は、すみません。と、言葉にする。
「いや、全く卑下する必要はない。俺のあの言葉で瞬時に全てを察し、ペンダントにも気づいたんだろ。俺には想像以上だったよ。逆に見くびってた。悪かったな。」
Luisの称賛に、もっと早く気づけたかもしれませんが。と、前置き、でも一言だけ。“JOKERの煽り”は、承服できません。と、JOKERを睨んだ。
「うおっ、と。……こわっ。」
JOKERは、龍月の頭に置いていた手を瞬時に放して、降参のポーズ―――両手を上げた。そして、チェシャ猫の笑み。
「桔平は、大丈夫だと思ってたよ。だって、龍月が居たじゃん。」
JOKERは、しゃあしゃあと言った。日向に対しても、試したんだ。と。
あの場で、もしCIAを撃つようなら、D―――Luis。が対処したさ。と、加えた。龍月に見透かすような目を向けた。
「あの時、龍月は何っていうつもりだった?当然、覚えてたよね。」
あの時。
日向さんが
逸平さんを殺したCIAを教えろ。と、言った時。もちろん、言うつもりなどなかった。でも、だとしたら、日向さんは、どうしただろうか。わからない。わからないが、もっと別の方法があったはずだ。CIAを囮に。なんて、絶対
海昊さんの策じゃない。龍月は無言でJOKERを見つめた。
今は、何も言えない。
でも、やはり悔しいから、これだけは言ってやる。
「
また、
扇帝くんに言いつけますよ。」
どうせ、Caucus Raceの件は、俺からだってバレてるはず。子供じみたついでに。と、龍月は頬を膨らませた。
「うーわ。ひどいなぁ。扇帝くんにはさ、昔約束したことが未だに有効なんだよねぇ。カンベンしてよ。」
詳細は知らないが、扇帝とJOKERの間には、
何かある。のは、察していた。
天敵。難敵。そんな類だろう。だた、JOKERは、悪びれない。
そんな様子を見ていたSpadeのAce―――
零己。が、扇帝くん、綺麗な顔して、恐いよね。と、こちらも悪びれず、龍月にすごいね。と、言った。
「銃で水道管、狙い撃ち。」
Caucus Raceで自分がしたことなど、すっかり忘れているかのような口調。
龍月は、撃ちたくありませんでしたし、今後もしたくないです。と、言い切った。
「それは、覚悟のない負け犬のセリフだ。」
いつもは顔を伏せていたり、ウォッカを飲み過ぎて酔っぱらってる、陽気、笑顔。がイメージのClubのAceの声が、一瞬誰のものなのか判らなかった。
思わず龍月は、唾をのんだ。
「なんてね。龍月くんに銃なんて似合わないよ。」
そのために僕らがいるんだし。と、ClubのAceはいつもの笑顔で言ったが、覚悟のない負け犬。と、龍月は頭の中で反芻した。
確かに、“腕”がなければ命取りにもなるだろう。
守りたいなら、命を取りたくないなら、逆に“腕”を磨け。そう、言われたのだ。
事実、Luis―――
琉生。くんは、日向さんを止めて見せた。どのくらいのキョリがあったか。正確に日向さんの銃を持つ手にあてた。
ClubのAceは、にっこり笑うが、この人も食えない。
天然パーマ黒髪に、大きな黒瞳。褐色の肌。は、日本人ではない。サウジアラビア生まれ、ロシア育ち。と、聞いた。そして、一流のスナイパー。だと。実戦で、戦争で、人を撃ってきた人だ。躊躇したら即死。そんな世界。
だから、間違ってはいない。でも、慣れたくない。龍月は自分の手を見た。
銃を撃つのは、初めてではないが、消えない、あの銃の、殺人を内包する重み。緊張感。
「龍月に銃をもたせるのは、俺は、反対だったんだ。今でもだ。」
Luisが慈悲的に言う。
龍月は、“追剥”を思い出して、そうは見えなかったんですけど。と、口にしてClubのAceに笑われた。
良く言うよ。と、JOKERも笑った。
「龍月を試したんでしょ。お見逸れしただろうに。」
……えっ。と、龍月は、Luisを見る。
Luisは、急に少年のような、いたずらっ子の様に笑った。
「悪い。あの中国人―――
宋扶郎。は、サクラだ。」
えっ、え―――!と、思わず叫んだ。
今どきダイナマイト巻いて自死はないだろ。バレてると思ったんだけどな。と、Luis。マジか。と、龍月は、呟いて一瞬考える。4人にも間ができた。
何で……まさか。
「ほら、自分が冷静じゃない時、他人がさらに冷静じゃないと、我に返る説。あるだろ。」
Luisは、そういって、龍月の思考を止めた。
日向を止めるため、元スパイである宋扶郎を使った。否、お願いしたんだ。と。
龍月には、言い訳にも聞こえた。
結果、CIAの2人は、死んだからだ。未必の故意。
「……宋扶郎は、逸平さんの良い置き土産だよ。」
……逸平さんとの関係もまさか、ウソ。じゃないよな。龍月は胸中で疑った。
アメリカで接点があったといった。尊敬していた。と。日向さんの代わりにCIAを殺す。といったのはブラフとしても、あれは、あの時の琉生くんの表情にウソはなかった。
いや、母さんなら見抜けるかもしれないが、今の俺じゃ判断しかねる。
龍月は、Luisがこの中で一番庶民感覚が近く、人間味がある。と、思った事を撤回したくなった。Luisは、至って平然と龍月を見ているようで、心中で含み笑いをしているようにも観えた。
事実、結果として、残りのCIA4人は、取り込まれた。完全に手中だ。
「まあ、
繋ぐ奴らも選びたいよねぇ。悪徳警官さん。」
JOKERは、龍月の思考を読んだのか、Luisに言う。だが、龍月への返答だったのか、Luisへのカマかけだったのか、こちらも判らせない
表情。
Luisも飄々と肩をすくめただけだ。
やっぱり、“Aのメンツ”は……と、龍月は思う。
「今、こいつらバケモンや。って、思うとるやろ。」
突然、隣の部屋から
総士朗が姿を現した。大きな段ボールを抱えている。
JOKERが、お。総士朗くん、待ってたよ。と、目を輝かせた。
総士朗は、JOKERを一瞥した。次に龍月を見る。
「龍月。お前も大概や。バケモンに近づいとうで。しかも、ものすご、早いスピードでな。海昊さんかて、腰抜かすわ。」
いえた。と、JOKER。3人ともうなづいたが、何か得心がいかない。と、龍月は眉をひそめた。
JOKERは、総士朗から段ボールを受け取って、机の上に置いた。
「でもさ、龍月の良い所はさ。
心がある。ってとこなんだよね。」
JOKERの表情は、穏やかで、至極優しい。
Missionに応えるだけでなく、対象―――今回は、桔平。の背景をしっかり確認、把握して導いた。周りを上手に扇動し、正解のルートへベクトルを向かわす。その手腕。絶賛だよ。と。
「
Agitatorの片鱗。かな。」
JOKERの言葉。聞き返すと、こっちの話。と、スルーされた。
どうやらものすごく褒められたようだが、やはり、龍月自身は、未熟を痛感していた。
Aのメンツは、常に何手も先を読み、あらゆる事に精通している。
唐突に思い出した。JOKERと零己と昔、チェスをした。
足元にも及ばなかった。その考え、スピード。全て。
もっと、自分を磨かないと。俺こそ、“約束”を守るために。と、桔平を思って決意を新たにした。
「そうそう。はい。報酬。そして、高校進学祝いに、誕生日。」
先程の段ボールをJOKERは、指した。龍月は、段ボールの中を覗いた。
大小形も様々な……物。何だ、これ。と、龍月は、JOKERを見る。
JOKERから初めて“プレゼント”としてもらったのは、今でも使っている黒スマホだった。といっても、今のは、当初にもらったスマホではなく、常に最新の物へアップデートされ続けている。
決済アプリに登録された“利用枠無制限”のクレカ。も。領収書のいらない経費だ。と、いわれた。インカムもそうだが、Missionの報酬。と、銘打ってもらったものは、他にもたくさんある。
「ああ。こいつは、もう
タダのネックレスや。ありがたくもらっとき。」
総士朗から手渡されたのは、零己からもらったクロムハーツだった。
“海ほたるの件”の後、銃と一緒に返却した。総士朗は、段ボールにアゴをしゃくった。つまり、これらは、
タダの物ではない―――盗聴器。
龍月は、良く整った眉をしかめた。
箱形はもとより、ペンダント、指輪、ピアス。などのアクセサリーから、ペンや筆箱などの筆記用具。その他、色々。これら全てに盗聴器が仕込まれている。ようだ。
「因みに、盗撮はしてなかったよ。安心しなね。」
JOKERは、嬉しそうに口にする。意外と女っ気ないんだな。などと、Luisがにやにやした。龍月は、やっぱもっと早く気づくべきだった。と、後悔した。
使い方は任せる。と、言われて、一瞬、Aのメンツに……と、邪な考え。龍月は、溜息をついた。心中で。きっと、想定内。だ。と。
一応信頼はされているのだろうが、どうとでもなる。と、思われているに違いない。悔しいなぁ。と、龍月は、皆を見渡して、ありがとうございます。と、口にした。
大量の盗聴器の入った段ボールを受け取る。
対面の理由か。と。改めて思う。
「これ、どこ仕舞っとけばいんですか、一体……」
っていうか。電車で持って帰るのかよ。と、龍月は、もう一度溜息を吐いた。
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あとがき
こんにちは、湘です。
とある事情で、期限付きですが、独身生活?しています。故に創作活動、HPUPが進む進む。この調子でつっぱしります!
龍月ストーリー第三弾です。
第一弾からは、どんどん過去にさかのぼってます。
空との間、10年をすこしずつ埋めていく感じです。
この数か月後が、
Over The Topと
UNTITLEDです。そして
♥ Qの憂鬱 ♥をはさんで、Over The Topが終話。
Be Naturalへって流れです。
今作は、龍月が中3から高1へ進級する2022年のお話。少し幼い龍月を描いてみました。意外というか、かわいいな。こいつ。と、龍月を描いてて思った湘です。僕の宿敵?紊駕の息子なのに!それは、僕の心境の変化なのでしょうか。w
桔平のキャラ。あいかわらず偏屈ですが、龍月に対する揺るぎない気持ちのスタートの話になりました。「Qの憂鬱」や、「Over The Top」でのさりげないお手伝い?とかも想像していただけたなら、嬉しいです。
カゲのキャラ。伏線。なのですが、ちょっと目立ち過ぎた!!
乞うご期待で!
ではでは、次の物語で。
2024.10.21.湘