JとKの約束


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ここ数ヶ月。特にCaucus Raceコーカス・レースからは、ほぼ毎日、桔平きっぺいを気にかけ、出来る限り桔平の教室に足を運んでいた。カゲは、知っていたのだろう。

―――お前の猟犬に挨拶してやったんだ。

生徒会会議の後。電話越しに教室で言った同じセリフをカゲは、口にした。
桔平たちにちょっかいを出した理由。龍月たつきは、溜息をついた。

カゲは、こうも言った。

―――猟犬が使えなければ即、切り捨てろ。荷物を背負うな。

電話の向こうだというのに、冷めたカゲの目が観えた。
釘を刺し、嘲笑ったのはカゲの額の刀傷だったか。

 「……来年。楽しみにしてろよ。」

龍月は思わず青空に呟いた。
由比ヶ浜から吹いてくる海風。少し、肌寒い。

桔平に鬼が笑う。と、言われたが、龍月は、本気で笑わせるつもりはなかった。来年になれば、龍月の自慢のトリオ・・・。が、入学してくる。りょうに生徒会長になってもらう。桔平も宗尊むねたけも、居る。

カゲ……お前も。と、龍月は立影に思いを馳せて、一抹の不安を覚えた。
カゲ―――立影たつかげ。とは、幼いころからの知り合いだ。横浜の族、YOKOHAMA BAY ROADヨコハマ ベイ ロードの4代目総長で、B×Bビービーのトップ、滄 氷風あおい ひかぜや、立影の兄、立樹りつきと一緒によく遊んだ仲だった。

荒っぽく、好戦的な性格で、一見身勝手な言動をするが、意図がある。
……今度。ゆっくり話してみるか。と、龍月は、何か思うところがあるのかも。と考えて、立影にLINEを入れた。すぐに既読にならないことは、承知。立影は、基本的にスマホを重視していない。

龍月は、白スマホをポケットにしまい、勝手知ったる飛龍組ひりゅうぐみ本部の門をくぐった。
迷路のような地下道を、迷いなく進み、指定された部屋の扉を開いた。

珍しく、今日の“Aのお茶会”は、対面リアルだった。“オフ会”とでもいうか。
とはいえ、扉を開いた先にある部屋は、無機質で、電子機器に囲まれた、未来的、仮想的で少し笑えた。

でも、いつものHeartハートのイスはないし、平衡感覚も狂わされないから安心だ。そんな空間で龍月を迎えたのは、4人。

JOKERジョーカーは、リアルでもチェシャ猫のような笑みをして、アーモンド形の瞳を細め、DiamondダイヤモンドAceエースは、金髪青目。ClubクラブのAceは、陽気に笑い、SpadeスペードのAceは、妖艶に口元を緩めた。

龍月は、4人を見渡して、少し唇を尖らせた。
歌舞伎町の強盗事件の時と同じく。せめてもの反抗だった。

でも。と、龍月は4人を軽く睨んだ。
今回は、悪シュミどころの話ではない。JOKERは、日向ひゅうがさんにも盗聴器をつけていた。情報をわざと漏らし、CIAを襲わせたのだ。桔平が拉致られることも想定に入っていたはずだ。ならば、事前に言ってくれてもいいではないか。自分が気づかなければ、教えないつもりだったのだろう。

 「わかりやすくご立腹かい。かわいいね。」

JOKERは笑った。
龍月。と、DiamondのAce―――Luisルイスは、JOKERの言葉の後に諭すように言った。
確度の低い事象は、特に。広く伝えるのは混乱を招く。と。

 「リスキーなんだ。色々な意味でな。漏れる可能性も上がる。日向が桔平をラチるか否か、ギリギリまで不明だった。」

Luisが言うことは最もだった。想定しなかった―――できなかった自分の非だ。と、龍月が反省の色を示すと、言った通り、龍月に非はない。と、Luisは、優しく龍月の頭を撫でた。

 「何もなければOK。あった時は……そのためにDディーに準備させた。」

そういうことだよ。と、JOKERは言って、予想通り龍月から連絡が来た。むしろ自分の能力を誇るべきだよ。と、Luisの反対側から頭を撫でた。

何だか、幼少のころを思い出して、少し恥ずかしくなった。
自分は、このメンツの中で劣る。全く対等ではない。事実を改めて突きつけられた気がして子供じみたことをした。龍月は、すみません。と、言葉にする。

 「いや、全く卑下する必要はない。俺のあの言葉で瞬時に全てを察し、ペンダントにも気づいたんだろ。俺には想像以上だったよ。逆に見くびってた。悪かったな。」

Luisの称賛に、もっと早く気づけたかもしれませんが。と、前置き、でも一言だけ。“JOKERの煽り”は、承服できません。と、JOKERを睨んだ。

 「うおっ、と。……こわっ。」

JOKERは、龍月の頭に置いていた手を瞬時に放して、降参のポーズ―――両手を上げた。そして、チェシャ猫の笑み。

 「桔平は、大丈夫だと思ってたよ。だって、龍月が居たじゃん。」

JOKERは、しゃあしゃあと言った。日向に対しても、試したんだ。と。
あの場で、もしCIAを撃つようなら、D―――Luis。が対処したさ。と、加えた。龍月に見透かすような目を向けた。

 「あの時、龍月は何っていうつもりだった?当然、覚えてたよね。」

あの時。
日向さんが逸平いっぺいさんを殺したCIAを教えろ。と、言った時。もちろん、言うつもりなどなかった。でも、だとしたら、日向さんは、どうしただろうか。わからない。わからないが、もっと別の方法があったはずだ。CIAを囮に。なんて、絶対海昊かいうさんの策じゃない。龍月は無言でJOKERを見つめた。

今は、何も言えない。
でも、やはり悔しいから、これだけは言ってやる。

 「また・・扇帝みかどくんに言いつけますよ。」

どうせ、Caucus Raceの件は、俺からだってバレてるはず。子供じみたついでに。と、龍月は頬を膨らませた。

 「うーわ。ひどいなぁ。扇帝くんにはさ、昔約束したことが未だに有効なんだよねぇ。カンベンしてよ。」

詳細は知らないが、扇帝とJOKERの間には、何かある・・・・。のは、察していた。
天敵。難敵。そんな類だろう。だた、JOKERは、悪びれない。

そんな様子を見ていたSpadeのAce―――零己れいき。が、扇帝くん、綺麗な顔して、恐いよね。と、こちらも悪びれず、龍月にすごいね。と、言った。

 「銃で水道管、狙い撃ち。」

Caucus Raceで自分がしたことなど、すっかり忘れているかのような口調。
龍月は、撃ちたくありませんでしたし、今後もしたくないです。と、言い切った。

 「それは、覚悟のない負け犬のセリフだ。」

いつもは顔を伏せていたり、ウォッカを飲み過ぎて酔っぱらってる、陽気、笑顔。がイメージのClubのAceの声が、一瞬誰のものなのか判らなかった。
思わず龍月は、唾をのんだ。

 「なんてね。龍月くんに銃なんて似合わないよ。」

そのために僕らがいるんだし。と、ClubのAceはいつもの笑顔で言ったが、覚悟のない負け犬。と、龍月は頭の中で反芻した。

確かに、“腕”がなければ命取りにもなるだろう。
守りたいなら、命を取りたくないなら、逆に“腕”を磨け。そう、言われたのだ。

事実、Luis―――琉生るい。くんは、日向さんを止めて見せた。どのくらいのキョリがあったか。正確に日向さんの銃を持つ手にあてた。

ClubのAceは、にっこり笑うが、この人も食えない。
天然パーマ黒髪に、大きな黒瞳。褐色の肌。は、日本人ではない。サウジアラビア生まれ、ロシア育ち。と、聞いた。そして、一流のスナイパー。だと。実戦で、戦争で、人を撃ってきた人だ。躊躇したら即死。そんな世界。

だから、間違ってはいない。でも、慣れたくない。龍月は自分の手を見た。
銃を撃つのは、初めてではないが、消えない、あの銃の、殺人を内包する重み。緊張感。

 「龍月に銃をもたせるのは、俺は、反対だったんだ。今でもだ。」

Luisが慈悲的に言う。
龍月は、“追剥”を思い出して、そうは見えなかったんですけど。と、口にしてClubのAceに笑われた。
良く言うよ。と、JOKERも笑った。

 「龍月を試したんでしょ。お見逸れしただろうに。」

……えっ。と、龍月は、Luisを見る。
Luisは、急に少年のような、いたずらっ子の様に笑った。

 「悪い。あの中国人―――宋扶郎ソンフーラン。は、サクラだ。」

えっ、え―――!と、思わず叫んだ。
今どきダイナマイト巻いて自死はないだろ。バレてると思ったんだけどな。と、Luis。マジか。と、龍月は、呟いて一瞬考える。4人にも間ができた。

何で……まさか。

 「ほら、自分が冷静じゃない時、他人がさらに冷静じゃないと、我に返る説。あるだろ。」

Luisは、そういって、龍月の思考を止めた。
日向を止めるため、元スパイである宋扶郎を使った。否、お願いしたんだ。と。
龍月には、言い訳にも聞こえた。
結果、CIAの2人は、死んだからだ。未必の故意。

 「……宋扶郎は、逸平さんの良い置き土産だよ。」

……逸平さんとの関係もまさか、ウソ。じゃないよな。龍月は胸中で疑った。
アメリカで接点があったといった。尊敬していた。と。日向さんの代わりにCIAを殺す。といったのはブラフとしても、あれは、あの時の琉生くんの表情にウソはなかった。
いや、母さんなら見抜けるかもしれないが、今の俺じゃ判断しかねる。

龍月は、Luisがこの中で一番庶民感覚が近く、人間味がある。と、思った事を撤回したくなった。Luisは、至って平然と龍月を見ているようで、心中で含み笑いをしているようにも観えた。
事実、結果として、残りのCIA4人は、取り込まれた。完全に手中だ。

 「まあ、繋ぐ奴らも選びたい・・・・・・・・・よねぇ。悪徳警官さん。」

JOKERは、龍月の思考を読んだのか、Luisに言う。だが、龍月への返答だったのか、Luisへのカマかけだったのか、こちらも判らせない表情カオ
Luisも飄々と肩をすくめただけだ。
やっぱり、“Aのメンツ”は……と、龍月は思う。

 「今、こいつらバケモンや。って、思うとるやろ。」

突然、隣の部屋から総士朗そうしろうが姿を現した。大きな段ボールを抱えている。
JOKERが、お。総士朗くん、待ってたよ。と、目を輝かせた。
総士朗は、JOKERを一瞥した。次に龍月を見る。

 「龍月。お前も大概や。バケモンに近づいとうで。しかも、ものすご、早いスピードでな。海昊さんかて、腰抜かすわ。」

いえた。と、JOKER。3人ともうなづいたが、何か得心がいかない。と、龍月は眉をひそめた。
JOKERは、総士朗から段ボールを受け取って、机の上に置いた。

 「でもさ、龍月の良い所はさ。ハートがある。ってとこなんだよね。」

JOKERの表情は、穏やかで、至極優しい。
Missionに応えるだけでなく、対象―――今回は、桔平。の背景をしっかり確認、把握して導いた。周りを上手に扇動し、正解のルートへベクトルを向かわす。その手腕。絶賛だよ。と。

 「Agitatorアジテーターの片鱗。かな。」

JOKERの言葉。聞き返すと、こっちの話。と、スルーされた。
どうやらものすごく褒められたようだが、やはり、龍月自身は、未熟を痛感していた。
Aのメンツは、常に何手も先を読み、あらゆる事に精通している。

唐突に思い出した。JOKERと零己と昔、チェスをした。
足元にも及ばなかった。その考え、スピード。全て。

もっと、自分を磨かないと。俺こそ、“約束”を守るために。と、桔平を思って決意を新たにした。

 「そうそう。はい。報酬。そして、高校進学祝いに、誕生日。」

先程の段ボールをJOKERは、指した。龍月は、段ボールの中を覗いた。
大小形も様々な……物。何だ、これ。と、龍月は、JOKERを見る。

JOKERから初めて“プレゼント”としてもらったのは、今でも使っている黒スマホだった。といっても、今のは、当初にもらったスマホではなく、常に最新の物へアップデートされ続けている。
決済アプリに登録された“利用枠無制限”のクレカ。も。領収書のいらない経費だ。と、いわれた。インカムもそうだが、Missionの報酬。と、銘打ってもらったものは、他にもたくさんある。

 「ああ。こいつは、もうタダの・・・ネックレスや。ありがたくもらっとき。」

総士朗から手渡されたのは、零己からもらったクロムハーツだった。
“海ほたるの件”の後、銃と一緒に返却した。総士朗は、段ボールにアゴをしゃくった。つまり、これらは、タダの・・・物ではない―――盗聴器。
龍月は、良く整った眉をしかめた。


箱形はもとより、ペンダント、指輪、ピアス。などのアクセサリーから、ペンや筆箱などの筆記用具。その他、色々。これら全てに盗聴器が仕込まれている。ようだ。

 「因みに、盗撮はしてなかったよ。安心しなね。」

JOKERは、嬉しそうに口にする。意外と女っ気ないんだな。などと、Luisがにやにやした。龍月は、やっぱもっと早く気づくべきだった。と、後悔した。

使い方は任せる。と、言われて、一瞬、Aのメンツに……と、邪な考え。龍月は、溜息をついた。心中で。きっと、想定内。だ。と。
一応信頼はされているのだろうが、どうとでもなる。と、思われているに違いない。悔しいなぁ。と、龍月は、皆を見渡して、ありがとうございます。と、口にした。

大量の盗聴器の入った段ボールを受け取る。対面リアルの理由か。と。改めて思う。

 「これ、どこ仕舞っとけばいんですか、一体……」

っていうか。電車で持って帰るのかよ。と、龍月は、もう一度溜息を吐いた。




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あとがき

こんにちは、湘です。
とある事情で、期限付きですが、独身生活?しています。故に創作活動、HPUPが進む進む。この調子でつっぱしります!

龍月ストーリー第三弾です。
第一弾からは、どんどん過去にさかのぼってます。SORAとの間、10年をすこしずつ埋めていく感じです。

この数か月後が、Over The TopUNTITLEDです。そして Qの憂鬱 をはさんで、Over The Topが終話。Be Naturalへって流れです。

今作は、龍月が中3から高1へ進級する2022年のお話。少し幼い龍月を描いてみました。意外というか、かわいいな。こいつ。と、龍月を描いてて思った湘です。僕の宿敵?紊駕の息子なのに!それは、僕の心境の変化なのでしょうか。w

桔平のキャラ。あいかわらず偏屈ですが、龍月に対する揺るぎない気持ちのスタートの話になりました。「Qの憂鬱」や、「Over The Top」でのさりげないお手伝い?とかも想像していただけたなら、嬉しいです。

カゲのキャラ。伏線。なのですが、ちょっと目立ち過ぎた!!
乞うご期待で!
ではでは、次の物語で。

2024.10.21.湘